記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
数字が大の苦手で、家計簿は三日坊主で終わってばかりです。起業すれば帳簿や経理がついて回ると聞いて、それだけで気が重くなっています。
お金の管理ができない人間は、起業の準備をあきらめるしかないのでしょうか?

● 回答
「帳簿もつけられない自分に、商売のお金なんて扱えるわけがない」。この感覚で足を止めてしまう方を、支援の現場で何人も見てきました。先にお答えします。あきらめる必要はありません。
起業準備の入口で要るのは、完璧な帳簿ではなく、毎月の支出と必要な売上という2つの数字だけです。簿記の知識がなくても、この2つは今夜にでも出せます。
「お金の管理が苦手」の中身を3つに分ける
苦手意識は、ひとかたまりのままだと手がつけられません。分けてしまえば、それぞれに対処のしようが見えてきます。相談を聞いていると、中身はだいたい次の3つに収まります。
- 記帳の不安:
帳簿を正しくつけられる自信のなさ - 相場の不安:
開業にいくらかかるか見当がつかない怖さ - 継続の不安:
始めたあと暮らしが回るかどうかの不透明さ
一つ目の記帳から片づけましょう。帳簿という言葉への不安は、実際に求められる水準よりかなり膨らんでいます。2014年1月からは白色申告の方にも記帳と帳簿の保存が義務づけられましたが、その中身は意外なほど身近です。
国税庁は白色申告の記帳について、1日の合計金額をまとめて書く簡易な方法を認めています。売れた金額と使った金額を日付ごとに残す、家計簿に近い形で成り立つということです。
二つ目の相場は、数字を1つ知るだけで輪郭が出ます。日本政策金融公庫の2025年度「新規開業実態調査」(2025年12月公表)では、開業費用の中央値は600万円でした。一方で、250万円未満の開業も20.1%を占めています。かける金額は自分で選べるというのが実態です。
三つ目の継続の不安だけは、統計では消えません。答えが自分の暮らしの数字の中にしかないからです。ここからが、いちばんお伝えしたい順番の話になります。
帳簿より先に「月に1枚の記録」を作る
起業18フォーラムの会員だった土肥さん(30代後半・食品メーカーのルート営業職)も、帳簿で止まった一人でした。週末に整理収納の相談の仕事を始めると決めたものの、「お金まわりをきちんとしなければ」と簿記のテキストを買い、2章目で手が止まり、準備ごと止まりました。
見方が変わったのは、会員間の個別相談で、先に始めていた人が持ってきた1枚の表を見たときでした。売上が3行、支出が5行だけの月次の表を、その方は10ヶ月分積み重ねていました。
「営業の数字は毎週追いかけてきたのに、自分の商売の数字からは逃げていたのか」。土肥さんは当時をそう振り返っています。その場で、完璧な帳簿を目指すのをやめて、月末に数行を書き写すだけの表を先に作る方針に切り替えました。
見るのは、必要な売上に届いたかどうかの1点に絞りました。記録の型は、開業してからではなく、準備の段階で先に1つ作っておいてください。型さえあれば、苦手意識が残っていても数字はたまっていきます。
記録を始めてから11ヶ月目、表は10枚を超えました。月ごとの数字が並んでいるので、確定申告の集計は表の転記でほぼ終わります。勤めを続けながら、整理収納の相談で月4万〜5万円の売上が続き、翌月の見通しも数字で立つようになっています。
金のチカラは、帳簿の完成度では育たない
拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』では、起業準備の期間を「知」「人」「金」の3つのチカラをバランスよく育てる時間として紹介しています。ここでいう金のチカラとは、簿記の技術のことではありません。自分の商売のお金の出入りを見て、次の一手を決める力のことです。
迷ったときは、3つのうちどれが一番欠けているかで考えます。土肥さんに欠けていたのは帳簿の知識ではなく、月に1枚の記録を見返す習慣でした。だからこそ、今の段階でそろえるものは3つだけです。
- 月に1枚の記録:
売上と支出を数行ずつ書き写す表 - 暮らしの支出の把握:
先月分をひと通り眺める1回の作業 - 必要売上の目安:
暮らしを保つのに月いくら要るかという数字
逆に、簿記の資格勉強や会計ソフトの比較検討は、いま急ぐ仕事ではありません。帳簿の技術は、お金の流れが実際に生まれてから、必要な分だけ覚えれば追いつけます。順番が逆になると、土肥さんのように入口で止まってしまいます。
その意味で、最初の宿題は帳簿ではなく、あなたの家の先月の支出を知ることです。
まず、先月の暮らしの支出をひと通り眺めて、月にいくらの売上があれば回るのかを、ざっくり1つ出してみてください。正確でなくて構いません。桁が見えれば大丈夫です。
今日できることは、その数字を1つ出すだけで十分です。帳簿と本気で向き合うのは、お金の流れが生まれてからで遅くありません。お金の不安の整理そのものに悩んでいる方は、こちらも参考にしてください。

そろえる道具は、ノートか無料の表計算ソフトで足ります。書き損じても誰にも迷惑はかかりませんし、何度でもやり直せます。数字が苦手なことと、商売に向いていないことは別の話です。苦手なままで、始められます。
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