特定商取引法に基づく表記に本名を書かない(屋号のみ)ことは可能?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

アドバイスに沿ってネットショップの制作を進めています。気になっているのが、特定商取引法に基づく表記です。

勤め先が就業規則で兼業を禁じているため、どうしてもネット上に本名を出したくありません。代わりに名前を貸してくれる家族や友人もいません。自宅の住所や電話番号も、そのまま公開するのが怖いです。

屋号だけで、本名も自宅住所も出さずに対応する方法はないのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

特定商取引法に基づく表記(いわゆる特商法表記)のご質問ですね。勤め先に知られたくない方から、毎月のようにいただく相談です。まず安心していただきたいのは、「本名(氏名)」と「住所・電話番号」は、特商法のなかでも対処のルールがまったく別だということです。ここを分けて考えると、出口がはっきり見えてきます。

本名は、屋号で置き換えるのに「商号登記」という一手間が要ります。一方の住所と電話番号は、2026年現在、プラットフォームの代理表示という現実的な方法で隠せます。順番にご説明します。

結論:本名は「商号登記」、住所・電話は「代理表示」で対処する

先に全体像をお伝えします。氏名と住所では、使える手段がこう分かれます。

本名・住所を出さないための対処マップ(2026年)

  • 本名(氏名):
    商号登記した屋号なら、本名の代わりに表記できる。自分で決めただけの屋号や開業届の屋号は不可
  • 住所・電話番号:
    BASE・minne・STORESなどの代理表示(非公開設定)を使えば、各プラットフォーム運営会社の住所・電話が代わりに表示される
  • 共通の注意:
    どちらもトラブル時には開示義務が残る。隠すことと、いざという時に連絡が取れることはセットで考える

この地図を頭に入れたうえで、それぞれの中身を見ていきましょう。

本名を出さない唯一の正攻法は「商号登記済みの屋号」

まず本名についてです。消費者庁の特定商取引法ガイドには、氏名の表記についてこう明記されています。

氏名(名称)については、個人事業者の場合には、戸籍上の氏名または商業登記簿に記載された商号を、法人の場合には、登記簿上の名称を記載することを必要とし、通称や屋号、サイト名は認められません。

出典:消費者庁 特定商取引法ガイド「通信販売広告について」(2026年6月確認)

ポイントは「商業登記簿に記載された商号」という一語です。開業届に書いた屋号や、自分で決めただけの屋号ではなく、法務局で「商号登記」をした屋号であれば、本名の代わりに表記できます。逆に言えば、登記していない屋号やペンネームは、ここでは通用しません。

商号登記の手順と費用(個人事業主の場合)

商号登記は、法人登記と同じ法務局の窓口で行います。電話で来庁予約ができます。必要なものは次のとおりです。

商号登記に必要なもの

  • 個人の実印と印鑑証明書:
    本人確認のために用意する
  • 印鑑届出書:
    法務局の窓口に用紙がある
  • 商号登記申請書と別紙:
    法務局のサイトにフォーマットがあり、ワードで自作できる
  • 登録免許税:
    3万円を収入印紙で納付する

書類に不備がなければ、申請から1週間程度で登記が完了します(管轄の法務局や申請時期によっては10日前後かかる場合もあります)。ひとつ注意が要るのは、商号登記は商法上の「商人」に該当する事業者が対象であるということです。商法では、物品の売買や製造販売など「商行為」を業とする者が「商人」とされており、商号登記はその商人だけが申請できます。純粋な役務提供のみで「販売」の要素を含まない業態(例:助言のみのコンサルティング)は商人に該当しないとして、法務局の窓口で受け付けてもらえない場合があります。申請の前に、自分の事業内容を窓口で相談しておくと確実です。

住所・電話番号は2026年は「代理表示」で隠せる

次が、以前と大きく変わった部分です。かつては「自宅住所と電話番号は必ず公開しなければならない」と説明されていました。私自身、過去にこの相談へ「バーチャルオフィスは使えない」とお答えしていた時期があります。ですが、2026年の現実は違います。

ネットショップ作成サービスの多くが、個人事業主向けに住所・電話番号の代理表示(非公開設定)を用意しています。非公開にすると、特商法表記には各プラットフォームの運営会社の住所と電話番号が代わりに載る仕組みです。

住所・電話を隠せる主な手段(2026年)

  • BASEの非公開設定:
    2022年1月12日に実装。個人ショップが対象で、非公開時はBASE株式会社の住所・電話が表示される
  • minneの非公開設定:
    特定商取引法の「販売業者」に該当する個人・個人事業主が対象(法人は不可)。設定するとminneを運営するGMOペパボ株式会社の住所・電話が代わりに表示される
  • STORESの非公開設定:
    個人が対象(法人は不可)。設定するとSTORESを運営するSTORES株式会社の住所・電話が代わりに表示される
  • 請求時開示による省略:
    特商法では住所・電話番号に限り、消費者の請求があれば遅滞なく開示する条件で、広告上の省略が認められる

ただし、隠せば終わりではありません。注文トラブルや返品の連絡があったときは、非公開にしていても住所や連絡先を開示する義務が残ります。商品を発送するときの発送元も、運営会社ではなく自分の住所を使う必要があります。「ふだんは見えないが、いざという時には届く」状態を保つのが条件だと考えてください。住所まわりの選び方は、別の記事でプラットフォームごとに詳しく整理しています。

法人にしても代表者の氏名は必要(よくある誤解)

「会社をつくれば個人名が出なくて済む」と考える方がいますが、これは誤りです。法人であっても、インターネットを使って通信販売を行う場合は、代表者または通信販売の業務責任者の氏名を表記しなければなりません。法人名だけでは要件を満たしません。消費者庁の特定商取引法ガイドにも、「事業者が法人であって、電子情報処理組織を利用する方法により広告をする場合には、当該事業者の代表者又は通信販売に関する業務の責任者の氏名」の表記が義務付けられていることが明記されています。

つまり、本名を出さない目的だけで法人化しても、解決にはなりません。氏名を隠したいなら、やはり商号登記済みの屋号が現実的な答えになります。

身バレが怖くて止まっていた、速水さんの話

起業18フォーラムの会員さんに、自宅でハンドメイドのアクセサリーを作っている30代の速水さんという方がいました。作品の評判は会社の同僚にもよく、独立への気持ちは固まっていたのですが、特商法表記の自分の名前と自宅住所のところで、半年近く手が止まっていたのです。

point

「ここに本名と家の住所を載せた瞬間、勤め先の誰かに見つかる気がして、公開ボタンが押せない」。当時の速水さんは、そう話していました。名前を貸してくれる家族もおらず、八方ふさがりに感じていたようです。

転機になったのは、フォーラムの個別相談で「氏名と住所は別ルール」という整理をお伝えしたことでした。氏名は商号登記、住所はプラットフォームの代理表示。この二つを分けて手を打てると分かると、速水さんの表情が変わりました。まず住所と電話を非公開設定にし、屋号の商号登記を進めたのです。

公開後の速水さんは、自宅住所が表に出ていない安心感から、作品の更新を止めなくなりました。最初の購入者がリピーターになり、その方の紹介でさらに買ってくれる人が現れ、半年後には毎月決まった数の注文が入る常連さんがつくようになりました。半年止まっていた人が、止まらなくなった。きっかけは、新しい才能ではなく、ルールを正しく切り分けただけでした。

ここで一つ、起業の考え方をお伝えします。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』。この中で、会社員時代の信用は会社の看板やかばん、顧客のおかげである部分が大きいと紹介しています。だからこそ独立では、自分自身の看板を一から立て直す必要があります。

商号登記をした屋号は、まさにその「自分の看板」を世の中に掲げる最初の一手です。本名を隠すための後ろ向きの作業ではなく、自分の信用を育てる前向きな一歩だと、私は考えています。

会社にバレないための住民税と活動名の注意点

表記の問題が片づいても、勤め先に知られたくない気持ちは残りますね。バレやすさを下げるうえで、押さえておきたい点をまとめます。

勤め先に知られにくくするための実務ポイント

  • 住民税は普通徴収を選ぶ:
    確定申告で「自分で納付」を選ぶと、起業準備の収入分の住民税が勤め先に通知されにくくなる
  • 活動名を一貫させる:
    SNSやブログの運営名に本名を使わず、商号登記した屋号や活動名でそろえる
  • 就業規則を先に読む:
    そもそも何が禁止されているのかを確認し、競業避止や情報漏洩に触れないビジネスを選ぶ

ひとつ補足します。「バレないようにする」ことより「万一バレたときに説明できる形にしておく」ことのほうが大切です。就業規則の解釈や処分の重さは勤め先ごとに違います。隠す工夫と並行して、本業に支障のない範囲で活動している事実を残しておくことが、長く安全に続けるための土台になります。

よくある質問

特商法表記とプライバシーについて、相談の現場でよくいただく質問にお答えします。

Q. 開業届に書いた屋号を、そのまま特商法表記の名前に使えますか?

使えません。開業届の屋号は税務上の名乗りで、特商法表記の「氏名(名称)」とは別ものです。氏名の欄に屋号を使うには、法務局での商号登記が必要になります。屋号で本名を隠したいなら、開業届ではなく商号登記のほうを確認してください。

Q. バーチャルオフィスの住所は特商法表記に使えますか?

条件しだいです。現に活動の実体がない私書箱のような使い方は認められませんが、プラットフォームの代理表示や、実際に作業の拠点となるレンタルオフィスであれば、住所として使える場合があります。判断が難しいときは、行政書士や弁護士に具体的な事業内容を相談すると確実です。

Q. 住所や電話を非公開にしたら、お客様には一切伝わらないのですか?

いいえ。ふだんの表記では運営会社の情報が表示されますが、返品やトラブルの連絡があったときには、あなた自身の住所・連絡先を開示する義務が残ります。隠すことと、必要なときに連絡が取れることは両立させておきましょう

ネットショップに本名を出したくない|住所代理表示が使える4プラットフォームと家族名義に頼らない3手順
● 質問ネットショップを開設する手続きを進めているのですが、サラリーマンのため特定商取引法に基づく表記に本名を出したくありません。実家に住む母親(年金受給者)の名義で開業届と特商法表記を出そうと考えているのですが、注意点はありますか?● 回答結論を言うと、お母様の名義借りは2026年現在でも法律上のグレーゾーンで、いまや「住所代理表示サービス」を提供する主要プラットフォームを使えば本名なしで合法的に始められます。名義貸しに頼らない実践手順と、26年・60,000人の支援現場で見えてきた「家族名義で失敗した本...

本名と住所のどちらで止まっているのかが分かれば、打つ手は意外とはっきりしています。今日できることは、自分がつまずいているのが「氏名」なのか「住所・電話」なのかを切り分けて、片方ずつ対処法を確認するだけで十分です。

半年止まっていた人も、ルールを分けて見ただけで動き出しました。怖さの正体を一つずつほどいていけば、公開ボタンは必ず押せるようになります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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