
記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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今回は、マネーの虎で8,200万円という高額な出資を求めた、女性のための新スタイル回転寿司の事業計画についてお話しします。この放送回は、回転寿司業界経験者の虎と志願者の間で繰り広げられた、緊迫感溢れるやり取りが印象的でした。
マネーの虎は、起業を志す人が虎と呼ばれる投資家たちの前で事業計画をプレゼンし、出資を受けられるかを競う番組です。2001年から2004年まで日本テレビで放送され、海外にもフォーマット輸出された人気番組でした。
番組冒頭で告げられるルールは厳格です。虎たちの出資の合計額が志願者の希望額に1円でも達しなかった時、この話は不成立となります。また、この場で志願者が話すことにおいて、1つでもウソ偽りがあったとき、たとえマネーが成立しても後に不成立となります。
衝撃の希望額発表
志願者:「8,200万円です。」
虎たちの顔色が変わります。
志願者:「女性のための新スタイル回転寿司の開業資金です。」
今回の志願者は女性。弟と二人で回転寿司屋を2店舗(武蔵村山市と羽村市)経営しているシングルマザー40歳。8,200万円という高額な希望額に、虎たちも驚きを隠せません。
- 堀之内九一郎(54歳当時)年商50億
(株)生活創庫 代表取締役
全国規模のリサイクルショップチェーン - 貞廣一鑑(39歳当時)
(株)ラヴ 代表取締役
人気ダイニングバーを全国で展開 - 加藤和也(30歳当時)
(株)ひばりプロダクション 社長
美空びばりの長男・音楽プロデューサー - 文野直樹(42歳当時)年商70億
(株)大阪王将 代表取締役社長
躍進する大阪発の大手外食チェーン - 川原ひろし(38歳当時)
なんでんかんでん・フーズ(株)社長
世田谷にある有名とんこつラーメン店
ちなみに、、この放送回には出演されていませんが、2025年の参院選で維新から出馬された南原会長です。虎ノ門・株式会社LUFTホールディングス事務所にて、パチリ。
お店のコンセプトは面白いが… 虎が噛みつく
志願者は業界の現状をこう分析しました。
- お寿司屋さんは、男性が握って女性がホールという、男性中心の店作りが多いと思う。故に、なかなか女性1人で入りづらい。
- 握りも女性、ホールも女性、スタッフ全員女性でやって、1人でも女の子が気軽に入れるようなお店を作りたい。
虎のするどい質問が始まります。
志願者:「まず店作りをオープンエアにします。オープンエアにしてカフェスタイルを考えております。
街歩いてる女性も男性もいますけれども、そういう人たちに『いらっしゃいませんか』とか『いかがお願いしまーす』とか、威勢のいい声を外に向けてアピールできる。例えば焼き鳥屋さんで言ったら屋台というか、それによってみんなが振り向いて『ここは女性だけでやってるんだ』というそういうイメージがわくと思うんですよ。
それと、もう1つ、ユニホームもおしゃれなイタリア料理店の感覚っていう風な形で思っています。」
同じく回転ずしを経営する文野社長が切り込みます。
志願者は堂々と訴えます。
文野社長:「一貫70円!?」
文野社長と川原社長が驚いた表情を見せます。続いて文野社長が志願者の現職を聞いたところで、空気が少し変わります。この時点で、志願者が回転寿司屋を2店舗経営していることが明かされたのです。虎の目が一層輝きます。
既存店との関係について厳しい追及
ここで、川原社長が切り込みます。
志願者:「場所的にやっぱりファミリー層というか、その人がたくさん通ってるわけでもないし。」
川原社長:「じゃああなたにとって、そういう場所っていうのはどういう場所のこと?」
志願者:「一応今考えているのが表参道なんです。」
差別化への疑問が噴出!
ついに、貞弘社長が突っ込みます。
ですから、真似できないところなんだっていう話(を聞きたい)。
志願者は反論します。
しかし、堀之内社長から、すぐに厳しい現実が突きつけられます。
志願者は一瞬たじろいだ様子ですが、頑張って発言を続けます。
文野社長が畳みかけます。
そういう障壁がないとですね、ほんとに真似できる。回転寿司が世の中いっぱい多いですよね。わかりますよね、その理由は参入障壁が低いからですよ。装置産業だから。」
ここで、吉田栄作さんが切り込みます。文野社長の店にはそういうものがあるのか? と質問を差し込んだのです。
文野社長は、自分の店は回転寿司でありながら花板制であり、メインの職人の技術力が参入障壁になっている(その代わり少し高い)ということでした。
志願者は低価格を追求していく、現在のお店でも寿司2貫99円でやっているとのことで、これには文野社長も少しあきれ顔になってしまいました。
戦略への根本的な疑問
志願者:「5,000万は保証金です。あと内外装で3,200万円。レーンとか厨房関係はリースでできると思いますし。」
文野社長:「何坪くらいのイメージ?」
志願者:「40坪くらいですね。」
川原社長:「利益はどれぐらい考えている?」
志願者:「月1,500万の売上を目標に考えているんですが。」
ここで、ラーメンの虎、川原社長から決定的な指摘が飛び出します。
川原社長が最初にラーメン屋を始めようと思ったとき、かっこよさだけを重視して新宿や渋谷で開業を考えていた。しかし、敷金・礼金や改装費などを含めて500万円あれば十分だと思い込んでいたが、不動産屋に相談したところ「それは勘違い」と言われ、新宿で店舗を持つには3,000万〜5,000万円は必要と知った。現在は世田谷で営業しており、それでも多い月には2,000万円の売上を上げている。それでも最近は女性客も増え、わざわざ訪れてくれるようになった。
文野社長も続きます。回転寿司は主にファミリー向け業態であり、その特性から郊外に出店するのが基本戦略である。そして、回転寿司の強みは「家族でたくさん食べても安いという点にあり、それが市場ニーズ。都心に出店するのは通常の発想ではなく、女性が表参道で回転寿司を食べる光景は現状のイメージとは異なる。
凄まじいダメ出しです。ですが、志願者はそういう回転寿司イメージを覆したいと訴えます。
ここで加藤社長から質問が飛び出します。
志願者の過去と動機
志願者:「それはもう離婚が原因ですね。私は結婚で嫁ぎ先が回転寿司を経営しておりまして、そこで鹿児島ですので…」
ここで志願者は感情的になってしまいます。
加藤社長:「どうぞ、大丈夫。」
志願者:「結婚して、でも私は一生懸命やってたんですよ。それで繁盛店になったんですが、結局その解任されたんですよ。」
文野社長:「解任が先なんですか、離婚したから解任されたんですか?」
志願者:「解任が先です。解任されたその後、離婚したということです。」
加藤社長:「なぜ解任されたのですか? 具体的にはどういう?」
志願者:「その土地柄っていうか、どんどん仕事をしていって、ある時期に『家に入ってくれ』と。そういう話し合いの中でちょっとギクシャクして、結果離婚っていう感じですね。
最初は本当に悔しい思いがしましたけど、だけどそういう気持ちだけでは事業はできないので。」
業界の本質を突きつけられる
文野社長が本質を語り始めます。
ある意味パチンコ屋さんと勝ちパターンが似てるんですよね。少しでも良い立地とレーンの数と客席数という風なところで、投資ができる企業が実は勝ってくるんですよね。ですから普通に言ってる飲食とは少し勝ちパターンが違うんです、実は。成り立たないものは成り立たない。」
次いで堀之内社長が切り込みます。
文野社長:「たぶん店長としてですね、マネージャーとしてはすごく優秀な方なのかなっていう気はするんですよ。優秀な店長=優秀な経営者じゃないんですね。まったく別物ですよ。だから学ばなければいけないことは別のことなんですよね。」
残念ながら、結果はノーマネー。金額が大きすぎましたね…
この放送回から学べること
- 装置産業における資本力の重要性
「回転寿司は装置産業。勝ちパターンは資本力、良い立地、レーンの数、客席数への投資」という指摘は、業界の本質を突いています。 - 差別化は「真似されにくいもの」を選ぶ
「簡単に真似できる」差別化では持続的競争優位は築けません。参入障壁の高い要素が必要です。 - 既存事業の成功が信頼性を高める
「優秀な店長≠優秀な経営者」という厳しい指摘。まずは現在の事業で確実な成果を上げることが重要です。 - 立地戦略は業界の常識を理解してから
回転寿司業界の「郊外展開」という常識に対し、都心部展開を提案するには、より強固な根拠が必要でした。 - 個人的感情と事業の客観性
離婚や解任という辛い経験が動機となっているのは理解できますが、投資家はより客観的な成功要因を求めます。
現実は厳しいですね。
まとめ
この放送回は、既存業界での経験者が新規事業に挑戦する際の課題を浮き彫りにしました。志願者の熱意と実行力は素晴らしく、実際に2店舗を経営している実績もありました。
しかし、8,200万円という高額投資に見合う差別化戦略、表参道という立地選択の妥当性、既存事業との関係性について、虎を納得させるには至りませんでした。

「装置産業は資本力が全て」「優秀な店長と優秀な経営者は別物」といった虎たちの厳しい指摘は、起業を目指す方にとって貴重な学びですね。
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