記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
都内の自宅が賃貸住宅のため、持家である実家(広島)で法人登記をしようと思っています。法律上、何か問題はありますか?
また、登記の手続きにあたって、公証役場・税務署・市役所に出かけるとき、自分で広島まで何度も足を運ばなければいけないのでしょうか?

● 回答
商業登記法には本店所在地に関する制限がないため、実家の広島で法人登記しても法律上は問題ありません。2020年以降の完全オンライン申請化により、現地に足を運ぶ回数も大幅に減りました。ただ、起業準備中の会社員という前提で「そもそも法人化を急ぐべきか」を一度立ち止まって整理した方が、結果として時間とお金の両方を守れます。
質問の構造を分解すると、論点は3つです。①どこで登記できるかという法律論、②実家まで何度行かないといけないかという実務、③そもそも法人化のタイミングは今なのかという経営判断。順番に整理していきます。
法的には、実家の住所でも問題なく登記できる
商業登記法には、本店所在地を制限する条文がありません。会社法でも、本店所在地は定款で自由に定められると整理されています。活動拠点が東京で、登記住所が広島の実家、というパターンも普通に成立します。定款に本店所在地を「広島県広島市」と記載し、設立後に活動拠点を東京に置く形でも、登記上の本店を東京にしておく形でも、どちらでも構いません。
注意したいのは、地方で登記して都心の取引先と仕事をする場合、名刺や請求書の住所が遠方になることへの違和感です。「広島の会社」と取引先に認識されるため、東京での営業活動には微妙な距離感が生まれます。業種にもよりますが、IT・コンサル・士業など本店所在地で信用が決まりにくい業種なら影響は小さく、対面営業が中心の業種なら影響が出やすい傾向があります。
完全オンライン申請で、広島まで何度も行く必要はない
2020年以降、一人会社(一人株式会社・一人合同会社)の設立は、公的個人認証サービスの電子証明書を使えば、申請書情報と添付書面情報のすべてに電子署名を付与でき、設立登記を完全オンラインで申請できるようになりました。法務省も完全オンライン申請を推奨しています。
一人株式会社又は一人合同会社(以下「一人会社」といいます。)を設立する場合は,公的個人認証サービス電子証明書を取得すれば,申請書情報及び全ての添付書面情報に必要な電子署名を付与できますので,添付書面を管轄の法務局に別途持参等することなく,設立登記を完全オンラインで申請することができます。
定款認証もオンラインでできるようになっており、公証役場への出頭は原則不要です。税務署への法人設立届出はe-Taxで提出可能、市役所(法人住民税の届出)も自治体によってはeLTAX対応です。広島まで足を運ぶ必要があるのは、銀行口座開設や賃貸物件契約など、対面が残っている一部の手続きだけになりました。

バーチャルオフィスという第三の選択肢
もう一つ、実家での登記とは別ルートとして、東京のバーチャルオフィスを本店所在地にする方法があります。商業登記法上は実態のない住所での登記も問題なく、月額千円程度から千代田区・渋谷区・港区などの一等地住所が借りられます。
- 月額1,000〜5,000円程度の低コスト
- 自宅住所を公開せずに済む(プライバシー保護)
- 都心の住所による対外的な信用度の向上
- 郵便物受け取り・電話転送サービスが付帯
- 同一住所に複数法人が登記されるため、検索で同居が判明する
- 古物商・士業(弁護士・税理士等)・建設業など、許認可によっては登記不可
- 銀行口座開設の審査が厳しくなる場合がある
- 事業実態のない住所として税務調査時に確認される可能性
賃貸住宅の自宅で登記できないなら、バーチャルオフィスは「実家で登記」と「賃貸で登記交渉」の中間として現実的な選択肢です。業種別の登記可否は事前に確認し、特に許認可業種は最初から登記可能な物件を選ぶのが安全です。
「いきなり法人化」が高くつく3つの理由
ここからが起業18フォーラムらしい視点です。登記の可否はクリアできました。ですが、会社員として在職中に法人化することの本当のコストを、見落としていませんか?
- 固定費の発生:法人住民税の均等割が赤字でも年7万円、税理士費用が年間20万円前後、登記費用も合同会社で約10万円・株式会社で約25万円。事業が立ち上がる前の固定費としては重い
- 帳簿管理の負担:法人は複式簿記が必須で、決算書の作成精度も個人事業より要求水準が高い。会社員と二足の草鞋なら、最初から税理士頼みになりやすい
- 事業内容変更の柔軟性:個人事業は事業内容を切り替えやすいが、法人は定款変更・登記変更が必要で時間と費用がかかる。テスト段階での方向転換コストが大きい
個人事業から始めて、年商が500万〜1,000万円を超え始めたあたりで法人化を検討する、というのが多くの起業18フォーラム会員さんの実例です。いきなり法人化が正解になるのは、許認可・取引先・節税のいずれかで明確なメリットが先に確定しているケースに限られます。
会員Cさんの事例:早すぎる法人化で事業が止まった話
起業18フォーラムの会員Cさん(40代男性・神奈川県在住の会社員)は、独立構想段階で「やる気を見せるために法人化」という流れに乗り、合同会社を立ち上げてから本格的にサービス設計を始めました。自己流で「形から入る」スタイルです。
Cさんに何が起きたか。まず、会社設立後3ヶ月で本業の繁忙期と決算準備が重なり、税理士費用は確保できたものの帳簿の整理に毎週末を取られる状態に。事業設計の時間がなくなり、最初の半年で売上は10万円台に留まりました。法人住民税の均等割を払い続けながら、何のために法人を作ったのかが分からなくなったそうです。
Cさんは起業18フォーラムの勉強会に参加し、「順序の壁」の話を聞いて、法人化を一時休眠扱いに切り替えました。個人事業主として小さく検証を回し直し、12ヶ月目には事業所得月45万円が安定。36ヶ月目で再度法人化を検討する時点では、年商780万円・粗利56%という土台が出来上がっていました。今は法人化のタイミングを「許認可と取引先要件が揃ったとき」と明文化しています。
拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』にも書きましたが、逃げる力=早めに方向転換する力は、闘い続ける力よりも起業準備中に必要な場面が多いです。法人化のタイミングを誤らないこと自体が、最初の経営判断になります。

よくある質問
Q1. 親の許可があれば、実家を本店所在地にできますか?
A. 持家であれば所有者本人の同意があれば登記できます。賃貸の場合は賃貸借契約の用途(居住用のみ可など)を確認し、必要に応じて貸主の許可書面を取得してください。
Q2. 広島で登記して東京で活動する場合、許認可申請はどこに出しますか?
A. 業種ごとに異なります。建設業許可は本店所在地の都道府県知事、宅建業免許は本店所在地の都道府県知事または国土交通大臣、古物商は本店所在地の都道府県公安委員会となります。本店所在地が広島なら基本的に広島側に申請します。
Q3. 法人化と個人事業主、どちらが税金面で得ですか?
A. 一般論として、所得が900万円を超えるあたりから法人化の節税メリットが個人事業主を上回り始めます。それ以下なら個人事業主の方が手取りが多いケースが大半です。具体的な分岐点は事業内容と家族構成によります。
Q4. オンライン登記で本当に1度も法務局に行かなくていいですか?
A. 公的個人認証電子証明書(マイナンバーカード)と電子定款の準備が整っていれば、設立登記は完全オンラインで完結します。ただし、印鑑カードの受領のみは郵送ではなく窓口受領が必要な法務局もあるため、事前に管轄法務局に確認してください。
遠方で登記できるかどうかの法律論で時間を使うより、いま法人を作る意味があるかどうかを自問する。登記の可否は手段の話で、起業準備の本丸ではありません。個人事業主で半年〜1年回してから法人化を検討する、その順序を守るだけで、無駄な固定費と時間のロスを大幅に減らせます。
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