売上が出始めたら経理はどうする? 月1回30分で数字が読める仕組みの作り方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

先月の売上がいくらで、経費にいくら出ていったか、すぐに答えられるでしょうか? 週末の仕事に注文が入り始めた方に伺うと、返ってくるのはたいてい「レシートは取ってあるけれど、集計はこれから」という答えです。

数字を見ないままでも、注文が続いているうちは何とかなります。ただ、確定申告の時期が近づいた頃に1年分のレシートの山と向き合うことになり、そこで初めて「もっと早く整えておけば」と後悔する例を、私は毎年のように見てきました。必要なのは簿記の知識ではなく、記録が勝手に続く仕組みです。

ポイント 申告直前に慌てる原因は知識ではなく記録の空白

申告直前に慌てる原因と月1回で回る人の差

経理

起業準備の相談に向き合ってきた26年で、延べ6万人の話を聞いてきましたが、経理でつまずく人の共通点ははっきりしています。数字が苦手なのでも、意志が弱いのでもありません。「いつ、何を、どこまでやるか」を決めていないだけです。

やる時間が決まっていないと、記録は「あとでやること」の箱に入ります。そして売上が伸びるほどレシートがたまり、手を付ける気力が減っていきます。

もう一つよく見かけるのは、道具から入ってしまう例です。会計アプリを比べ、銀行連携や自動仕訳の設定を研究し、その途中で止まってしまう。効率化は記録が回り始めてから考えれば間に合うのに、順番が逆になっているのです。

  • 簿記の勉強が先という思い込み:
    教科書を読み終える前に未処理のレシートがたまり、始める前に嫌になる
  • 高機能なアプリの設定から入る:
    連携や仕訳ルールの研究に時間を使い、肝心の記録が1ヶ月も続かない
  • たまったら一気に片づける方針:
    処理が半年分の宿題になり、申告期の直前に休日をまるごと差し出す進み方

意志ではなく型の問題だという見方は、国の資料とも重なります。中小企業庁の2025年版小規模企業白書では、経営計画づくりなどを通じて経営を振り返り、改善につなげるサイクルを持つことが、小規模事業者の持続的な発展の鍵として整理されています。ひとり分の月次の記録は、その振り返りのいちばん簡単な形です。

ポイント 最初の仕組みは専用口座を1つ用意するだけ

生活と売上のお金を分ける専用口座という土台

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では、何から手を付けるか。帳簿でもアプリでもなく、口座です。売上の入金と、仕事のための支払いを、生活費とは別の口座に寄せます。手元で眠っている口座があれば、それを転用するだけで足ります。

経理の最初の仕組みは、簿記の勉強ではなく、売上と生活のお金が混ざらない口座を1つ用意することです。ここが混ざっていると、あとからどれだけ丁寧に作業しても、通帳の1行ずつに「これは仕事か、生活か」と記憶を掘り起こす時間がかかります。

分かれてさえいれば、通帳や入出金の明細がそのまま帳簿の下書きになります。月末に見るのは1冊だけ。振り込まれた額を足せば売上、引き落とされた額を足せば経費の合計に近づきます。

見落としやすいのはカードやスマホ決済で、仕事の支払いに使う1枚を決めておかないと、生活の明細に仕事の支出が紛れ込み、月末の作業が倍に膨らみます。口座とカードを1つずつ。分けるのはこの2つだけです。

拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』にも書いたのですが、自分が動かなくていい仕組みを全体の8割まで増やし、自分で手を動かす部分を2割に抑える「80%ルール」という考え方があります。経理も同じです。意志で頑張る部分を減らし、口座という仕組みに仕分けを肩代わりさせるのが、続く人の土台になります。

ポイント 月1回30分の中身は3つの作業に絞る

月1回30分でやる作業を3つに絞る固定の型

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口座を分けたら、次は時間を決めます。おすすめは月初の週末に30分、たとえば第1土曜の朝です。前月の入出金が出そろっていて、まとめて眺めるのにちょうどいいタイミングになります。やることは3つだけです。

  • 通帳と明細の確認:
    専用口座とカード明細を上から眺め、先月の売上と支払いの合計をつかむ
  • レシートの月締め:
    その月の封筒に入れて閉じるだけ(細かい仕分けは後からでもできる)
  • 月次メモ1枚:
    売上・経費・残った額の3つの数字と、気づいたことを一行書いて終わり

きれいな帳簿を目指さないでください。数字が1円単位で合っているかより、毎月同じ形の紙が1枚ずつ増えていくことのほうが、この段階でははるかに価値があります。

30分で終わらなかった作業をその場で延長して片づけようとすると、翌月から億劫になって仕組みごと止まるので、残りは翌月に回してください。短く終わる体験を重ねることが、続く理由になります。

続けるほど、この記録には金銭的な意味も出てきます。国税庁のタックスアンサーNo.2072では、複式簿記で記帳し貸借対照表と損益計算書を添えて期限内に申告することに加え、e-Taxでの申告などの要件を満たすと、最大65万円の青色申告特別控除が受けられると案内されています(2026年7月時点)。

今の段階でこの要件を全部満たす必要はありません。ただ、月次の記録が続いている人だけが、売上が育ったときにこうした選択肢を無理なく選べます。制度の細かい判断は売上の規模が見えてからで十分です。

手帳でもスマホでも構わないので、来月の第1土曜に「数字を見る30分」の予定を先に入れてしまってください。予定が先にあれば、レシートの山は宿題ではなく、その日の材料に変わります。

ポイント レシートの袋のままだった甲野さんの10ヶ月

レシートの袋から月次メモ10枚に変わった10ヶ月

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甲野さん(仮名・40代)は、メーカーの総務部門に20年勤めています。社内のパソコンや備品の入れ替えを長く担当してきた縁で、知人から頼まれて週末に出張のパソコン設定を引き受けるようになり、紹介が続いて月3件ほどの売上が出始めていました。

ところがお金の記録は手つかずでした。入金は生活費の口座に混ざり、部品や駐車場のレシートは机の引き出しの袋の中。会計アプリも入れてみたものの、初期設定の画面で止まったままでした。

ある月、起業18フォーラムの実践報告会に参加した甲野さんは、月ごとの数字を一枚の紙にまとめて手元に置き、それを見ながら近況を話す会員の姿に驚いたそうです。目を引いたのは売上の大きさより、同じ形の紙が何ヶ月分も束になっていたことでした。帰り道、自分は先月の売上額すら言えないと気づきました。

見直したのは、報告会から帰った次の週末です。眠っていた口座に売上の振込先を移し、仕事用のカードを1枚に決め、報告会で見た月次メモの形を会員さんに教わって、自分用に書き写しました。月初の土曜の朝30分だけ、と時間も先に決めました。

記録の型を作って10ヶ月、手元には同じ形の月次メモが10枚たまり、交通費の割合や依頼が月末に寄る波まで、先月までの数字で読めるようになっています。出張をどこまで受けるか、道具にいくらかけるか。以前なら先送りしていた判断を、メモを見ながらその場で決められるようになりました。

「経理が得意になったわけではありません。数字が手元にあるので、迷う場面が減っただけです」と甲野さんは話しています。10枚の紙は集計の結果であると同時に、次の月の決め事を支える材料になっています。

ポイント よくある質問

経理の始め方と口座や控除に関する疑問への回答

起業前質問集

Q.専用口座は生活費と同じ銀行でもいいですか?

同じ銀行で構いません。目的は銀行を替えることではなく、明細が混ざらないことです。使っていない口座の転用でも、ネット銀行の新規開設でも、管理しやすいほうを選んでください。

Q.会計ソフトは最初から入れるべきですか?

月1回の型が2〜3ヶ月続いてからで間に合います。先にソフトを選ぶと初期設定で止まりやすく、逆に口座と時間の型ができていれば、あとからの移行は短時間で済みます。

Q.レシートや領収書はどこまで取っておけばいいですか?

仕事に関わる支払いは、迷ったものも含めてその月の封筒に入れておきます。経費になるかどうかの判断は後からでもできますが、捨てた紙は戻りません。線引きに迷う支出が増えてきたら、税務署の相談窓口や税理士に確認すると安心です。

Q.忙しくて月をまたいでしまったらどうすればいいですか?

次の回に2ヶ月分をまとめて処理すれば大丈夫です。1回飛ばしても仕組みは壊れません。ためてよいのは2ヶ月分までと決めておくと、再開のハードルが上がらずに済みます。

ポイント 最初の一歩は給与と売上の口座を分けること

口座を分けて翌月から月1回だけ数字を見る

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ここまでの道具立てを数えると、専用口座が1つ、カードが1枚、封筒とメモが月に1枚ずつ。覚える簿記の用語は一つもありません。それでも申告期に慌てる状態からは抜け出せます。

今週のうちに、売上の入金先を給与とは別の口座に分けて、来月の月初に30分だけ数字を見る予定を入れてください。翌月から始めるのは、今月の途中から数字を拾い直すより、月の頭からきれいに揃えるほうが楽だからです。

最初の月のメモは、数字が2つ3つ並ぶだけの頼りない一枚かもしれません。それでも2枚目からは前の月と比べられます。比べられるようになった瞬間から、記録が次の月の判断を支え始めます。

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経理という言葉からは申告のための義務を連想しがちですが、ひとり分の数字を月に1度読む30分は、自分の仕事を経営として扱う練習の時間です。口座を分けたその日が、その練習の初日になります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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