記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「マネーの虎」で980万円を調達した世界一のパスタ屋「ラ・パットーラ」は、2019年3月に茅ヶ崎本店を含む全店舗が閉店しています。
閉店の原因は、経営不振でも競合の台頭でもなく、経営を引き継いだ相手との金銭トラブルが引き金になったと語られています。
志願者の立花洋さんは44歳・無職から出演し、加藤和也社長の全額投資で開業。ピーク時は年商2億2000万円・従業員50名・4店舗まで育てました。番組の名場面と開業から閉店までの17年をたどると、資金調達の成功と事業の存続はまったく別の問題だと見えてきます。

立花洋さんの現在とラ・パットーラの結末

立花洋さんの現在(2026年)
全店舗の閉店以降、立花洋さんが表に出て活動しているという情報は確認できていません。2026年7月時点でも、メディアやSNSへの登場は見当たりませんでした。
それでも、44歳・無職から店を開き、17年間にわたって顧客第一主義を実践し続けた記録は、いまも多くの開業希望者の教材になっています。
閉店の引き金となった経営を引き継いだ相手との金銭トラブル
閉店の引き金は、2017〜2018年頃に表面化した金銭トラブルだと語られています。立花さんが事業を引き継いだ相手との間で会社のお金をめぐる問題が起き、その相手はそのまま離れていったと伝えられています。
深い失意の中で、立花さんは「もう働く気も起こらなかった」と語っています。2019年3月、茅ヶ崎本店を含む全店舗が正式に閉鎖されました。
店舗の記録は食べログのラ・パットーラ 茅ヶ崎本店のページに残っており、現在は閉店の表示になっています。
980万円全額投資が決まった「マネーの虎」の名場面

「マネーの虎」は2001年から2004年まで日本テレビ系で放送された、起業志願者が「虎」と呼ばれる社長たちに事業計画をぶつける番組です。「世界一のパスタとピザのレストランチェーンを開業いたします!」という宣言から、この回は始まりました。
マネー成立の歓喜と、ノーマネーの絶望。虎たちは「その数字の根拠は?」「あなたでなければならない理由は?」と容赦なく切り込みます。この回の顔ぶれは次の通りでした。
- 堀之内九一郎(55歳当時):
年商67億円・全国規模のリサイクルショップチェーンを展開 - 南原竜樹(42歳当時):
年商55億円・オートトレーディングルフトジャパン(株)代表取締役 - 加藤和也(31歳当時):
(株)ひばりプロダクション社長・美空ひばりさんの長男 - 川原ひろし(38歳当時):
なんでんかんでんフーズ(株)社長 - 安田久(40歳当時):
年商18億円・(株)エイチ・ワイ・ジャパングループ代表取締役
ちなみに写真は、虎のひとりだった南原会長です。虎ノ門の株式会社LUFTホールディングス事務所で撮らせていただきました。

22年の現場経験と「お客様を知ることが商売」
志願者の立花さんは22歳で飲食業界に入り、最初の勤め先で7年間働いて店長職まで昇進しました。その後もロイヤルホストや横浜プリンスホテルで経験を重ね、現場歴は22年に及びます。
プレゼンの核は、料理の腕自慢ではありません。「世界一、お客様のことを考えることのできるレストランをつくります」という一点に、22年分の観察が込められていました。
コンピューターを買いに行く人の気持ちはわからなくても、お腹をすかせてごはんを食べたい人の気持ちならわかる。立花さんはそう言い切りました。食の現場に22年立ち続けた人だけが持てる確信です。
「数字」の安田社長と「人」の加藤社長
経歴の説明が終わった時点で、加藤社長が「俺出してもいいな。この人だったら」と口にします。一方、飲食業出身の安田社長は「商売としては成り立たない」と真っ向から異を唱えました。
安田社長の主張は一貫していました。トップが自分の報酬を決め、原価と利益の設計を持たなければ、従業員の生活も守れないという数字の論理です。理念だけでは飲食は続かないという、現場を知る虎ならではの指摘でした。

それでも加藤社長は「あまり儲かる気がしない」という空気の中で、980万円の全額投資を決断します。収益性ではなく、22年の経験と人間性に賭けた投資でした。
資金繰りの誤算とオープン初日の147名

開店準備が始まると、すぐに現実が牙をむきます。店舗の内装費だけで480万円。調達した980万円の半分近くが、営業を始める前に消えていきました。
資金不足を補うため、立花さんは業者に頼むはずだった作業を自分でこなし、テラス席の設置も諦めました。それでも厨房では、「これは売りになる」と確信できるパスタが仕上がっていきます。
オープン当日の朝、番組MCの吉田栄作さんと交わした約束は、来客120名・売上15万円。44席の店で最低3回転という高いハードルです。
ところが、ランチタイムが過ぎても客足はゼロ。街頭で呼び込みを続け、最初のお客様が入ったのは昼を大きく回ってからでした。ガーリックを炒める音と香りが店内に広がると、そこからは注文が途切れなくなります。

午後11時、結果を聞きに来た加藤社長の前で、立花さんが数字を読み上げます。結果は147名・16万8400円で、約束の120名・15万円を上回りました。
年商2億2000万円・4店舗までの成長

2002年、JR茅ヶ崎駅南口から徒歩5分の商店街に開業した「ラ・パットーラ」は、湘南のゆったりした時間を楽しむ土地柄と相性が良く、着実に地元客をつかんでいきます。
ピーク時は茅ヶ崎本店・平塚海岸通り店・鎌倉芸術館通り店・カフェ業態「COOPERS café」の4店舗で、年商2億2000万円・従業員50名に達しました。初期投資980万円から見れば、売上はおよそ22倍です。
| 指標 | 数値 | 補足 |
|---|---|---|
| 運営店舗数 | 4店舗 | 茅ヶ崎本店、平塚海岸通り店、鎌倉芸術館通り店、COOPERS café |
| 年商 | 2億2000万円 | ピーク時の売上高 |
| 従業員数 | 50名 | 全店舗合計 |
数字を支えたのは、スタッフの名刺の裏にまで刷り込まれた「『お客様のことを考える事』それが私たちの仕事です」という一文でした。あえてマニュアルを作らず、スタッフには「目を見なさい」とだけ伝え続けたといいます。
タバスコの酸味が苦手なお客様の声から自家製「ペペオイル」を開発するなど、接客の哲学は商品開発にまで届いていました。バリラ社のパスタを使った看板メニューも人気を集めています。
外部の危機を越えた店を壊した内側の綻び

リーマンショックの後も、東日本大震災と計画停電の時期も、立花さんは「いつでも営業できるように準備をやれ」と現場に声をかけ、利益が出ない状況でも従業員の雇用を守り続けました。
外部の嵐を耐え抜いた事業でも、内部の信頼が崩れれば一瞬で終わります。ラ・パットーラの結末は、その現実を残酷なほどはっきり示しました。
2017〜2018年頃に経営を引き継いだ相手との金銭トラブルが表面化し、2019年3月に全店舗が閉鎖。開業から17年の歩みは、外部要因ではなく内側の綻びによって幕を下ろしました。
| 年月 | 出来事 |
|---|---|
| 2002年 | 「マネーの虎」出演で980万円を調達し、「ラ・パットーラ」茅ヶ崎本店を開業 |
| 2013年頃 | 4店舗・年商2億2000万円・従業員50名のピークに到達 |
| 2017〜2018年頃 | 経営を引き継いだ相手との金銭トラブルが表面化 |
| 2019年3月 | 茅ヶ崎本店を含む全店舗を閉鎖 |
起業の教訓:調達したお金は設計がなければ守れない

この回を起業支援の立場から見返すと、投資を引き寄せた強みと、後の苦労の芽が同じ場面に同居していたことに気づきます。22年の現場経験と人間力がお金を動かし、数字の設計の甘さが初期の資金繰りを追い詰めました。
起業準備で行き詰まる人には、いくつかの型があります。「知・人・金」という切り口で見たとき、立花さんが直面したのは、お金の準備と扱いでつまずく型でした。この分け方は拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』でも扱っています。
立花さんは調達には成功しましたが、加藤社長から託された980万円のうち内装費だけで480万円が営業前に出ていき、運転資金の余力を残せませんでした。調達額の半分近くを開店前に固定費へ回した結果、手元に残せた運転資金は限られていたわけです。
他人から託されたお金で開業する立花さんのようなケースでは、金額の大小より、何にいくら配分し何ヶ月分の運転資金を確保するかという扱いの設計が、事業の寿命を左右します。
もうひとつの教訓は、事業が育った後の守りです。ラ・パットーラの閉店理由を踏まえると、次の3点は規模を問わず欠かせません。
- 経理と経営の分離:
お金を扱う人と承認する人を分ける体制 - 信頼とチェックの両立:
任せた相手ほど仕組みで確認する運用 - 後継者選びの基準:
能力だけでなくお金への誠実さと人格
通帳と印鑑を別の人が管理し、月次で税理士の確認を入れるだけでも、こうした金銭トラブルの芽の多くは摘めます。相手を疑うためではなく、お互いを守るための仕組みです。
よくある質問

Q.マネーの虎のパスタ屋の志願者は誰ですか?
志願者は立花洋さんという44歳・無職の男性でした。「世界一のパスタとピザのレストランチェーンを開業いたします」と宣言し、980万円の投資を獲得しました。
Q.ラ・パットーラはなぜ閉店したのですか?
事業を引き継いだ相手との金銭トラブルが引き金になったと語られています。2017〜2018年頃に問題が表面化し、2019年3月に茅ヶ崎本店を含む全店舗が閉鎖されました。
Q.立花洋さんは現在何をしていますか?
2019年の閉店後、公表されている活動情報は確認できていません。2026年時点でも、メディアやSNSへの登場は見当たりません。
Q.誰がいくら投資したのですか?
ひばりプロダクションの加藤和也社長が、要望額の980万円を全額投資しました。ほかの虎が収益性を疑問視する中、立花さんの人柄と理念を評価した決断でした。
Q.ラ・パットーラのピーク時の規模はどれくらいですか?
4店舗を展開し、年商2億2000万円・従業員50名の規模でした。初期投資980万円から見ると、売上はおよそ22倍に育った計算です。
「世界一のパスタ屋」が残したもの

ラ・パットーラの物語は、単純な成功談でも失敗談でもありません。980万円の調達、147名の初日、年商2億2000万円、そして内側の綻びによる閉店。起業の光と影が、1回分の放送とその後の17年に詰まっています。
「お客様を知ることが商売」という立花さんの言葉は、開業資金の額に関係なく、今日から実践できる数少ない武器です。
マネーの虎シリーズのほかの回の顛末は、下のバナーからまとめて読めます。
そのうえで、もし自分の開業を考え始めているなら、金融機関や支援窓口へ相談に行く前に、開業費用と半年分の運転資金を自分の数字で見積もってみてください。正確でなくても桁が見えるだけで、調達の相談は現実の話に変わります。
「980万円で止めて自分が恥をかくか、無理して買うか。僕は恥を選択しました」。初日に立花さんが語ったこの言葉に、託されたお金と生きる人の覚悟が表れています。

放送から24年。店の看板は下りましたが、初日に147名を集めた準備の濃さと、17年間貫いた顧客への姿勢は、これから始める人の教材でありつづけます。
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