記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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この神回は、驚きのナレーションから始まります。
「好きなアイドルを抱きたい・・・その男は好きなアイドルを確実に抱ける方法を見つけたと言う・・・」
オタクビジネス。3時間で2百万円売ったというその商品とは・・・?
今回は「抱き枕」ビジネスへの投資について、虎と志願者の激しいバトルを演じた「チャンコ増田」さんと、そのビジネスについて考えてみます。
テレビ番組「マネーの虎」とは?
伝説の番組「マネーの虎」は、2001年から2004年まで日本テレビで放送された、アメリカでもフォーマットが使われ今も語り継がれる人気番組です。
飲食系が多めでしたが、様々な業種で起業、開業を目指す志願者が、虎と呼ばれる強面社長の前でプレゼンテーションを行い、その事業計画と人間性で、虎を説得&魅了できたら資金が入ってくる(マネー成立)というルールになっています。融資か投資かは曖昧なところがありますが、緊迫感、緊張感があり、非常に見応えがありました。
また、この番組の後日談は、資金を得た志願者の事業が倒産していたり、社長自身が破産していたりすることもあり、「ビジネスはやっぱり簡単ではない」ということを、現代の経営者たちに教えてくれています。
志願者の言う「抱き枕」とは?
抱き枕とは、頭に使うのではなく、寝っ転がって抱くように使う、縦長で大きい枕のことです。今回の志願者がイメージする枕は「女の子(グラビアアイドルやレースクイーン)」のプリントがされており、サイズが等身大であることに徹底的にこだわったもの。シーツやバスタオルはあるが、抱き枕がないから作りたいというプレゼンテーションでした。
どこにでもある水着写真のものではなく、それ以外のものを作りたい。ただ、今は個人事業で古物商を取ってキャラクターグッズを売っているだけなので、きちんと法人化して版権を得て販売をしていきたい、そのための1,000万円の投資が、増田さんの希望です。
出演した虎(社長)たちはどんな人?
抱き枕がプレゼンテーションされた回には、5人の虎(席順に左から/堀之内社長・小林社長・加藤社長・川原社長・高橋社長)が出演しました。
- 堀之内九一郎(54歳当時)年商50億
(株)生活倉庫 代表取締役社長
全国規模のリサイクルショップチェーン - 小林敬 年商56億
(株)小林事務所 代表取締役CEO
トータルフードプロデュース - 加藤和也(31歳当時)
(株)ひばりプロダクション 社長
美空ひばりの長男・音楽プロデューサー - 川原ひろし(38歳当時)
なんてんかんでん・フーズ(株)社長
行列のできる有名とんこつラーメン店 - 高橋がなり(43歳当時)60億
ソフト・オン・デマンド(株)社長
アダルトビデオメーカー
この放送回では出演されていませんが、南原会長とのツーショットです。
増田さんは「抱き枕」の製造販売で起業を目指します。過去の販売実績として、上代8,000円の抱き枕を3時間で2百万円売ったこともあり、小林社長を始め、虎たちの反応も悪くありません。ただ、見込みで生産してしまった「ぬいぐるみ」では1,200万円くらいの損失も出すなど、失敗してしまったこともあったようです。
増田さんの経歴は、おもちゃの業界紙の記者として2年、ファミ通の記者として4年働いたこともあり、業界については知っている人と言えます。
どうなる!? 抱き枕ビジネス
プレゼンテーションは、実際の商品の評価へと進んでいきます。抱き枕を実際に作りながらの説明です。腰のくびれや持ちやすさ、丈を10センチ伸ばすことによって「カニばさみ」ができるようになったなどのこだわりが披露されます。女性向けの商品プランなど、先の展望もありました。
川原社長や加藤社長は好感触。堀之内社長は最初からNGといった様子です。ですが、突然、加藤社長が反対の立場を取ります。そのきっかけは、堀之内社長からの質問「具体的にどういったキャラクターで作るのか?」という著作権についての議論でした。
増田さんは、ある有名なグラビアアイドルについては下交渉を進めているところがあり、商品化のOKが出ていると発言します。そこで加藤社長が反応します。
加藤社長は、無形財産を守るのは大変なこと。商売をするなら、ここに来る前にメーカーから覚書の一つくらい取ってくるべきだ。メーカーのお墨付きがあれば別の話だ。という趣旨の発言をします。流れは一気に、ノーマネーに傾きます。
さらに、がなり社長が畳み掛けます。がなり社長は、1,000万円を出して法人化して大きく仕掛けるのは、大手が参入してくるので危険だというのです。自分で1,000万円を作れるようになるまでコツコツとやって、そこで独自の流通ができたときに「抱き枕は増田さんにかわない」というモノができる。人に出してもらったお金では信用されないのではないか? 製造ももっと努力しないと、すぐに作られてしまうと言うのです。
最後は(いつもの)人間性の指摘でフィニッシュ
そして、堀之内社長、小林社長、川原社長がとどめを刺します。
まずは、堀之内社長。明らかに「堀之内さん」などと、増田さんが目上の社長たちを「さん」付けで呼んだことに不快感を示しています。ビジネス以前の問題で「立場を理解しろ」と一蹴。増田さんも食い気味に「わかりました」とムッとした様子。
そして、小林社長は・・・、この時間は無意味だと思った、と言った後・・・
「ふざけんなバカやろって言いますわ」
続いて、川原社長。「オタクの人は僕とは合わない」と、今なら「お前もオタクだろ」と大炎上しそうなひと言で、ばっさり。最後のがなり社長は「オタクは自分の感情を優先する人」として、いい作品を創る人もいるが、自分は組みたくないとは発言し、ここでノーマネーでフィニッシュとなりました。
抱き枕ビジネス・ノーマネーから学ぶ! 起業に必要なこと・大切なこと
プレゼンテーションの中で増田さんは、当時開催されていたコミケは、3日間で45万人の来場とコメントされています。
今はオタクも文化として知られていますが、2002年当時はまだまだ偏見も多かった時代でした。1990年代では、オタクといえば変質者や社会不適合者とみなすような論調がありましたし、2000年に入ってもまだそのような風潮が残っていたのです。当時の番組での状況は、増田さんにとっては逆風であったと言えるでしょう。
ただ、その中で、加藤社長がマーケットの市場規模を知って、目を丸くしている状況が映し出されていますし、増田さんには先見の明があったのでは、という意見が多いのは確かです。
オタク市場は巨大で購買意欲も高いです。アニメ市場規模で言えば2900億円(2018年度売上高ベース)、アイドル市場規模なら2400億円(同)。アニメやアイドルだけではなく「同人誌」「プラモデル」「フィギュア」「コスプレ」などさまざまな分野がありますが、それだけ考えても超巨大なマーケットであることがわかります。
恐らくチャンコ増田さんは、実際に自分自身がその中にいて、感覚的にマーケットの大きさに気付いていたのでしょう。
等身大抱き枕~チャンコ増田さんの着眼点
増田さんは、抱き枕に「自分の好きなキャラクターやアイドル」をミックスして「帰ってきたら自分の好きな女の子を抱きしめることができる」という視点で商品化を目指しました。
抱き枕の販売スタートは1996年で、当時は身体の負担を軽くするためのものとして販売されていました。その後、睡眠に関する研究が始まって、寝やすさを追求するために抱き枕を活用すると良いことがわかりました。
増田さんは、2002年当時の番組に登場していますが、その5年前に抱き枕販売の実績を作っています。つまり、1997年にはすでに等身大抱き枕を販売していることから、世の中に抱き枕が出回り始めてすぐに、キャラクター抱き枕を販売していたことになります。
既存の商品であっても、そこにオリジナリティを組み合させることによって、大きな収益を生む可能性があります。逆に考えれば、今回のケースで言えば「抱き枕」という市場があるからこそ「等身大抱き枕」が活きてくるように感じます。
現在注目されている商品やサービスに新しい視点を加えることによって、まったく異なる市場から注目を浴びるものを作り出すことができる。そう学ぶことができるマネーの虎だったのではないでしょうか?
後日談にあった! ノーマネーの理由
増田さんは後日談の中で、増田さんの当時の案が却下された理由は「スモールビジネスだったからかもしれない」のようなことをおっしゃっていました。
増田さん曰く、増田さんの意図は「50万円くらいからのスモールビジネスからスタートして、そこにコンテンツを投入して、お金を投入したらもっと大きな仕事ができる」という話だったそうです。ところが、(高橋)社長からは「もっとたくさん作って価格破壊をして、多くの人に広めるということだったら投資した」といった趣旨のアドバイスを受けたと語っています。
時代がもう少し後だったら、マネー成立だったかもしれませんね!
増田さんは番組内で叩かれてしまいましたが、とても勉強になる回でした。これからも頑張って欲しいです!
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起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全12冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。
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