記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
メーカーに勤めながら、昨年フリーランスでホームページ制作の仕事を始め、今年その仕事を法人化しました。勤め先からの給料とは別に、自分の会社から役員報酬を受け取る予定です。
ただ、勤務先には知られたくないので、まだ社会保険には加入していません。自分の会社で社会保険に入ると、本業の会社にバレてしまうのでしょうか? 役員報酬をゼロにしておけば大丈夫でしょうか?

● 回答
本業に伝わる本丸は、会社を作ったこと自体ではなく、二つの勤め先の報酬を合算して保険料を決め直す社会保険の仕組みです。法人を作り、代表者として役員報酬を受けて社会保険の加入要件を満たすと、本業と合算した保険料の決定通知書が、本業の勤務先にも届きます。役員報酬をゼロにすればこの通知が出にくい形にはできますが、それで安心して進めるより先に、考えておきたい順番があります。
バレるのは「会社を作ったこと」ではなく「社会保険の合算」
まず押さえておきたいのは、会社を設立しただけで自動的に勤務先へ連絡がいくわけではない、ということです。法人登記の情報が勤め先に通知される仕組みはありません。問題になるのは、その会社であなた自身が社会保険に加入したときです。
法人は、社長一人だけの会社であっても社会保険の強制適用事業所になります。代表者が役員報酬を受け、被保険者として扱われる実態がある場合は、加入の対象になります。そのうえで本業でも社会保険に入っているとなると、二か所で同時に加入要件を満たす状態になります。この二か所同時加入が起きた瞬間に、本業の会社へ通知が届く道が開きます。

二以上事業所勤務届と、本業に届く決定通知書
本業と自分の会社の両方で社会保険の加入要件を満たした場合、年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出します。これは日本年金機構の現行の正式な手続きで、二か所のうちどちらを主たる事業所とするかを選ぶための届出です。
このとき保険料は、二か所の報酬を合算した金額で標準報酬月額が決まり、それを各事業所の報酬額で按分して、それぞれが負担します。合算後の保険料や各事業所の負担額に関する手続きが生じるため、本業側にも報酬が増えた事実が見える可能性があります。これが、自分の会社の社会保険で本業に伝わる、いちばん直接的な経路になります。
マイナンバーによって年金事務所が未加入の事業所を把握しやすくなり、国税庁との情報連携も進んでいます。「小さい会社だから当面は気づかれない」という前提で動くのは、年々リスクが高まっていると考えておいたほうが安全です。
住民税の「普通徴収」では、役員報酬は隠せない
会社の外で得た収入を勤務先に知られない工夫として、住民税を普通徴収(自分で納付)にする方法がよく語られます。ただし、ここには大きな落とし穴があります。役員報酬は税法上の給与所得にあたるため、原則として住民税は特別徴収になり、自分で納付を選べません。
確定申告書の第二表で自分で納付を選べるのは、原則として給与・公的年金等以外の所得、つまり事業所得や不動産所得、雑所得などに限られます。給与から給与へと所得が重なる役員報酬の場合、住民税はまとめて本業側で天引きされやすく、決定通知書に他の給与分が合算されて見える形になります。「住民税を自分で払えば伝わらない」という説明を、役員報酬にそのまま当てはめないよう気をつけてください。
役員報酬ゼロという選択と、その前に考えたい順番
では、役員報酬をゼロにすればよいかというと、従業員がいない一人会社で代表者も無報酬なら、本人については社会保険の加入や二以上事業所勤務届、住民税の給与合算が生じにくい形になります。代表者を家族にする方法も、実態として経営責任や権限が伴い、税務・社会保険上も説明できる場合に限って選択肢になります。ただ、報酬ゼロにすると、せっかく稼いだお金を当面は会社に置いたままにすることになり、生活に回せません。
ここで一度、順番を見直してみてほしいのです。法人を作って役員報酬を取るのは、社会保険も税金も最も手続きが重くなる形です。在職のまま始めるなら、まず個人で小さく稼いでみて、利益が育ってから法人化を考えても遅くありません。
拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』の第1章では、リスクをかけずに小さく始める形を紹介しています。今の仕事を辞めず、うまくいかなければいつでも引き返せる規模から始めれば、バレる経路そのものを当面は背負わずに済みます。

焦って法人化したあと、順番を組み直した会員さんの話
起業18フォーラムの会員さんに、桐谷さん(仮名・40代)がいます。メーカーで企画の仕事を続けながら、休日にWeb制作の仕事を受けるようになった方でした。最初の桐谷さんは、受注が少し増えてきたところで「形を整えたほうが信用される」と考え、勢いで法人を設立し、自分に役員報酬を設定しました。
ところが、いざ社会保険の手続きを調べる段になって、二か所での加入と合算の通知が本業に届くと知り、手が止まってしまいます。報酬をゼロに戻すと、法人化した意味が薄れる。桐谷さん自身が「順番を逆にしていた」と気づいたのは、申告の準備で帳簿を見返していたときでした。会社の信用が先に要るほどの取引は、まだ一件もなかったのです。
そこで桐谷さんは、いったん役員報酬をゼロにして法人は休ませ、個人事業として制作の仕事を受け直しました。法人を急いで動かしていたころは社会保険の通知に怯えていたのが、個人で確定申告だけ整える形に戻したことで、勤務先との関係を気にせず仕事を増やせるようになりました。取引先から「請求書は会社名で」と求められる場面が増えてきたいまは、改めて法人をどう使うかを落ち着いて検討しています。
あなたが在職のまま会社を持とうとしているなら、まずは勤め先の就業規則で兼業・起業に関する規定を確認し、そのうえで「いま本当に法人化と役員報酬が要る段階か」を一度立ち止まって見直してみてください。社会保険や住民税の細かい判断は、加入要件や常勤性の見方で個別に変わるため、最終的には年金事務所や税理士など専門家に確認するのが確実です。
バレる経路を正しく知ると、隠す工夫より「いまの段階に合った形を選ぶこと」のほうが結局は気が楽だと分かります。会社という器は、それが必要になったときに用意すれば十分です。
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