記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
家業を継ぐために、田舎(博多)に戻りました。起業18で引き続きビジネスを学びたいと思いますので、よろしくお願いします。実家は酒屋と菓子店を営んでいますが、完全な個人商店でつぶれる寸前です。
お酒を卸している飲食店は減る一方で、お菓子を買いに来るのは地元のお年寄りばかり、数百円しか買っていきません。今後の販路開拓と戦略の立案を行いたいのですが、何から手をつければいいでしょうか?

● 回答
家業を継ぐ決断をされたこと、本当に立派だと思います。つぶれる寸前のお店を前にすると、まず頭に浮かぶのは「どうやって元の売上に戻すか」だと思います。けれど、ここで立ち止まってほしいのです。
立て直しの出発点は、店頭販売を延命させることではなく、お客様が本当に欲しがっているものから業態を組み替えることです。同じ酒屋・菓子店の形のまま昔の業績を取り戻そうとすると、たいてい体力勝負になって続きません。発想の向きを変えるところから始めましょう。
まず捨てたい発想は「昔の業態のまま戻す」
飲食店向けの卸が減り、店頭客が高齢化しているのは、博多のご実家だけの問題ではありません。国税庁の「酒類小売業を中心とした酒類業等の現状と課題」でも、規制緩和以降にコンビニや量販店が増える一方で、昔ながらの一般酒販店が大きく数を減らしてきたことが示されています。つまり、店頭で待つ売り方そのものが構造的に縮んでいるわけです。
ここを「景気が戻れば戻る」と考えると打ち手を間違えます。戻る前提ではなく、売り場と客層を入れ替える前提に立つ。そのほうが、ご実家の小さな個人商店という規模ともかえって相性が良いのです。

「できること」ではなく「顧客の渇望」から逆算する
拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』の第3章では、お金の流れをつくるときに「自分にできること」から入ってしまう失敗を取り上げています。できることから始めると、誰かが本当に求めていることとズレて、ただの自己満足になりがちです。大事なのは、夜も眠れないほど強い「人の渇望」を起点に発想することなのです。
酒屋・菓子店という「できること」を一度わきに置いて、お客様の渇望を3つの問いで掘ってみてください。
- 誰の、どんな渇望か:
帰省できない人が地元の味を家族に送りたい、贈り物で外さないものを探している、など - その渇望にいま誰が応えているか:
応える店が近くにないなら、そこがご実家の入り込む隙間 - ご実家にしか出せない答えは何か:
博多の地酒の目利き、蔵元との付き合い、手づくり菓子の物語
この3つが交わるところに、戻すべき業態ではなく「組み替えた先の業態」が見えてきます。
いま現実的な売り方は、大きく3つ
渇望から逆算すると、2025年から2026年のいま動かしやすい売り方は、おおむね次の3方向に整理できます。総花的にぜんぶやるのではなく、1つ目から順に小さく試すのがコツです。
- 地酒のEC・ギフト:
全国に向けて地酒を売る。お中元やお歳暮、内祝いなどギフト需要は単価も上がりやすい - 体験と角打ち:
店内で試飲・飲み比べ・少量の立ち飲み(角打ち)を提供し、選ぶ楽しさを体験に変える - ふるさと納税・観光との連動:
自治体の返礼品や観光客向けのセットで、地元外の客層に接点を持つ
最初の1歩としては、いちばん渇望がはっきりしている「地酒のギフト」から、取引のある蔵元1社・看板商品1つに絞って小さく出してみてください。日本酒の「伝統的酒造り」は2024年12月にユネスコ無形文化遺産へ登録され、地酒への関心はむしろ高まっています。ふるさと納税やD2C(自社からの直販)で地方の酒販店・酒蔵が販路を広げているのも、この追い風の中での動きです。

ネットで酒を売るには「通信販売酒類小売業免許」が要る
地酒のECに踏み出すなら、ここは正確に押さえてください。2つ以上の都道府県の消費者に向けてお酒を通信販売する場合、店頭用とは別に「通信販売酒類小売業免許」が必要になります(国税庁)。いまある店頭の免許だけではネット販売はできない、という点を見落とす人が本当に多いのです。
しかも、この免許で売れる国産のお酒には条件があります。品目ごとに前年度の課税移出数量がすべて3,000キロリットル未満の製造者がつくった酒、つまり大手ではない地酒に限られます。仕入れる際は、その蔵元から「課税移出数量証明書」を出してもらう必要もあります。
- 店頭の免許ではネット通販は不可。通信販売酒類小売業免許が別途必要
- 国産酒は課税移出数量3,000kl未満の地酒に限られ、蔵元の証明書が必須
- 20歳未満の飲酒防止表示と、特定商取引法の表示が求められる
裏を返せば、この条件は「地酒に絞った小さな酒屋」にこそ向いた制度です。大手の安売り競争とは別の土俵で、目利きと物語で勝負できます。
実際に組み替えた会員さんの話
起業18フォーラムの会員に、地方で家業の酒屋を継いだ桜庭さん(仮名)がいます。継いだ当初は、棚を入れ替えたりSNSを始めたり、思いつくことを手当たり次第にやっていました。けれど店頭の客足は戻らず、半年たっても数字はほとんど動きませんでした。
転機は、ある常連客がふと漏らした一言でした。「ここの地酒、東京の息子に送れんと?」。同じ言葉を別の客からも聞いて、桜庭さんは「店に来てもらう」前提を疑い始めたのです。フォーラムの勉強会で発想を整理し、店頭を守る方向ではなく、地酒のギフトに業態を寄せる方向へ舵を切りました。
まず取引のあった蔵元1社に絞って課税移出数量証明書をもらい、通信販売酒類小売業免許を取得しました。看板にしたのは「博多の親へ/親から子へ贈る地酒セット」という、帰省できない人の渇望に答える商品です。立ち上げから1年半で、ギフトECだけで月23万円ほどの売上が立つようになり、落ち込んでいた店全体の数字を底支えするようになりました。

桜庭さんが特別だったのではありません。最初の一手を「店をどう飾るか」ではなく「誰のどんな渇望に答えるか」に置き換えただけです。お菓子も同じで、たとえば一つの看板商品に絞り込み全国にファンを広げた専門店のように、コンセプトをしぼってお酒と組み合わせれば、話題をつくる余地は十分あります。
今日からできる、小さな最初の一歩
大きな改装や設備投資の前に、お金のかからないところから動きましょう。やることは多くありません。
- 渇望を聞き取る:
常連客と取引先の飲食店に「ネットで送れたら/贈り物にしたいものは何か」を直接たずねる - 蔵元を1社決める:
いちばん思いを語れる地酒の蔵元に、課税移出数量証明書をお願いに行く - 看板商品を1つ作る:
聞き取った渇望に答えるギフトセットを、まず1種類だけ組む
店頭を全部やめる必要はありません。守る部分は守りながら、渇望に答える窓口を1つだけ開ける。そこから流れができれば、体験や観光連動へと自然に広がっていきます。
よくある質問

Q.いまの店頭の免許で、すぐネット販売を始めてもいいですか?
- 店頭用の一般酒類小売業免許ではネット通販は不可
- 2つ以上の都道府県へ売るなら通信販売酒類小売業免許が別途必要
始める前に、管轄の税務署か酒販免許に詳しい行政書士に、取扱予定の酒と必要書類を確認しておくと安心です。
Q.大手メーカーの有名なお酒もネットで売れますか?
- 国産酒は課税移出数量3,000kl未満の製造者の酒に限られる
- 大手の銘柄は対象外で、扱えるのは地酒や輸入酒が中心
制約に見えますが、地酒に絞れる分、安売り競争を避けて目利きで戦えるという利点になります。
Q.人手も資金も足りません。何から手をつければいいですか?
- 渇望のはっきりしたギフト需要から、商品1つで小さく始める
- 蔵元1社・看板商品1つに絞り、反応を見てから広げる
全部を一度に変えようとせず、いちばん手応えのある1点に資源を集めるのが、小さな店の正攻法です。
家業の再生は、つぶれそうな今の形を守りきることではなく、お客様の渇望に合わせて形を変えていく営みです。戻すのではなく、組み替える。その視点を持てた時点で、立て直しはもう半分進んでいます。

今日できることは、常連客と取引先に「本当は何が欲しいのか」を一つ聞いてみるだけで十分です。そこから、あなたのお店だけの次の業態が見えてきます。
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