記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
大学時代からの友達と一緒に起業して2年が経ちますが、最近は会話も減り、顔を合わせるのが重くなってきました。売上の伸びも鈍く、方向性の話し合いも噛み合いません。
このまま続けるべきなのか、思い切って事業を解消すべきなのか、どちらを選べばいいのでしょうか?

● 回答
まずお伝えしたいのは、解消は失敗ではなく仕分けの一手だということです。友情も、事業も、お金も、どれかを守るために組み直すのが今のあなたの仕事になります。「解消=関係の終わり」ではなく、共同創業という一つの形をほどいて、次の働き方を選び直す作業だと捉え直してみてください。
ハーバード・ビジネス・スクールのノーム・ワッサーマン教授が3,600社の創業チームを調査した著書『The Founder’s Dilemmas』(Princeton University Press, 2012)では、友人・親族など社会的関係で結ばれた共同創業者ほど、後に誰かがチームを去る確率が高まることが指摘されています。
同書は、創業者間の失敗要因の多くが「人の問題」に起因するとも報告しています。友達との起業は、心理的な安心感の裏で構造的にほどけやすい形をしているのです。責めるべきはあなたでも相手でもなく、書面と役割を先に決めていなかった始め方のほうにあります。
続けるか解消するかを分ける、判断軸3点
感情のもつれから離れて、3つの軸で今の状態を見てみます。
- 意思決定:
昨月、経営判断で意見が割れたとき、最終決定者が1人に定まりましたか。両者の合意が毎回必要だと、動くたびに議論が止まります - 報酬と持分:
売上や利益の分け方、株や出資比率、退職金相当のとりきめが書面にありますか。口約束のままだと、辞めるときに揉めます - 顧客と屋号:
主要な取引先はどちらの名刺で発注されていますか。屋号・SNS・ドメインの名義はどちらに寄っていますか
この3点のうち2つ以上が「あいまい」なら、続けるにせよ解消するにせよ、先に書面をつくることが最優先の仕事になります。話し合いは書面の骨子ができてから、が順番として正解です。
逆に、意思決定者が明確・報酬ルールが文書化・顧客帰属が整理済み、の3つが揃っていて「会話が減った」だけなら、疲れているだけの可能性が高いです。まず有給を取り、2週間だけ距離を置く選択肢もあります。

解消を選ぶなら、最初の1週間で書面化する5項目
解消と決めたあとに動くのではなく、書面をつくる過程で「本当に解消すべきか」が見えてきます。中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21の「起業仲間との共同経営上の留意点」でも、取り決めを書面で残しておくことがトラブル予防と早期解決の両面で有効だと解説されています。今週中に、次の5項目を1枚のメモにまとめます。
- 役割と最終決定権:
営業/制作/経理をどちらが担い、最終決定はどちらが持つのか - 報酬と経費:
月の報酬額、経費の上限、売上配分の比率 - 顧客と契約の帰属:
既存客はどちらに、進行中の案件は誰が最後まで見るのか - 屋号・SNS・ドメイン:
どちらが引き取り、もう一方は何日以内にアカウントから離れるのか - 解消の条件と期限:
何が起きたら解消するのか、いつまでに移行完了するのか
この5項目を1枚にまとめる作業を、相手と会う前に自分ひとりでやってみてください。ここで手が止まる項目こそ、あなたが本当に迷っているところです。書けた項目は先に共有し、書けなかった項目だけを対面で話す。会話の量が半分になり、意思決定の質が上がります。
持分が50対50の株式会社であれば、解散決議ができず膠着することもあります。判断に迷ったら、お住まいの地域の「よろず支援拠点」に電話で1問だけ聞いてみるだけで方向が見えてきます。無料で、共同創業のもつれ相談も受け付けています。
若月さんの例:役割再定義で共同を解いた12ヶ月目
起業18フォーラムの会員に、大学時代の友人2人でIT受託を始めた若月さんという方がいます。相手は設計、若月さんは営業と経理を担っていましたが、2年目に入ると案件ごとに主張がぶつかり、月次ミーティングも途中で沈黙するようになっていました。売上は月80万円あたりで頭打ち、報酬は毎月折半、契約書はありません。
最初のうちは自分の関わり方を工夫することで乗り切ろうとしていました。話す時間を増やす、案件ごとに議事録を残す、経費のレシートを丁寧に共有する。どれも続きませんでした。相手の顔色を伺うほどに、自分の判断が遅くなっていったのです。
風向きが変わったのは、フォーラムの個別相談で「共同創業の解消と役割再定義」を一緒に組み直したときでした。拙著『朝晩30分好きなことで起業する』では、「一人で始めて、必要な人だけ巻き込む」という考え方を紹介しています。
若月さんの場合、そもそも一人で始めた仕事に相手を巻き込んだのではなく、最初から二人で走り出していました。まずその始まりに戻し、営業と経理を若月さんが引き取り、設計は相手に外注として発注する形へ書面で組み直しました。
解消の書面化は、勉強会で先に取り組んでいた別の会員が同じ手順を踏んでいたので、そのフォーマットを転用しました。屋号は相手に譲り、既存客のうち7社を若月さんが引き継ぐ配分にし、進行中の3案件は最後まで共同で回すことに合意しました。ここまで決めるのに、書面化を始めてから4週間かかっています。
役割を再定義した12ヶ月目、若月さんの月報酬は共同時代の折半40万円から、単独で受注できた案件の直請料金に切り替わり、月70万円台に上がりました。共同時代より件数は減ったのに、単価が上がり手取りが増えたのは、営業から経理まで自分の判断で完結できるようになったからでした。相手とは今も外注先として発注のやりとりが続いています。友人としての関係も、事業の膠着期より軽くなりました。
解消後も”取引先”として残す設計
共同を解いたあと、相手をゼロにする必要はありません。若月さんの例のように、片方が屋号を引き取り、もう片方は外注先として業務を分けるだけで、金銭のやりとりは続きます。お互いに独立したパートナーとして、ひとつの取引先になるという設計は、友情と仕事を両立させる現実的な着地点になります。
この形にできるかどうかは、書面化の段階で「解消後の業務移行」まで含めて話せているかどうかで決まります。感情論で「もう連絡しない」と決めるより、案件単位の外注契約に切り替えるほうが、双方の生活が守れます。

解消するか続けるかを決める前に、契約書がなければ、まず今週1枚の書面に5項目を落としてみます。書けた項目と書けない項目の境目に、あなたが本当に迷っている部分が現れます。もし今の判断を1年前の自分に説明するとしたら、あなたはどんな言葉を選ぶでしょうか。
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