記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
小豆島への移住や開業を調べはじめた方が最初にぶつかるのは、「島で食べていけるのか」という問いだと思います。観光の島という印象が強いせいか、「仕事は観光客相手だけになるのでは」という質問も移住相談では定番です。ただ、実際に島を歩くと、観光は小豆島の顔の一つにすぎません。
オリーブ、手延べそうめん、醤油、佃煮。小豆島は、全国へ出荷される食品づくりが今も現役で動いているものづくりの島です。起業支援の現場で島暮らしを選んだ方々を見てきた立場から、この産業の厚みを足場にした仕事のつくり方を整理します。
フェリーで渡る島の、人口と産業の現在地

小豆島に橋はありません。高松港から土庄港までフェリーで約60分、高速艇なら約35分です。岡山側の新岡山港からは約70分、姫路港から福田港までは約1時間40分で、神戸からの直行便もあります。本州と四国のどちらからも船で渡れる位置が、観光と物流の両方を支えてきました。
暮らしの土台になる人の数には、正直に言えば厳しさもあります。香川県の人口移動調査によると、令和8年6月1日現在の推計人口は土庄町11,253人・小豆島町12,312人で、2町合計23,565人です。総務省統計局の2020年国勢調査では2町合計26,716人でしたから、緩やかな減少が続いています。なお、土庄町は小豆島のほかに豊島・小豊島・沖之島も管轄しており、小豆島島内だけの2町部分の人口は2020年国勢調査時点で25,881人です。それでも、この規模で食品の製造と出荷の機能がここまで揃っている島は、全国を見渡しても多くありません。
産業の核は食品です。1908年(明治41年)に当時の農商務省が三重・香川・鹿児島の3県でオリーブの試験栽培を始め、根付いたのは小豆島だけでした。以来、小豆島は国産オリーブ発祥の地と呼ばれています。手延べそうめんと醤油づくりの歴史はさらに古く、約400年に及びます。醤油蔵や佃煮工場が連なる「醤の郷」と呼ばれる一角は、観光名所である前に、今も現役の生産地です。
つまり小豆島には、観光で人が来る動線と、食品を島の外へ送り出す動線の2本が最初から通っています。観光客との一度きりの接点を、島の外に住む人との続く取引につなぎ直せるかどうかが、小豆島で食べていく分かれ目になります。この記事では、その視点で支援制度と事業の入り口を見ていきます。
小豆島で使える移住と創業の支援制度

県と町の支援は、移住前に一度整理しておくと迷いません。東京圏からの移住者を対象とする香川県の移住支援金は、2人以上の世帯で100万円、単身で60万円、18歳未満の世帯員1人につき100万円の加算があります(2026年4月時点の県公表内容)。土庄町・小豆島町も対象で、起業の形で申請する場合は「起業等スタートアップ支援補助金(地域課題解決型)」の交付決定が要件に入ります。
- 香川県の移住支援金:
東京圏からの移住で世帯100万円・単身60万円・18歳未満の加算あり - 起業等スタートアップ支援補助金(地域課題解決型):
起業の形で移住支援金を申請する場合に前提となる県の補助金 - 町の相談窓口:
土庄町商工会・小豆島町商工会の創業相談と役場の移住担当
支援金や補助金は年度ごとに要件や募集期間が変わるため、古い記事の金額だけを見て資金計画を立てるのは危険です。申請を考える段階になったら、県と町の窓口で最新の要領を確認してください。創業の身近な相談先としては、土庄町商工会と小豆島町商工会があります。登録免許税の軽減などにつながる特定創業支援等事業の扱いは自治体ごとに異なるので、これも町と商工会に確かめるのが確実です。
ここで押さえておきたいのは、使う順番です。補助金や相談窓口は、何を売るかの方向性が固まってから使うと一気に役立つ道具なので、移住検討の初期は「情報を集めるだけ」と割り切ってください。方向性が白紙のまま窓口に行っても、話が前に進みにくいためです。
島の資源から考える事業の入り口

売るものが決まっていない段階なら、島の資源と自分の経験の重なりから考えるのが早道です。入り口はおおまかに3つに分かれます。
- 観光の受け皿:
ガイド・体験プログラム・宿など島を訪れる人に直接応える仕事 - 食品と通販:
そうめん・佃煮・オリーブ加工品を島の外の家庭へ届ける仕事 - 本業スキルの持ち込み:
設計・経理・デザインなどの仕事をオンラインで続けながら軸足を移す形
観光の仕事は接点が生まれやすい半面、季節の波をまともに受けます。瀬戸内の観光は春から秋に集中し、冬は人の流れが細くなります。観光だけで一年分の売上をまかなおうとすると、この谷が資金繰りに直撃します。
そこで効いてくるのが食品の通販です。そうめんも佃煮もオリーブオイルも、台所で使い切ったらまた買う消耗品です。観光で一度買ってくれた人が自宅からもう一度注文できる導線を作っておくと、来島者が減る冬にも注文は止まりません。波のある観光収入に、積み上がる型の通販を重ねる組み合わせは、島の商いと相性がよいのです。
もう一つ、いきなり移住しない形も現実的です。高松からフェリーで約60分という近さは、二拠点や「通い」の準備に向いています。勤めているうちは月に1、2度島へ通って人と場所を知り、売るものの当たりがついてから住まいを移す。この順番なら、移住の失敗と商いの失敗を切り離せます。
観光の一度きりが通販の定番に変わるまで

都市部の小売店で売り場づくりを長くしてきた40代の方が、小豆島に移って島の産品の販売を始めたケースがあります。初年度は観光シーズンの店頭販売が中心で、夏はにぎわうものの、秋からは売上が細り、移住から12ヶ月目の冬にいちばん苦しい時期を迎えました。
ふり返ると、店頭では「家に帰ってからも買えますか」と尋ねられることが何度もあったのに、その場で渡せる答えを用意していませんでした。買ってくれた人の顔は覚えているのに、二度目の接点がない。島の売り場だけで商いを考えていると、多くの人がこの壁にぶつかります。
潮目が変わったのは、起業18フォーラムの勉強会で、別の離島で通販に切り替えた会員さんの報告を聞いたことでした。観光客は「島に来た記念」で買うのではなく、味を気に入って買っている。だから住所が離れていても、使い切る頃に案内が届けば注文は続く。この報告を持ち帰り、会員さんどうしの個別相談で、同梱物と再注文の導線を一つずつ見直したといいます。
発送の箱に手書きの礼状と再注文の案内を入れる。そうめんと佃煮を組み合わせた定期のセットを用意する。地味な見直しの積み重ねでしたが、3年目には通販の売上だけで月10万円を超える月が続き、注文の半分以上が二度目以降のお客さんになりました。観光の波に左右されない土台が、島の外の台所にできた形です。
この方が繰り返し口にしていたのは、「教わる相手を1人に絞らなかったのがよかった」という振り返りです。拙著『朝晩30分 好きなことで起業する』では、目標になる人を「1人じゃなくて複数、何人でも見つけてください」と紹介しています。
小豆島なら、オリーブ農家、醤油蔵、宿の主人と、畑の違う先輩事業者が車で回れる距離にいます。島の先輩を業種を変えて複数持つと、1人の意見に寄りかからずに済み、狭い商圏でも判断の風通しを保てます。
移住を決める前にやっておく準備

準備は時系列で考えると迷いが減ります。最初にやることは、島に住むことでも物件を探すことでもなく、「何で食べていくか」の仮決めです。起業18フォーラムのセミナーや動画で商いの全体像をつかみ、自分の経験と島の資源が重なる場所に当たりをつけます。ここが白紙のままだと、支援制度も相談窓口も力を発揮できません。
方向性が見えてきたら、県の移住支援金や町の補助の要件を調べ、商工会の創業相談を予約します。並行して島へ通う回数を増やし、住まいと仕事場の候補、仕入れ先や協力してくれる事業者を具体化していきます。いきなりの移住が不安なら、二拠点の期間を長めに取り、季節ごとの島をひと回り見てから決めても遅くありません。冬の島を知らないまま移住を決めるのが、いちばんの遠回りになります。
よくある質問

Q.移住を決める前に、島に通いながら準備を進められますか?
進められます。高松港からフェリーで約60分なので、週末の通いで人間関係と商いの種を育てている方は珍しくありません。観光シーズンの催しや収穫の手伝いに入ると、島の仕事の実情が内側から見えてきます。通いの段階で「頼まれごと」が生まれていれば、移住後の立ち上がりは格段に速くなります。
Q.50代からの移住と開業では遅すぎませんか?
遅くありません。小豆島の商いは、そうめんや佃煮のように歴史の長い産品を今の売り方に載せ替える工夫が中心で、体力よりも段取りと信頼が物を言います。50代までの職業経験は、仕入れ・経理・売り場づくりのどこかで必ず生きます。年齢よりも、移住前に売るものの方向を固めているかどうかで結果が分かれます。
Q.支援金を当てにして移住計画を立ててもよいですか?
支援金は後押しであって収入源ではありません。要件や金額は年度で変わりますし、交付は申請と審査を経た後になります。生活費と事業資金は支援金抜きで成り立つ計画を作り、支援金は採択されたら準備を早める資金として扱うのが安全です。
Q.小豆島で始めるなら、最初に何を確認すればよいですか?
まずは島内の食品産業や観光事業者に、どの季節に人手や販路で困っているかを聞くことです。移住先を決める前に、島で求められている仕事と自分の経験が重なる場所を探してください。
まとめ:小豆島の商いは繰り返し届く注文で続く

小豆島は、フェリーでしか渡れない離島でありながら、オリーブ・そうめん・醤油・佃煮という全国区の産品を持つ島です。観光で生まれるその場限りの接点を、島の外の台所で繰り返される注文へつなぎ直す。人口2万3千人台の島で商いを続けている人たちは、その導線づくりに早くから手を打っています。
準備の入り口は電話一本です。今日できることは、土庄町商工会か小豆島町商工会に電話をかけて、いま島で人手が足りていない仕事は何かを聞いてみることだけで十分です。電話の答えをメモしておくと、売るものを決める場面でそのまま材料になります。
移住は大きな決断ですが、準備は地味な行動の積み重ねです。フェリーに乗る、話を聞く、試しに売ってみる。その繰り返しの先に、島で続く商いの形が見えてきます。
次の休みにフェリーで島へ渡る日を決め、土庄港から醤の郷まで実際に歩いてみてください。産業の厚みと暮らしの距離感を自分の目で確かめた分だけ、移住と商いの計画は具体的になります。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
