記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「起業したい」と検索する人は、年々急速に増えています。けれど検索した先で出てくるのは「アイデアの出し方」「事業計画書の作り方」「資金調達」といった、すでに方向性が決まっている人向けの情報ばかり。本当に必要なのは、何をやるかが決まっていない段階の40〜50代会社員が、何月何日に何を始めるかという順番です。
本記事では、起業18フォーラム代表の新井一が26年・延べ6万人以上の会社員の起業準備に立ち会ってきた経験から、「起業したい」と思った瞬間から最初の半年で押さえる7つの準備を、現実的な順番で整理します。著書『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』(東洋経済新報社)と『会社で働きながら6カ月で起業する』(ダイヤモンド社)で取り上げた考え方の中から、本記事ではAI時代に再設計した2026年版として書き直しました。
起業したい人がまず押さえる準備の全体像

「起業したい」と一口に言っても、辿る順番を間違えると、最初の半年で疲れて挫折します。中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書」によれば、小規模事業者の経営課題で最上位は「販路開拓・受注の拡大」(事業者の約42%が指摘)であり、開業時に多くの方が苦しむのもこの一点に集約されます。つまり「何を売るか」より「誰に届けるか」を先に決めない準備は、起業1年目の壁にそのまま跳ね返ってきます。
起業準備の順番は、次の7つで固定します。
- 準備1 起業の動機を一行で言語化する:
「なぜ自分が起業したいか」を一行で書ける状態にする。動機が曖昧だと半年で挫折する - 準備2 信頼できる情報源を1つに絞る:
SNSや高額商材ではなく、書籍・公的機関・コミュニティの中から自分の道しるべを1つだけ決める - 準備3 使ってよい時間と金額の上限を決める:
本業の給与口座とは別の口座を1つ作り、起業準備の費用を分離する - 準備4 起業して何を解決するかを30個の言葉で集める:
顧客の困りごとを「自分の解釈」ではなく「相手の言葉」で30個集める - 準備5 ビジネスの最小スキルを1つだけ身につける:
集客・商品設計・経理の3領域から、自分が一番弱い1つに月10時間投資する - 準備6 半年続く健康と睡眠のリズムを先に作る:
起業準備は半年〜18ヶ月の長期戦。睡眠6時間以下が続くと判断力が落ちる - 準備7 家族とパートナーの理解を、数字で共有する:
「気持ちを理解してもらう」のではなく「家計影響の数字」を共有する
この7つは順番が大事で、準備1の動機が曖昧なまま準備5のスキル習得から始めると、半年で何のために学んでいるかわからなくなり、ほぼ全員が途中で止まります。
準備1 起業の動機を一行で言語化する

「会社が嫌だから」「自由になりたいから」「老後が不安だから」。起業の相談現場で最も多い動機は、この3つの組み合わせです。けれど、この動機のままでは半年もたない、というのが26年間の現場感覚です。
動機を一行で書けないまま動き出した方の80%以上が、最初の半年で挫折します。逆に、動機を一行で書けた方は、半年後も準備を続けていることが多いのです。動機が文章になっていないと、辛い瞬間に立ち戻れる場所がなくなります。
一行に書く時のコツは、「何から自由になりたいか」を具体にすることです。「自由」という言葉のままだと曖昧ですが、「通勤の往復2時間から自由になりたい」「定年後に再雇用で給与半減する未来から自由になりたい」「子どもの行事に必ず出られる働き方を取り戻したい」と書けた瞬間に、起業準備の方向性が固まります。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』で書いた「STAGE論」では、最初のSTAGEを「マインドセットの整備」と位置づけました。マインドというと精神論に聞こえますが、実体は「動機の一行化」と「使ってよい時間・金額の確定」の2つです。
動機の一行が決まったら、その文を起業準備ノートの1ページ目に書き、毎週1回は見返してください。半年後の自分が、迷ったときに立ち戻る場所になります。
準備2 信頼できる情報源を1つに絞る

起業準備で動き出した瞬間、SNSや YouTube から「これだけで月100万円」「3ヶ月で人生が変わる」という情報が大量に流れ込んできます。情報を集めるほど、自分が何をすべきかわからなくなる現象が起きるのは、情報のほとんどが「すでに起業した人がさらに儲ける方法」だからです。これから動き出す段階の人には、構造的に合いません。
消費者庁「特定商取引法ガイド」では、近年「副業詐欺」「情報商材詐欺」の相談件数が継続的に高水準で推移していることが報告されています。「誰でも・簡単に・必ず儲かる」とうたう情報の多くは、初動の不安につけ込む構造になっています。
起業準備の最初の半年で頼る情報源は、次の3つの中から1つだけに絞ります。
- 書籍:
起業18フォーラム代表の新井一の著書8冊や、実績ある起業支援者の書籍(Amazon の起業準備カテゴリで3年以上残っているもの) - 公的機関:
中小企業庁・日本政策金融公庫・各都道府県中小企業振興公社のセミナー・配布資料(無料・宣伝目的なし) - 会員制コミュニティ:
複数の先輩起業家から直接話が聞ける場(起業18フォーラム等・会費制で広告色なし)
SNSのフォロー先は「フォローしている人数」を減らすほど判断が早くなるため、起業準備期間中はビジネス系インフルエンサーのフォローを半減させることをおすすめします。
準備3 使ってよい時間と金額の上限を決める

起業準備で家計が崩れる事例の多くは、本業の生活費口座と起業準備の費用が混ざってしまうことから始まります。専用口座を1つ作り、本業給与とは物理的に分離するだけで、判断が冷静になります。
具体的には、次の3つを最初の1週間で決めて紙に書き出してください。
- 使ってよい金額の上限:
自分の貯金額の20%以内(例:貯金200万円なら40万円が上限)。家族の貯金には手をつけない - 使ってよい時間の枠:
本業・家族時間・睡眠を引いた残りで、週何時間か(多くは平日朝1時間+土曜半日が現実的) - 撤退ライン:
ここまで使って手応えゼロなら一度立ち止まる、という金額と期間の組み合わせ(例:40万円使うか12ヶ月経過のどちらか早い時点)
この3つを家族に共有してください。「相談する」ではなく「決めた内容を見せる」のがコツです。事前に家計影響の上限を数字で見せられると、家族の不安は思った以上に下がります。
準備4 顧客の困りごとを30個の言葉で集める

起業のアイデアを考えるとき、多くの方は「自分が売れそうな商品」から出発します。けれど、これがうまくいかない最大の理由は、商品から考えると顧客の困りごとに当たらず、半年後に「誰のために作ったかわからない商品」が残るからです。
順番を逆にします。商品を考える前に、顧客が日常で口にしている困りごとを30個、相手の言葉のまま集めます。集める場所は次の3つです。
- 身近な人から聞く:
同僚・後輩・家族・友人。最近どんなことで困ったかを雑談で聞き取り、本人の言葉のままメモ - 公開の場で読む:
Yahoo!知恵袋・X(旧Twitter)・はてなブックマーク。ターゲットらしき人の生の発言を写す - 対面・通話で30分:
元同僚や取引先に30分だけ時間をもらい、最近気になっていることを語ってもらう
30個という数字には意味があります。10個では偶然のばらつきが残り、傾向が見えません。50個を最初から狙うと続きません。30個を目安に集めると、そのうち5〜7個が似た言い回しで重なる経験ができるはずで、重なった塊こそが商品の中心に据えるべき困りごとです。
準備5 ビジネスの最小スキルを1つだけ身につける

起業に必要なスキルは、突き詰めると「集客」「商品設計」「経理」の3つしかありません。残りは応用です。この3つの中で、自分が一番苦手なものに月10時間投資するのが、半年後の差を作ります。
多くの会社員にとって「集客」が一番弱いはずです。本業で「営業」と「集客」を区別せずに過ごしてきた方が多く、見込客を能動的に集める経験が乏しいからです。一方、本業が経理担当なら「経理」は強いはずなので、「集客」または「商品設計」に絞ります。
最小スキル学習の3つの注意点:
- 一度に1つだけ:
集客・商品設計・経理を同時並行で学ぶと結局どれも中途半端になる - 学ぶ前に「いつ何に使うか」を決める:
「半年後に自分の商品ページを作るためにマーケティングを学ぶ」のように目的をセットで固定 - 高額講座より書籍+実践:
20万円以上の講座は最初の半年では不要。書籍3冊と公的セミナーで十分
準備6 半年続く健康と睡眠のリズムを先に作る

起業準備で見落とされやすいのが、健康と睡眠です。睡眠が6時間を切る生活が続くと、人は冷静な判断ができなくなります。起業準備の意思決定(誰に売るか・いくらにするか・誰と組むか)はすべて冷静さが必要で、睡眠を削って学習量を増やす方法は長期で見ると致命的な遠回りになります。
具体的には、起業準備期間中の生活リズムを次のように設計します。
- 睡眠は最低7時間を死守:
起業準備時間を確保するために睡眠を削るのは禁忌。代わりに本業のダラダラ残業を削る - 朝の1時間を準備時間に固定:
夜は疲労で判断が鈍る。朝が圧倒的にコスパが良い - 週に1日は完全オフ:
土日連続で起業準備を入れると半年で燃え尽きる。日曜は家族と過ごす日に固定
準備7 家族とパートナーの理解を数字で共有する

起業準備で家族との関係が悪化する事例の多くは、「理解してもらおうとして気持ちを伝えた」結果に起きます。気持ちは伝わりにくい一方、家計影響の数字は伝わりやすいのです。準備3で決めた「使ってよい金額の上限」「使ってよい時間の枠」「撤退ライン」の3つを紙に書き出して、家族に見せてください。
拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、「ドリームキラー」という言葉で家族からの反対を取り上げました。ドリームキラーは悪意ではなく心配で止めることがほとんどで、家計影響が見える化されると、心配の対象が消えて反対が応援に変わっていきます。
会員さんの事例|自己流で挫折した黒木さんの軌道修正

起業18フォーラムの会員さんの黒木さん(仮名・47歳・東京のIT企業で人事部長・既婚・小学生の子2人)は、当初「会社の評価制度を作る経験を活かしてコンサルとして独立したい」と考え、自己流で名刺と商品ページを作って動き出しました。最初の半年は知人に告知しても問い合わせがほぼ来ず、消耗してしまったそうです。
起業18フォーラムの勉強会で「7つの準備の順番」を学び直し、黒木さんは一度全てをリセット。準備1の動機(「子の高校進学までに通勤2時間から自由になりたい」)を一行で書き直し、準備4の顧客の言葉30個から始めました。集まった30個の言葉のうち、似た塊として「中堅企業の人事評価の運用が形骸化している」という困りごとが浮かび上がったそうです。
そこから黒木さんは、コンサル販売を停止して、「中堅企業人事担当者向け・月1回の評価制度運用相談サービス」へと商品を組み直しました。会社員を続けたまま、朝1時間と土曜半日に時間を固定。準備15ヶ月目で月8万円、22ヶ月目で月15万円の継続収入になりました。家族には毎月1回、進捗と家計影響を数字で共有し続けたとのことです。
黒木さんが振り返って言うのは、商品を作る速さよりも、顧客の言葉に名前をつける細かさが半年後の差を作る、ということでした。7つの準備を順番通りに踏むだけで、自己流期の半分の時間で同じ収入ラインに届きます。
状況別|挫折しないための5つの注意点

起業準備は誰でも同じではありません。立場・家族状況・年代別に、追加で押さえておくべき点が変わります。
- 会社を辞めて起業する場合:
最低1年分の生活資金を確保。健康保険・年金の切替手続きを退職前に確認 - 会社員のまま準備する場合:
就業規則を確認し、競業避止・情報漏洩の境界線を1枚に整理。本業の評価を落とさない - 主婦の方が始める場合:
配偶者の扶養範囲・社会保険の条件・配偶者控除の変更点を税理士に1度確認 - シニア(55歳以上)の場合:
日本政策金融公庫の「女性、若者/シニア起業家支援関連融資」が選択肢に入る・スモールスタート前提で組む - 高校生・大学生の場合:
17歳以下は親権者同意が必要・在学中は学業優先の時間設計
よくある質問

Q.起業したいけれどアイデアがありません。どこから探せばよいでしょうか?
アイデアを「思いつく」のではなく、準備4の「顧客の困りごとを30個集める」から逆算するのが現実的です。30個の言葉のうち、5〜7個が似た塊で重なります。その塊が、自然と最初の商品の輪郭になります。最初から完璧なアイデアを探すと半年経っても動き出せません。
Q.お金がなくても起業の準備はできますか?
準備1〜4(動機の言語化・情報源の選定・時間と金額の上限決め・顧客の言葉集め)は全て無料でできます。お金が必要になるのは準備5以降の学習・準備6以降の試作段階からで、それでも貯金の20%以内に収まる範囲が現実的です。最初から100万円規模の投資を考える必要はありません。
Q.家族に反対されています。どう説得すればよいでしょうか?
説得は逆効果になりやすいです。家族の反対のほとんどは「心配」が原因なので、心配の対象を数字で消すのが近道です。準備3で決めた「使ってよい金額の上限」「撤退ライン」を紙に書いて見せると、反対が応援に変わることが多くあります。
Q.40代・50代で起業するのは遅すぎませんか?
日本政策金融公庫「2024年度新規開業実態調査」では、開業時の平均年齢は43.6歳・40代の構成比は37.4%で最多です。40〜50代は社会人としての経験・人脈・資金の余裕という、20〜30代にはない強みを持っています。「遅い」のではなく「違う強みで戦う」段階です。
起業準備の最初の1週間で今日できる3つの行動

本記事を読み終えた今日から、まず次の3つだけ動かしてください。
- 今日中:
準備1の「動機の一行」をノートに書く(迷ったら寝る前にもう1度書き直す) - 今週末まで:
専用口座を1つ作る(ネット銀行で15分でできる)。家族に「これは起業準備用」と共有 - 2週間以内:
準備4の顧客の言葉を10個メモする(最初の30個に向けた助走)
この3つが踏めれば、すでに「起業したい」と検索した人の上位5%に入ります。多くの方は検索だけで終わるからです。残り95%との差は、今日ノートを開くかどうかだけの差です。

起業準備は、特別な才能のある人だけのものではありません。7つの準備を順番通りに踏める方なら、半年後に確実に景色が変わります。本記事を読み終えた今日から、まず動機の一行をノートに書くところから始めてみてください。
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