記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
友人3人で不動産投資のセミナーを開いています。事業が軌道に乗ってきたら、誰が代表なのかが曖昧なまま、お互いの自己主張が強くなってきました。友人2人はどちらが抜けても専門知識が足りなくなりますが、正直なところ私が一番要らないと言われそうです。
会社勤めなので合同会社などの法人化は避けたいのですが、それでも私の権利を守ることはできるのでしょうか?

● 回答
3人で一つの事業を育ててこられたのですね。軌道に乗ってきたタイミングでの自己主張のぶつかり合いは、共同経営でもっともよく起きるパターンです。
法人化をしなくても、持分・役割・抜け方をいま書面にしておけば、あなたの権利は十分に守れます。大事なのは、もめてから慌てて決めるのではなく、関係が良いうちに決めておくことです。
対等な3人は、なぜもめてしまうのか
26年にわたって6万人の起業準備を見てきましたが、仲間と完全に対等な立場で事業をすると、その多くがもめごとに発展します。代表権の取り合いは、その典型です。
理由ははっきりしています。立場が対等だと、意見が割れたときに最終決定を下す人がいないからです。権限の線引きが曖昧なまま事業が大きくなると、判断が止まり、その停滞そのものが新しい火種になります。軌道に乗ったいまだからこそ、各自の貢献度や取り分への不満が表に出やすくなっているのです。
「仲良しだから大丈夫」が、いちばん危ない
共同経営の相談で私がいつも感じるのは、始めるときほど「自分たちは仲が良いから、もめるはずがない」と考えてしまう傾向です。気持ちはよくわかります。ただ、その油断こそが分裂の入口になります。
仲が良いからこそ、お金や役割の話を切り出しにくい。だから何も決めないまま走り出してしまう。そうして数字が動き始めた頃に、決めていなかったツケが一気に噴き出します。仲が良いいまのうちに、あえて事務的な取り決めをしておくことが、その関係を長く守ることにつながります。
始める前に決めておく3つのこと
権利を守る土台は、難しい法律論ではありません。次の3点を、紙1枚でいいので3人で確認しておくことです。

- 持分:
利益や経費をどの割合で分けるか。出したお金や時間が違うなら、その差をどう反映するか - 役割:
誰が何を担い、どこまでを各自の判断で決め、どこからを3人で協議するか - 抜け方:
誰かが抜けるとき、持分をどう清算し、顧客や知的財産をどちらが持つか
とくに3つ目の「抜け方」は、関係が良いうちでないと冷静に決められません。あなたが心配されている「私が要らないと言われそう」という不安にも、この離脱時の取り決めがそのまま備えになります。
法人化しなくても、権利は守れる
会社勤めで法人化を避けたいというご事情、よくわかります。実は、合同会社や株式会社にしなくても、共同で事業を営む枠組みはあります。民法上の組合、いわゆる任意組合です。
任意組合は民法667条以下に定められた契約で、各自が出資して共同の事業を営むことを約束すれば成立します。法人格を持たないため登記も不要で、利益や損失をどう分けるかは契約で自由に決められます。つまり、法人をつくらずに「持分と分配のルール」を書面で固定できるということです。会社にお勤めの立場を変えずに、あなたの取り分を守る器として使えます。
また、3人がそれぞれ個人事業主として独立し、互いに業務を委託し合う形も有効です。ここで知っておきたいのが、2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称フリーランス新法です。
- 書面での明示:
業務を委託するときは給付の内容・報酬の額・支払期日などの取引条件を書面やメールで明示する義務がある - 支払期日:
成果物を受け取った日から60日以内のできるだけ早い時期に報酬を支払う必要がある - 適用範囲:
資本金の大小を問わず、個人同士の業務委託にも幅広く適用される
仲間内の口約束で済ませがちな取り決めを、法律が「書面に残しなさい」と後押ししてくれる時代になりました。この機会に、お互いの委託関係を文書にしておくと安心です。
会員の瀬戸さんが、もめてから学んだこと
起業18フォーラムの会員に、瀬戸さんという方がいます。知人2人と週末の片付け代行サービスを始め、最初の頃は役割も取り分も決めずに「儲かったら山分けね」という雰囲気で走り出していました。
事業が伸びて月の売上が動き始めた頃、誰が中心なのかをめぐって関係がぎくしゃくし始めました。瀬戸さんはそこで初めて慌て、起業18フォーラムの個別相談に駆け込みました。助言を受けて3人で持分と役割、抜けるときの清算方法を書面にまとめ直したそうです。話し合いは正直しんどかったと振り返っていましたが、その紙ができてからは余計な疑心暗鬼が消えました。
取り決めを整えてからおよそ1年で、瀬戸さんご自身の取り分は月20万円ほどで安定しています。もめてから書面化できたのは幸運だった、本当は始める前にやっておくべきだったと、瀬戸さんはいつも話しています。
こじれる前に、無料で相談できる窓口
当事者だけで持分や抜け方を話し合うと、どうしても感情が先に立ちます。第三者を入れると、ぐっと進めやすくなります。
- よろず支援拠点:
中小企業庁が各都道府県に設けた無料の経営相談所。知的財産の専門家もおり、何度でも相談できる - 弁護士ドットコム・法テラス:
持分の清算や契約書など、法的に込み入った論点はこちらへ - 相談のタイミング:
分裂してからではなく、自己主張がぶつかり始めたいまが相談の好機
「権利を守れますか」というご質問への私の答えは、はっきり「守れます」です。法人化は必須ではありません。任意組合や業務委託の書面、そして公的な相談窓口を組み合わせれば、お勤めを続けたまま自分の取り分も関係も守れます。
- もめてからでなく、関係が良いいま持分・役割・抜け方を書面化する
- 法人化しなくても任意組合やフリーランス新法に沿った業務委託で権利は守れる
- よろず支援拠点など第三者を早めに入れて感情のもつれを防ぐ
拙著『起業神100則』には「自立した事業者同士のパートナーシップ」という考え方を紹介しています。一緒に起業するのではなく、役割と責任を分けた別々の事業者が、ひとつの事業を共に運営していく形です。あなたが今いる3人も、対等な一塊ではなく、独立した3つの事業の提携と捉え直すと、抜ける抜けないの恐怖が一気に軽くなります。
同じ本には「去る者は追わず」という言葉もあります。誰かが離れる可能性に怯えるより、それぞれが自分の強みで立てる関係を先に整えておく。それが結果として、いちばん長く続く仲間の形になります。

今日できることは、紙を1枚用意して持分・役割・抜け方の3つを書き出してみるだけで十分です。完成形でなくてかまいません。3人で見せ合うたたき台を作ることが、最初の一歩になります。
もし自分たちだけでは話が前に進まないと感じたら、お近くのよろず支援拠点に連絡してみてください。第三者がいるだけで、不思議と冷静に向き合えるようになります。
よくある質問

Q.口約束だけで始めてしまいました。今からでも取り決めはできますか?
- 関係が完全に壊れる前ならいつでも書面化は可能
むしろ売上が動き始めた今が、各自の貢献度を実感を持って話し合える好機です。先に紹介した持分・役割・抜け方の3点を、たたき台として書き出すところから始めてください。当事者だけで難しければ、よろず支援拠点で整理を手伝ってもらえます。
Q.自分から抜ける場合、出したお金や顧客はどうなりますか?
- 事前の取り決めがあれば、それに沿って清算するのが原則
取り決めがない場合は、出資額や貢献度をもとに当事者で話し合い、難しければ持分の評価が必要になります。顧客や知的財産の帰属でもめやすいので、抜けるときの条件こそ早めに文書化しておくと安心です。金額や契約が込み入る場合は、弁護士ドットコムや法テラスに相談してください。
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