記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
個人事業主として開業することになったのですが、開業届に書く「開業日」は、いつにすればいいのでしょうか? 最初の売上が発生した日のことでしょうか?

● 回答
結論から言いますと、事業開始日は、事業主が自分の判断で自由に決めることができます。
必ずしも「売上が発生した日」である必要はありません。
なぜ「初売上の日」という誤解が生まれるの?
なぜ、売上の日が開始日だと思い込んでしまう人が多いのでしょうか? 主な理由は3つ考えられます。
- 直感的なイメージ:「商売=売る」ことなので、売れた日がスタートだと感じやすい。
- 管理のしやすさ:会計ソフトに入力を始めるタイミングと合わせる人が多いため、実例として「初売上の日」を選ぶ人も多い。
- 公式定義の曖昧さ:国税庁の案内には「事業の開始等の事実があった日」としか書かれておらず、具体的な基準が示されていない。
実際にはどんな日を選んでもいいの?
実務上、以下のような日を開業日に選ぶ方が多いです。ご自身の状況に合わせて最適な日を選んでみましょう。
| 開業日のパターン | おすすめな人 |
|---|---|
| 準備を開始した日 | 開業前の備品購入などの経費を明確に管理したい人 |
| 店舗・サイトのオープン日 | 実店舗やECサイトを持つ人 |
| 会社を退職した日 | 会社員から独立して区切りをつけたい人 |
| 月初(1日など) | 月単位での管理を楽にしたい人 |
| 縁起の良い日・記念日 | 大安、一粒万倍日、自分の誕生日などを大切にしたい人 |
| 初めて売上が立った日 | 「この日から稼いだ!」という実感を重視したい人 |
開業日を決めるときに注意すべき「2つの期限」
日付自体は自由ですが、その日付によって提出書類の期限が変わる点には注意が必要です。
1. 開業届の提出(1ヶ月以内)
所得税法上、開業から1ヶ月以内に税務署へ提出することになっています。
※遅れても罰則はありませんが、早めに提出するのがスマートです。
2. 青色申告承認申請書の期限(2ヶ月以内)
節税メリットの大きい「青色申告」を受けたい場合、以下の期限を守る必要があります。
- 1月16日以降に開業した場合:開業日から2ヶ月以内
- 1月15日以前に開業した場合:その年の3月15日まで
★青色申告をしたいけれど、うっかり開業から3ヶ月経ってしまった場合は、開業日を少し後ろに設定することで、期限内に申請できるケースもあります。
「開業費」を賢く活用しよう
開業日より前にかかった費用(打ち合わせの飲食代、セミナー代など)は、「開業費」として計上できます。
- 開業日より後:「消耗品費」「広告宣伝費」などの一般経費
- 開業日より前:「開業費」(繰延資産として、好きなタイミングで経費化できる)
開業日は、新しい挑戦が始まる大切な記念日です。納得のいく日を選んでスタートを切ってくださいね。
「完璧な開業日」を待っているうちに動けなくなる人へ
ここまでお読みくださった方の中には「日付の自由度はわかった。でも、自分にとって最適な日が選べない」と立ち止まっていらっしゃる方が多いのではないでしょうか。開業日選びで時間を使い果たし、肝心の事業準備が進まない。これが起業準備で最も多い落とし穴のひとつです。
拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』に「完璧主義は起業準備の最大の敵」という考え方が出てきます。100点を目指して動けなくなるくらいなら、20点でも先に動いて、お客様の反応を見ながら育てたほうが早い。開業日もまさに同じ構造で、「決められないこと」自体が事業のスタートを遅らせる最大のリスクになっています。
- 「開業日が悪いと縁起が」と気にして3ヶ月以上動かない
- 「売上が出てから届け出よう」と先延ばしを繰り返す
- 税務署に行くのが緊張するためe-Taxの設定で止まる
- 家族に話すタイミングを計りすぎて開業届を引き出しにしまったまま
これらのうち1つでも当てはまるなら、開業日は「次に来る月初」または「自分の誕生日」など機械的に決めて、まず手を動かすことを優先してください。後から開業届を訂正することは不可能ではありませんが、税務署とのやり取りが発生し時間と労力がかかります。最初に決めた日を開業日として据え置けるよう、節度を持って選んでおくのが現実的です。決めなければ青色申告の
節税メリットも活用できないままになります。
国税庁データから見る「開業日と申告」のリアル
国税庁「申告所得税標本調査」では、個人事業主のうち青色申告を選択している方の比率はここ数年で増加が続いています。青色申告のメリット(最大65万円控除・赤字繰越3年)を享受するには、原則として開業から2ヶ月以内の申請が必要です。
つまり開業日を決めずに半年が過ぎてしまうと、その年の青色申告は事実上選択できなくなり、翌年の確定申告で数十万円の税金差が出る可能性もあります。「日付を決めない」という消極的な判断には、見えにくいコストがついて回るのです。
会員Uさんが「決断できる開業日」を選んだ話
ここで会員Uさんの事例をお話しします。
Uさんは自己流(無手勝流)で起業準備を進めていた30代後半の元・損保会社事務職の主婦の方でした。子育てと並行して在宅ワークでハンドメイド販売を始めたものの、「開業届を出すべき適切なタイミングがわからない」と1年以上悩み、月の売上が10万円を超えても無申告のまま放置されていたそうです。
このまま続けると修正申告と延滞税が膨らむと知り、起業18フォーラムに参加されました。勉強会で「開業日に正解はない。動き出した日を開業日と決めればよい」と聞き、自分の誕生日(月の中旬)を開業日に設定。同時に青色申告の申請も済ませて方針を修正されました。
その後、会計ソフトを導入し、ハンドメイドから「子育て世代向けハンドメイド講師」へ業態を広げ、3年目には月収20万円を超え、現在は会社員の夫の扶養範囲を超えて月収35万円超を安定的に得ています。Uさんがおっしゃるのは「開業日を決められないまま1年無駄にしたが、決めた瞬間から事業が動き出した感覚があった」という言葉です。
迷ったときに使える「開業日決定フローチャート」
とはいえ、頭ではわかっていても腹落ちしない方のために、シンプルな決定フローをお伝えします。
- すでに売上があった場合:その月の1日を開業日に設定する
- これから動き出す場合:次に来る月初を開業日に設定する
- 節税メリットを最大化したい場合:1月15日以前か、1月16日以降2ヶ月以内に申請
- 記念日にしたい場合:自分の誕生日・結婚記念日・縁起の良い日を選ぶ
どれを選んでも法的に問題ありません。最も避けるべきなのは「決められないまま動かないこと」です。開業届と青色申告承認申請書をセットで提出すれば、その日からあなたは個人事業主としての法的立場を手に入れます。

納得のいく開業日を選びたい気持ちは、新しい挑戦の重みをあなたが感じている証拠でもあります。だからこそ、決めることに時間をかけすぎず、決めた日から事業を育てる時間に投じてください。動き出してから後悔するより、動かないまま時間を失うほうが、何倍も惜しい選択になってしまいます。
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