記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
人の歴史を掘り下げるのが好きで、行政書士の方と組んで家系図作成を仕事にできないかと考えています。NHKの番組で哀川翔さんの先祖が佐賀鍋島藩士だったと紹介されるなど、ファミリーヒストリーは根強い人気です。
ただ私自身は行政書士の資格を持っていません。それでも参入できるものでしょうか?

● 回答
行政書士の資格がなくても、家系図作成は仕事にできます。鍵になるのは、戸籍取得など法令上の手続きが絡む部分と、聞き取り・編集・装丁・物語化の部分を切り分け、ご自身の立ち位置を後者に置くことです。
この切り分けには法的な裏づけがあります。最高裁判所は平成22年(2010年)12月20日の判決で、観賞用・記念品としての家系図作成は、行政書士法1条の2が定める「事実証明に関する書類」の作成には当たらず、行政書士の独占業務ではないと判断しました。日本行政書士会連合会も翌2011年1月にこの判断を周知しています。
ただし注意したいのは、無資格者が職務上請求用紙を使って他人の戸籍を取得するのは別問題で、この事件でも争点になった点です。戸籍取得は依頼者ご本人が行うか、資格者が適法な委任に基づいて扱う。質問者様は「家系図の中身を膨らませる仕事」に専念する。この役割分担を最初に固めておけば、安全に走り出せます。
起業準備の相談を受けていて何度も感じるのは、家系図ビジネスで先細りする方の共通点が、「戸籍を取り寄せて図面に整えるだけ」のサービス設計にとどまり、ルーツを語れる物語の編集まで踏み込めていないことです。質問者様が持っている「人の歴史を掘り下げるのが好き」という出発点は、この一番の差別化要素にそのまま重なります。
無資格で参入する三つのパターン
現場で見てきた成功事例を整理すると、資格を持たない方が参入する際の現実的な選択肢は次の三つに分かれます。質問者様の場合、行政書士と組むパートナー型がいちばん入りやすい構造です。
- ①パートナー型(質問者様向き):
行政書士と業務提携する形。戸籍取得の手続きや適法な委任対応は資格者が担当し、自分はヒアリング・写真整理・物語化を受け持つ。客単価は10万〜30万円が中心。利益配分は事前契約で明確にしておく。 - ②取材編集者型:
資格者と組まず、依頼者本人が自分で取り寄せた戸籍を素材に、編集・装丁だけを請け負う。客単価は5万〜15万円。書籍編集やライターの経験がある方が始めやすい。 - ③写真集・記念冊子型:
家系図は付属に位置づけ、主役は家族写真集や記念冊子。終活市場との相性がよく、葬儀社や霊園との提携で安定受注につながる。客単価は15万〜50万円。
三つの中で初期費用が最も小さいのは①です。行政書士と組むなら、家系図作成を専門業務として掲げている事務所を選ぶ。この一点だけで、契約後の業務分担のトラブルがほぼなくなります。
2024年の戸籍法改正で何が変わったか
この仕事を考えるなら、2024年3月1日に始まった戸籍証明書の広域交付制度を押さえておく必要があります。これは戸籍法改正にともなう制度で、本籍地が遠方でも、最寄りの市区町村窓口で直系の戸籍を一括して請求できるようになりました。相続手続きを大きく短縮する制度として注目されています。
ただし、家系図作成の現場ではいくつか制約があります。請求できるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属に限られ、兄弟姉妹などの傍系は対象外です。さらに、家系図作成のような提出先のない請求は受付不可とする自治体があり、対応する場合も交付まで1か月ほどかかることが案内されています。
ここから読み取れるのは、制度が便利になったぶん、依頼者ご本人が直系の戸籍を取り寄せやすくなったということです。つまり「本人が集めた戸籍を、質問者様が物語に編む」という役割分担が、以前より自然に組みやすくなりました。制度の最新事情を依頼者に説明できることそのものが、信頼の入口になります。
需要は伸びている、けれど客層は一様でない
家系図ビジネスの需要を支えているのは、終活への関心、高齢の方が人生を振り返るニーズ、相続をきっかけにした家族関係の整理、テレビ番組「ファミリーヒストリー」の継続的な放映効果の四つです。家系図作成を専門に扱う事務所のなかには、予約が数か月先まで埋まるところも出ています。
一方で「家系図」と一口に言っても、客層は三つに分かれます。
- 富裕層・経営者層:
ルーツ調査をともなう本格版。客単価は30万〜100万円。江戸時代以前まで遡る案件もあり、調査費用が大きく乗る。 - 中高年・終活層:
親が存命のうちに聞き取りを残したいニーズ。客単価は10万〜30万円。物語化や音声記録の付加価値が効く。 - 記念ギフト層:
還暦祝いや出産祝いに贈る簡易版。客単価は5万〜10万円。写真集との抱き合わせで利益率が上がる。
質問者様が「人の歴史を掘り下げるのが好き」なら、富裕層・経営者層がもっとも相性のよい客層です。客単価が高い層ほど、戸籍そのものより「自分の人生がどう続いてきたか」という物語を求める傾向があり、聞き取りに2〜3時間かける手間を惜しまない事業者だけが、紹介とリピートを得ています。
会員さんの実例:紹介で回り始めた保科さん
元雑誌編集者の保科さん(50代女性)は、会社員時代の編集スキルを活かして家系図作成を始めようとされました。最初は自己流で、地元の回覧板にチラシを挟む方法で広報したものの、半年たっても問い合わせはありませんでした。「人の歴史を本にしませんか」というメッセージだけでは、誰に向けた仕事なのかが伝わらなかったのです。
流れが変わったのは、起業18フォーラムの勉強会がきっかけでした。そこで「最初のお客様は、たった一人を深く満足させれば九割うまくいく」という考え方に出会い、広告で広く集めるより、目の前の一人を徹底的に喜ばせる方向へ舵を切ったそうです。勉強会のあと会員さん同士の個別相談で具体策を詰め、まずは知人の母親の家系図を一冊、丁寧に仕上げることに集中しました。
この一冊が、保科さんの転機になりました。完成品を見た知人が親戚に見せ、そこから「うちもお願いしたい」という声が続いたのです。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、自分一人・お客様一人で成立するシンプルなビジネスから始めることを紹介しています。保科さんはまさにその通りに、一人を深く満足させた仕事が次の依頼を連れてくる流れをつくりました。
その後、地元で家系図作成を扱う行政書士事務所に提携を持ちかけ、戸籍取得後の編集・装丁を引き受ける形で連携が成立しました。自己流で「興味」だけで進めると半年で止まりますが、法令上の境界線と役割分担を整理してから動けば、紹介が紹介を呼ぶ流れに乗れます。保科さんが今いちばん手応えを感じているのは、件数や金額よりも、行政書士や過去の依頼者から名指しで紹介が届くようになったことだと話してくれました。
最初の一件は、たった一人を深く満足させることから
家系図ビジネスは、いきなり広告を打って集めるより、最初の数件を身近な紹介で丁寧に仕上げるほうが、結果的に早く軌道に乗ります。ヒアリング・編集・装丁の各工程で自分の得手不得手が見えますし、完成した一冊が次の紹介を呼びます。最初の作品を、自分の祖父母や両親に向けて非売品で作ってみる。そこから一件目の依頼が動き出します。
哀川翔さんがNHKで紹介された武将の掛け軸のように、家系図には人を惹きつける固有のエピソードが必ず眠っています。質問者様の興味と編集力で、そのエピソードを掘り起こせるかどうかが勝負どころです。次の一歩としては、ふだん取引のある士業の方や、地元の行政書士・司法書士に「家系図作成で連携できないか」と一言相談を持ちかけるところから始めてみてください。
よくある質問

Q1.無資格でも戸籍謄本の取り寄せを代行できますか?
依頼者ご本人が自分の家族の戸籍を市役所で取り寄せること自体は可能です。一方で、第三者である質問者様が本人の委任なく取得したり、取得代行を有料サービスとして前面に出したりする設計は避けるべきです。2010年の最高裁決定でも、職務上請求用紙の不正使用は問題視されました。
本人が取り寄せた戸籍を素材として受け取り、質問者様が編集する形であれば、家系図編集の範囲に収まります。手数料の名目を「戸籍取得代行」にしない設計が安全です。
Q2.家系図はどこまで遡れますか?
一般に取得できる古い戸籍は、1886年(明治19年)式戸籍が実務上の目安です。1872年(明治5年)の壬申戸籍は制度史上は重要ですが、現在は閲覧・交付の対象外です。明治19年式戸籍から江戸末期・幕末生まれの先祖に到達できるケースはあり、それ以前は寺院の過去帳確認が必要になるため、費用も大きく上がります。
Q3.パートナーの行政書士はどう探せばよいですか?
地域の行政書士会のホームページから、家系図作成を業務分野に掲げている事務所を絞り込む方法が最短です。提携の提案は「戸籍取得後の編集・装丁業務を外注したい事務所」を想定して提案書を作ると話が進みやすく、利益配分は最初の数件で実績データを揃えてから本契約に進む構造が安全です。
Q4.客単価はどれくらいから設定すべきですか?
パートナー型なら、最初は10万〜15万円帯から始めるのが現実的です。半年から1年で実績が出てきたら20万円帯に引き上げ、富裕層向けの本格版を別ラインで30万〜50万円帯に置きます。安すぎる初期設定はリピートにつながりにくいので、価格は強気に設定し、内容で応えるのが鉄則です。
人の歴史を掘り下げるのが好きという出発点は、この事業との相性として申し分のない土台です。これだけ法令や役割分担に目を向けて考えている時点で、勢いだけで始める人とは出発点が違います。あとは法令上の境界線とパートナーシップ設計の二点を最初に固めれば、無理なく走り出せます。

まずは法令上の境界線を一枚にまとめ、地域の行政書士会のサイトで家系図作成を業務分野に掲げる事務所を二、三件リストアップしてみてください。そのうえで連携の相談を一件持ちかけるところまで進めれば、最初の一冊に向けて具体的に動き出せます。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
