記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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少し前まで起業する場所といえば東京というイメージが強かったですが、地方におけるITや物流などのインフラの発達、働き方改革や地方創生といった政策の後押しもあり、起業する場所に地方を選択する方は年々増えています。
実際に、地方から起業18フォーラムの勉強会に参加される方も月単位で増えており、私個人の肌感覚でもこの流れは今後ますます拡大するのではないかと感じています。
地方での起業はメリットも多いのですが、当然、デメリットがあるのも事実です。
そして、そのデメリットには地方特有のものもあるため、地方で起業をする際には、それらを十分考慮して準備をする必要があります。
そこで今回は、地方、特に田舎での起業に多い、カフェなどの飲食店、IT系、農業の3つの起業準備においておさえておきたいポイントについてご紹介したいと思います。
1.カフェ経営・・・天然のおいしい水でも水質調査は必要
おいしい湧き水を使ったコーヒーが売りのお店をオープンさせたいなど、田舎でカフェやパン屋さん、お蕎麦屋さんの起業を目指す方は少なくありません。
飲食店の経営をするには、まず保健所による飲食店営業許可が必要です。飲食店営業許可を取得するためには、必要書類の提出のほか、各都道府県が定めている食品衛生法執行条例を満たすこと、食品衛生責任者を1名以上配置することが条件となります。
食品衛生責任者の資格は保健所で講習会やテストを受ければ1日で資格を取得できますが、すでに栄養士や調理師などの資格を持っている方であれば講習などを受ける必要はありません。
ここまでは起業する場所がどこであっても同じですが、田舎で飲食店をする際に忘れがちなのが水質検査です。
井戸水と貯水槽の水を使用する場合は毎年水質検査を
国内での上水道普及率は直近の2015年度のデータでも既に98%にまで達していますが、山奥などでは上水道がまだ届いていない場所もあります。
そのため、上水道の代わりに井戸水を使用していたり、上水道が届いていても、水へのこだわりからあえて井戸水を使用するケースがあり、その際にはいくら綺麗で美味しい水であっても水質検査を受けなければなりません。
水質検査は井戸水だけでなく貯水槽の水を使用する場合にも年1回以上行う必要があり、その都度数万円程度の費用が発生しますので、水道管から直接水を使用しない場合は注意が必要です。
水質は周辺の環境の変化によっても変化していくものですので、天然の水を売りにするような飲食店の場合は、もしも天然水が使用できなくなった場合などの対策についても考えておきましょう。
2.IT系・・・田舎でも通信環境の整った場所はある
ITインフラが発達し、テレワークといった働き方が普及しつつある現在、地方、しかも田舎でIT系のベンチャー起業を立ち上げたいという方も増えています。
しかし、都市部ではもはや当たり前の光回線も田舎では通ってないことも珍しくなく、インターネット回線はADSLだけという場所も少なくありません。
そのため、起業をする際には通信環境が整っている場所かどうか、通信環境を整えることができる場所かどうかをあらかじめ調べておく必要があります。
光回線が通ってない場所はWi-Fiルーターの検討を
田舎で起業したい方の中には、自分の生まれ故郷を起業場所として考えている方もいるでしょう。起業の場所は決まっているが、その地域に光回線が通っていないという場合は、モバイルWi-Fiルーターを使用してインターネット環境を整えるというのもひとつの手です。
ちなみにモバイルWi-Fiルーターには現在WIMAXとLTEの2種類がありますが、一般的に田舎で使用する場合はLTEの方がつながりやすく安定しやすいと言われているようです。
ただし、WIMAXのエリアも日々拡大されているようですので、どちらが本当に快適か、エリア確認は必ず行うようにしましょう。
起業場所が決まっていなければ「最先端の田舎」も選択肢に
IT系の起業を考えている方には「都会で生まれ育ったが、以前から緑に囲まれた環境に憧れていた」「日々の電車通勤や人の多い職場に疲れた」などという理由から起業場所に田舎を希望する方もいます。
そして、このような起業するなら田舎がいいが、場所は特に決まっていないという方には、山間部であっても過疎対策などから企業誘致を行うためにネットワーク環境を整えている地域もおすすめです。
例えば、徳島県徳島市神山町では、自然豊かな環境でありながら町内全域に高速ブロードバンド網が張り巡らされており、クラウド名刺管理サービスで知られる株式会社Sansanのサテライトオフィスをはじめ、現在16社もの企業が進出しています。
地方創生の動きもあり、徳島市神山町の他にも鳥取県鳥取市や兵庫県丹波市、島根県松江市など、IT企業の誘致を積極的に行っている自治体は年々増えているため、こういった自治体を中心に起業場所を検討すれば、通信環境について不安を抱えることも少なくなるでしょう。
また、たとえ田舎であっても、同業者が近くにいれば都会と同じように情報交換をすることもできますし、コミュニティができることで更なるビジネスチャンスが生まれる可能性にも期待ができます。
3.農業・・・ノウハウなくして成功なし! JAの活用を
「稼業である農業を新しい形のビジネスに変えて起業したい」「あるレストランで出会った野菜に感動し、自分も農業で起業したい」など、同じ農業を志す方でもその動機は様々です。
しかし、動機は何にせよ基本的に農業で起業する場合、起業場所として田舎を選択することが多くなるでしょう(農業の中には牛や鶏などを扱う酪農もありますが、酪農で起業するには莫大な初期費用がかかり、新規参入も容易ではないため、ここでは稲作や畑作などの農業について書きたいと思います)。
住み込みか研修機関でノウハウを身につける
自宅のベランダや庭で家庭菜園をされたことがある方なら、スーパーで販売されているような野菜にすることがいかに難しいかはご存知でしょう。
農業というのは一見単純なようでいて、実は非常にタイミングや経験、技術が重要で、親族が農業を営んでいる場合を除いては、農業で起業する際にはあらかじめ生産技術や知識を身に着けておく必要があります。
そして、こういったノウハウを身につけるには、大きく2つの方法があります。
ひとつは、アルバイトを募集しているような大規模な農家に住み込みで働く方法、もうひとつは、農業大学校などの専門の研修機関で学ぶという方法です。
専門の研修機関の場合、農業に関する技術や知識をバランス良く学ぶことができますが、その分学費がかかってしまうというデメリットもあります。
一方、農家に住み込みで働く場合、お金はかかりませんが、いかんせん住み込みという形をとりますのでサラリーマンなどの仕事をしながら続けるといったことはまず不可能でしょう。
どちらの方法もメリット・デメリットがありますので、言うまでもなくご自分の状況に合った方法を選ぶことが大切ですが、いずれにせよ、農業は天候や病気など予期せぬことが起こるものです。
そのため、起業するのであればイレギュラーな事象が起こった時すぐに相談できる「農業の先輩」が近くにいる場所を選ぶことをおすすめします。
ただし、その場所に新規参入することで他の農家に与える影響もありますので、場所選びは慎重に行うべきでしょう。
資金調達や販路についてはJAを活用する
農業の起業では、場所選びの他にも農地の購入やトラクターといった機材にかかる初期費用、さらには生産物の販路をどう確保するかといった問題もあります。
そこで活用したいのがJA(農協)です。JAでは新規就農者向けの融資制度や、販路の提案なども行っています。
そのため、特に農業で起業する方にとっては非常に心強い味方となってくれることでしょう。田舎での起業は、都会では全く気にしていなかったことが大きな問題になるケースも多いですが、一方で、自然環境や時の流れなど、都会では味わえない魅力もたくさんあります。
田舎での起業を失敗させないために、どんな業種であっても、まずは都会での常識を取っ払うことからはじめてみましょう。
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起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全12冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。
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