記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
起業を考えているのですが、まず何か資格を取得してから始めるべきか悩んでいます。心理系のコーチング資格、中小企業診断士、または簿記を検討していますが、どれが起業に一番役立つでしょうか? 逆に、時間とお金をかけても起業には結びつかない資格があれば教えてください。資格を持っていると、お客様にも信頼してもらいやすくなるのではないかと思っているのですが、甘い考えでしょうか?

● 回答
起業に本当に役立つ資格は「独占業務がある国家資格」だけです。それ以外の民間資格は、取得そのものが起業を遅らせる落とし穴になることが多いのです。「資格を取ってから起業しよう」は一見まじめで堅実に見えますが、起業18フォーラムに届く相談のなかで「資格を取ったのに、お客様がひとりも来ない」と悩む方は本当に少なくありません。
日本政策金融公庫「2024年度新規開業実態調査」(2024年11月27日公表)によると、新規開業者のうち斯業経験(現在の事業に関連する仕事の経験)がある割合は83.1%、その平均経験年数は14.7年でした。ここから読み取れるのは、多くの起業家が新しく取得した資格ではなく、会社員時代に14年以上かけて積み上げた実務経験を武器に独立しているという事実です。kigyo18フォーラムでも、25年超の現場で見てきた成功者の大半は「資格よりも、会社員時代の経験こそが起業の核」と振り返ります。
『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』(総合法令出版・2022年)に「3つのチェック」というフレームがあります。起業のネタを評価する基準として、①一人で始められるか、②一人で続けられるか、③大きなお金がかからないか、の3点で判断するというものです。資格取得を「起業の前提条件」にしてしまうと、この3つのチェックに通る前に時間とお金がただ消えていきます。
資格が起業に役立つかどうかを分ける3類型
競合サイトでは「起業に役立つ資格○○選」というカタログ型の記事ばかりが並びます。しかしkigyo18の現場で見えてくるのは、資格は「役立つ/役立たない」ではなく、「独占業務型/信頼証明型/民間資格型」の3類型で性質が決定的に違うということです。
| 類型 | 具体例 | 起業との関係 |
|---|---|---|
| 独占業務型(国家資格) | 税理士・弁護士・司法書士・社会保険労務士・宅地建物取引士・建築士 | その資格がなければ業務自体ができない。起業の前提として必須 |
| 信頼証明型(国家資格) | 理学療法士・管理栄養士・看護師・調理師・食品衛生責任者 | 業務独占ではないが、開業時の信用形成・許認可取得の根拠になる |
| 民間資格型 | コーチング系・カウンセラー系・○○マスター・○○アドバイザー系 | 取得自体は起業の条件にならない。集客と実績で価値が決まる |
質問者さまが検討している中小企業診断士は国家資格ですが「独占業務」はなく、信頼証明型に近い性質です。簿記は民間資格(日本商工会議所主催)ですが、実務で財務諸表を扱う場面が多いため「実務で直接使える知識を得るための学習機会」として位置づけると、取得時間が無駄になりにくいです。心理系のコーチング資格は民間資格型なので、取得前に「誰のどんな悩みを解決するか」の設計を必ず先に終わらせてください。
現場で見た「資格取得→起業」の落とし穴(事例2件)
26年・延べ6万人を支援してきたkigyo18の相談データから、「資格取得→起業」で躓いた2件のパターンをご紹介します。
起業18フォーラムの会員Gさん(40代前半・大手製造業の人事部に12年在籍)は、「コーチングで起業したい」と心理系資格を2つ取得し、受講費に合計42万8千円を使いました。ところが、資格取得後も受講生がゼロのまま7ヶ月が経過しました。10ヶ月目に相談にいらしたとき、話し合いのなかで「採用担当者として面接官に伝えてきたノウハウこそ、誰かの役に立つ」という気づきが生まれました。Gさんはその後、面接官向け採用面接トレーニング講師として起業準備を再設計し、資格を一切追加せずに初月で月収22万8千円の受注を得ることができました。
会員Hさん(30代後半・女性・元保育士)は、退職後に「カラーセラピスト民間資格」と「アロマ系民間資格」を立て続けに取得しました。資格スクールの紹介で開業セミナーに参加するうちに、別の「上位資格」を勧められ、合計2年で受講費が94万円に膨らみました。kigyo18フォーラムに相談にいらしたときには貯蓄が底をつき、結果として保育士のパート復帰を選択。資格発行団体のビジネスモデルに巻き込まれ、起業ではなく「資格コレクター」になってしまうパターンの典型例です。
- 業務独占がある国家資格(税理士・宅建士・建築士・社会保険労務士など)
- 許認可取得・信用形成に直接結びつく国家資格(食品衛生責任者・防火管理者など)
- 取得した知識が開業後の実務で日常的に使われる(簿記・FPなど)
- 民間資格を取得しても集客の仕組みがなければ受講生はゼロのまま
- 「資格取得=起業の準備」と思い込み、商品設計・ターゲット選定が後回し
- 資格発行団体の上位資格・継続講座に組み込まれ、受講料が積み上がる
- 「○○の資格を持つ○○さん」という肩書き依存で、自分の名前で売る発想が消える
資格を検討する前に通すべき3つのチェック
kigyo18フォーラムの相談現場では、資格取得を検討中の方には必ず以下の3つの問いを投げかけます。
- その資格がないと、本当に始められない仕事ですか?(独占業務の有無)
- 会社員時代の経験のなかで、すでに誰かの役に立っていることは何ですか?
- 資格を取った後、最初のお客様1人をどこで・どのように見つけますか?
3つの問いに答えられないまま資格学校に申し込むことだけは避けてください。順序が逆になると、資格取得という「動いている感じ」だけが残り、起業準備の本丸である「誰のどんな悩みを解決するか」の設計が永遠に後回しになります。
「資格はないけど、経験はある」という方こそ、起業のチャンスは目の前にあります。あなたが14年以上かけて積み上げてきたものこそが、誰かにとっての宝になるのです。

資格よりも先に「経験の棚卸し」と「最初のお客様1人の特定」を進める。その順序さえ守れれば、資格はいずれ「あれば便利な道具」として後から自然についてきます。
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