記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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会社に勤めながら始めた仕事が、少しずつお金になってきた。すると次に出てくるのが「では、いつ会社を辞めればいいのか」という迷いです。早すぎれば生活が苦しくなり、遅すぎれば踏み出すきっかけを逃す。多くの方がこの一点で何ヶ月も立ち止まります。
結論から先にお伝えします。辞めどきの目安は外で得ている手取りが勤め先の手取りの8割前後に届き、それが6ヶ月続いたときです。ただし、収入の数字だけで決めると危ない落とし穴があります。この記事では、その判断ラインと、辞める前に勤めているうちでしか済ませられない準備を順に見ていきます。
辞めどきは「勤め先の収入の8割を6ヶ月続いたら」が目安

独立後、毎月いくら必要かを考えると、まずは勤めていた頃と同じ手取りが目安になります。この水準に外で得ている利益が届いてから辞めれば、生活の落差は小さく済みます。
ただ、満額に届くまで待つ必要はありません。勤めているうちは社会保険料の半分を会社が負担してくれますが、独立後は自分で全額を払います。一方で通勤や付き合いの出費は減ります。そのため勤め先の手取りの8割を外の収入が安定して上回り、その状態が6ヶ月続いたら、独立してもおおむね生活が回ります。1ヶ月だけ良かった月があっても、それは判断材料になりません。波があるのが個人の事業だからです。
あわせて、生活費の6ヶ月分を「生活防衛資金」として手をつけずに残しておきます。独立直後は入金が遅れたり、見込んでいた仕事が消えたりします。この蓄えがあるかないかで、踏み出した後の落ち着きがまるで変わります。辞める前に、まず直近6ヶ月の事業の利益を勤め先の手取りと並べて、何割まで来ているかを数えてみてください。
参考になる数字があります。日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月公表)では、開業した人の現在の売上が「増加傾向」と答えた割合は60.1%でした。前年の60.0%、前々年の58.6%から少しずつ上がっています。ここから読み取れるのは、開業後すぐに右肩上がりになる人は3人に2人に届かないということです。だからこそ、辞める前に収入の土台を作っておく意味があります。
収入だけ見ると危ない。「時間の切り売り」から抜けたかを確認する

収入が目安に届いても、その稼ぎ方が「時間の切り売り」だと、独立後に苦しくなります。会社の給料は労働時間に対して払われる時間給が土台です。経営者になれば、稼ぎは時間の長さではなく成果と効率で決まります。この性質の違いを越えられているかが、もうひとつの判断軸です。
たとえばイラストの仕事を引き受けるとして、速く多く高品質に納品できれば、あとは時間短縮だけの勝負になります。それでも1日は24時間しかありません。受注を時間で埋める働き方は、どれだけ腕を上げても収入がやがて頭打ちになります。独立してから気づくと、勤めていた頃より長時間働いて同じ額、という事態にもなりかねません。
避けたいのは、時間短縮の難しい仕事だけで独立に踏み切ることです。納品物を仕組みにする、教材や定期契約のように一度作れば繰り返し売れる形を一部でも持っておく。こうした「自分が動かなくても少し売れる部分」を辞める前に作れているかどうかは、必ず見ておきたいチェックポイントです。直近1ヶ月の売上のうち、自分が手を動かさずに入ってきたお金が何割あるかを確認してみてください。
勤めているうちでしか済ませられない準備を先に終える

辞める判断をする前に、勤め先の肩書きが使えるうちにしか通らない手続きがあります。退職してからでは条件が一気に厳しくなるものです。順番を間違えると、独立後に余計な苦労を背負い込みます。
代表が住宅ローンと事業資金の融資です。金融機関は安定した給与収入を高く評価します。独立直後の個人事業主は、実績がまだ薄いという理由で審査が通りにくくなります。住宅の購入や借り換えを考えているなら、勤めているうちに動くほうが選択肢は広く残ります。日本政策金融公庫の創業融資も、退職前から支店に相談を始めておくと、いざというときに話が早く進みます。
もうひとつ大切なのが、取引先からの「辞めても続けて発注したい」という約束です。口約束でもかまいません。退職前に複数の相手から得ておくと、独立初月の不安がまるで違います。下の表は、勤めているうちに動くものと、辞めてからでは遅いものの対比です。
- 勤めているうちだからこそ通りやすいこと:
住宅ローンの申し込み・借り換え、各種クレジットやカードの作成、創業融資の事前相談 - 退職前に約束を取りつけること:
辞めても発注したいという継続依頼を複数の相手から確保 - 辞めてからでは遅くなりがちなこと:
給与を前提にした審査全般、社内の人脈を頼んだ仕事の引き継ぎ依頼
こうした準備は、収入が目安に届く前から少しずつ進められます。むしろ収入が育つのを待つ期間こそ、こうした地ならしに使う時間だと考えてください。
先に「やらないこと」を決めて、準備の時間を空ける

準備を進めようにも、会社の仕事をしながらでは時間が足りない。そう感じる方は多いものです。ここで効くのが、やることを増やすのではなく、先にやらないことを決める発想です。
拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、劣後順位リストという考え方を紹介しています。優先順位が「先にやることを決める」リストなら、劣後順位は「先にやらないことを決める」リストです。意味の薄い飲み会、惰性で続けている残業、なんとなく見ている動画。これらを一度書き出して手放すと、朝晩30分ずつの準備時間は意外と作れます。新しく頑張る前に、まず時間の置き場所を空けるわけです。

起業18フォーラムの会員に、神保さんという方がいます。勤めながらオンラインで個人向けのレッスンを始めた方でした。最初は来た依頼を断れず、平日の夜も土日も埋まっていく一方で、収入の割に消耗が激しい状態が続いていました。
きっかけは、フォーラムの勉強会で「合わない依頼を全部受けていないか」と問われたことでした。神保さんは劣後順位の考え方で、価格が合わない単発の問い合わせと、夜遅い時間帯の対応を「受けない」と先に決めました。会員間の個別相談で、断る文面と料金表も整えました。
すると、依頼の数自体は一時的に減ったものの、残った客層が変わっていきました。条件の合うお客様だけが残り、合わない依頼での失注やトラブルが目に見えて減ったのです。空いた時間を仕組みづくりに回せるようになり、半年ほどで勤め先の手取りに並ぶところまで来ました。
神保さんは、その状態が安定して続くのを確かめてから退職を決めています。何を受けるかと同じくらい、何を受けないかを先に決めることが、準備の時間を生み出します。
辞めどきは「収入・働き方・準備」の3つがそろった日

外の仕事を本業にするタイミングは、ひとつの数字だけでは決まりません。外で得ている手取りが勤め先の8割を6ヶ月続き、その稼ぎが時間の切り売りに頼らない形になり、勤めているうちにしか通らない準備を終えている。この3つがそろった日が、現実的な辞めどきです。
日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」では、開業時の平均年齢は43.9歳でした。準備を整えてから踏み出す人が、今は珍しくありません。焦って早く辞める必要も、完璧に整うまで何年も待つ必要もないのです。
今日できることは、直近6ヶ月の事業の利益を勤め先の手取りと並べて、何割まで来ているかを数えてみるだけで十分です。割合が見えると、辞めどきまでの距離が具体的な数字に変わります。
具体的な準備の進め方は、起業18フォーラムの勉強会でも取り上げています。一人で抱え込まず、同じ道を歩いている会員さんの実例を見てみてください。

辞めるその日に向けて、収入を数え、働き方を見直し、必要な準備を一つずつ片づける。順番を間違えなければ、独立はぐっと安全な選択になります。
よくある質問

Q.外の収入が勤め先の2倍になったら、すぐ辞めていいですか?
一時的に2倍になっただけなら、まだ早いです。大切なのは金額の高さより安定性です。勤め先の手取りの8割を6ヶ月続けて上回っているか、その間に大きく落ち込んだ月がなかったかを見てください。瞬間風速の高さで判断すると、独立後の収入の谷で苦しみます。
Q.生活防衛資金は、どのくらい用意すればよいですか?
生活費の6ヶ月分が一つの目安です。独立直後は入金の遅れや、見込んでいた仕事が消えることが起こります。家賃や生活費の半年分を、事業のお金とは別に手をつけずに残しておくと、踏み出した後も落ち着いて判断できます。
Q.住宅ローンは独立前と独立後で、何が変わりますか?
審査の通りやすさが変わります。金融機関は安定した給与収入を高く評価するため、独立直後の個人事業主は実績が薄いという理由で審査が厳しくなりがちです。購入や借り換えの予定があるなら、勤めているうちに申し込みを済ませておくほうが選択肢は広く残ります。
Q.辞める前に、取引先へ独立の話をしてもよいですか?
信頼できる相手になら、辞めても発注したいか打診しておく価値があります。口約束でも、複数の相手から継続依頼の感触を得ておくと、独立初月の不安がやわらぎます。ただし勤めているうちの競業や守秘の規定に触れないよう、勤め先の就業規則を先に確認しておいてください。
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