記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「英語が話せると、起業で有利になりますか?」という質問を、今もよくいただきます。起業18フォーラムの会員さんにも、英語が得意な方はたくさんいます。
ただ、この記事を最初に書いた2016年と今とでは、前提がずいぶん変わりました。DeepLやChatGPTのようなAI翻訳が、誰のスマホにも入っている時代です。
だからこそ、英語の価値がどこへ動いたのかを、あらためて整理しておきたいと思います。

AI翻訳が普及した今、「英語が話せる」価値はどこへ動いたか
2026年現在、「英語を訳せること」そのものの価値は確実に下がり、英語の出番は「人と信頼を結び、その場で交渉できること」に移りました。メールの和訳も、海外サイトの読解も、いまやAIがほぼ一瞬でこなしてくれます。
かつては「英語が読める・訳せる」だけで一目置かれた場面が、たしかにありました。海外の文献から情報を取れる、海外サイトで仕入れができる、それだけで一歩リードできた時代です。ところが、その作業の大半はAI翻訳に置き換わり、英語が苦手な人でも同じ情報にたどり着けるようになりました。
文部科学省の中央教育審議会で外国語の学び方を議論している外国語ワーキンググループは、第2回の会合(2025年10月30日)で「AI時代に外国語を学ぶ本質的意義」を取り上げました。そこでは、AIの短期的な技術進歩に振り回されず、言葉や文化、人間関係への深い理解こそ外国語を学ぶ意味だと整理されています。起業の現場感覚とも、ぴたりと重なる方向です。
それでも残る「人間にしかできない英語」

では、英語はもう要らないのでしょうか。私はそうは思いません。AIが肩代わりできない部分こそ、これからの英語の価値が集まる場所です。
以前、台湾企業からモニュメント制作を受注した友人がいました。彼は「日本語は通じないが、現地で日本語の通訳を手配できるので打ち合わせは問題ない」と話していました。単発で短納期の仕事なら、通訳を臨時で雇えばなんとかなる、というわけです。これは今でも変わりません。
一方で、相手と長く付き合う商談では話が別です。値段の駆け引き、納期のすり合わせ、ちょっとした冗談や相づち。こうした即興のやりとりは、画面越しの翻訳をはさむと、どうしても呼吸がずれます。英語で仕事をしている人ならわかると思うのですが、専門家同士の会話は、英会話が流暢でなくても不思議なほど通じ合い、仕事は前に進みます。
つまり問われているのは「英語が話せるか」ではなく「相手と信頼を結び、その場で判断できるか」です。検定試験の点数が高くても、現場で交渉ができなければ、起業の武器にはなりにくいのが実際のところです。
有利になるのは「英語×本業の専門」の掛け算

起業で英語が効くかどうかは、英語を単体で見ているうちは答えが出ません。英語は独立した武器ではなく、本業の専門に掛け算する係数として考えると、活きる場面がはっきりします。
たとえば、何かの技術や知識を持っている人が英語を添えると、海外の顧客や情報に直接つながれます。逆に、専門の中身が薄いまま英語だけで勝負しようとすると、AI翻訳が使える今は差別化が効きません。英語だけを売りにした仕事ほど、置き換えられやすいのです。
ここでも、私の今の仕事を例にすると、海外の著作物や文献から情報を得たり、外国人の知人から最新の一次情報を受け取ったりする場面で英語が役立っています。ただしそれは、起業支援という本業の専門があってこそ意味を持つのであって、英語そのものが収入を生んでいるわけではありません。
実需で活かす2つの入口|インバウンドと越境EC

抽象論だけでは動けないので、英語が実際にお金につながりやすい入口を2つ挙げます。どちらも、いま数字が伸びている市場です。
1つめはインバウンド、つまり訪日外国人を相手にするビジネスです。日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2024年の訪日外客数は3,687万人で過去最高となり、訪日旅行消費額も8兆1,395億円に達しました(2025年1月15日公表)。ガイド、体験プログラム、宿泊や飲食まわりのサービスなど、生身の英語で接客できる人の出番は確実に増えています。
2つめは越境ECです。経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)では、2024年に中国の消費者が日本の事業者から越境ECで買った額は2兆6,372億円、米国の消費者からは3兆1,397億円と、いずれも前年から伸びています。
ここから読み取れるのは、英語の使いどころが「翻訳作業」から「人や市場と直接つながる接点」へ移ったということです。海外の客に商品説明を書き、問い合わせに自分の言葉で答え、レビューに丁寧に対応する。こうした一つひとつが、AIの定型訳ではなく、あなたの人柄が伝わる仕事になります。越境ECの実務や集客の流れは、別の記事でもくわしく取り上げています。

会員さんの実例|英語より「専門×発信」で越境受注

起業18フォーラムの会員さんに、家具づくりが好きで会社の外で小さく始めた江口さんという方がいます。当初の江口さんは、海外の客を取りたいなら、まず英語をやり直さなければと思い込んでいました。
そこで江口さんは、英会話スクールに通い始めたのですが、半年たっても受注にはつながりませんでした。自己流で「英語さえできれば道が開ける」と信じていたものの、肝心の作品を海外に見せる手立てがなかったのです。
転機は、起業18フォーラムの個別相談で「英語より先に、作品の写真と作り手の物語を英語圏のSNSに出してみては」と助言を受けたことでした。江口さんは翻訳はAIに任せ、自分は木目の選び方や仕上げのこだわりを写真と短い文で発信することに切り替えました。問い合わせには、AIの下訳に自分の言葉を一文だけ足して返すようにしたそうです。
2024年の秋に最初の海外受注が入り、翌年の春には越境ECサイト経由で月に7万8,000円ほどの売上が立つようになりました。英語の点数を上げる前に、専門と発信を整えたことが効いたのです。江口さんは「英語は完璧じゃなくても、伝えたい中身があれば通じる」と話しています。
著書の「商品4構成」で英語をどの層に置くか
英語を起業に組み込むときは、「英語で何の商品を売るか」ではなく「自分の商品のどこに英語を置くか」と考えると整理しやすくなります。
拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、商品を4つの構成で組み立てる考え方を紹介しています。お試しの入口になるフロントエンド、収益の柱になるバックエンド、ついでに買ってもらうサイドメニュー、そして月会費や顧問のように続くストック商品です。この枠に当てはめると、英語をどこで使えば収入になりやすいかが見えてきます。
- フロントエンド(お試しの入口):
英語のSNS発信や海外向けの無料記事で、まず存在を知ってもらう層 - バックエンド(収益の柱):
本業の専門サービスを海外の客に直接提供し、英語は交渉と信頼づくりに使う層 - サイドメニュー(ついで買い):
海外発送や英語の取扱説明など、本体に付ける小さな追加サービスの層 - ストック商品(続く収入):
海外顧客への定期サポートや月額の相談など、関係が続く層
大事なのは、英語をフロントエンド(集客の入口)だけで終わらせないことです。英語を交渉と信頼づくりというバックエンドの中心に置けたとき、はじめて英語は起業の利益に直結します。翻訳作業はAIに任せ、人にしかできない部分に英語を回す。これが、2026年の英語の活かし方だと思います。
よくある質問(FAQ)

英語がまったく話せなくても起業できますか?
できます。国内向けの事業なら英語は必要ありませんし、海外の客を相手にする場合でも、AI翻訳で文章のやりとりは十分まかなえます。英語が必須なのは、その場の交渉や長い信頼関係が売上を左右する場面に限られます。まずは自分の事業がそこに当たるかを見極めてください。
起業のためにTOEICのスコアを上げるべきですか?
スコアそのものは、起業の現場ではあまり効きません。検定の点数より、仕事の話を相手とその場で進められるかのほうが重要です。英語に時間を使うなら、点数を上げる勉強より、本業の専門を海外の客に説明する練習に振り向けるほうが収入につながりやすいです。
AI翻訳があれば、もう英語の勉強は無駄ですか?
無駄ではありません。定型的な翻訳作業はAIに任せてよいのですが、相手の表情を見ながら言葉を選ぶ、冗談で場をほぐす、といった即興のやりとりはAIには任せきれません。文部科学省の外国語ワーキンググループも、長い目で見た外国語学習の意義を強調しています。AIを下働きにして、人にしかできない部分を磨くのがちょうどいいバランスです。
英語が話せると起業に有利か。答えは「英語単体では決め手にならないが、本業の専門に掛け算すれば強い武器になる」です。AI翻訳が当たり前になった今こそ、英語の使いどころを翻訳から信頼づくりへ移すときだと思います。今日できることは、自分の事業で英語が本当に効く場面を一つ書き出してみるだけで十分です。
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