記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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講座の案内で「遺品整理士」という資格を見かけて、この仕事での独立を考え始めたところでしょうか。人の役に立つ手応えがありそうで、これからの社会に欠かせない仕事にも見えます。
ただ、資格を取れば開業できるのか、家財の処分はどこまで自分でやってよいのか、調べるほど輪郭がぼやけてきます。
実は、この仕事の成否は資格ではなく、「許可」と「提携」の設計でほぼ決まります。資格の広告だけを頼りに動くと、開業したあとで処分の壁に突き当たります。遠回りに見えても、仕組みを先に知っておくほうが結局は早く進めます。
「遺品整理士」は開業の免許ではありません

まず前提の整理です。遺品整理士は、遺品整理士の公式認定団体が認定する民間資格です。医師や行政書士のような業務独占の国家資格ではありません。
遺品整理の仕事そのものは、資格を持っていなくても法律上は請け負えます。逆にいえば、資格を取っただけでは、開業の準備は何も進んでいません。
では資格が無意味かというと、そうではありません。遺族から見れば、初対面の相手を家に上げるかどうかを判断する材料になります。提携先の葬儀社や不動産会社に、自分の仕事への姿勢を説明する道具にもなります。
遺品整理士の資格は開業の免許ではなく、信頼を補う道具と考えるのが正確です。この位置づけを間違えなければ、講座で学ぶ法規制や供養の知識は十分に生きてきます。
需要は感覚ではなく統計で確かめる

独立を決める前に、需要の裏づけは統計で確かめておきたいところです。この仕事は「なんとなく必要とされていそう」で始めるには、気持ちの負担が重いからです。
厚生労働省の人口動態統計(確定数)によると、2024年の死亡数は160万5,378人で、統計を取り始めてから最も多い数字でした。
一人暮らしの高齢の方に関する推計もあります。内閣府「令和7年版高齢社会白書」(2025年)では、65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は2020年時点で男性15.0%、女性22.1%でした。2050年には男性26.1%、女性29.3%になる見込みです。
数字が示すのは、家族だけでは家財の整理を担いきれない場面が、この先も長く続くという現実です。だからこそ、参入する側の姿勢と質が問われる仕事でもあります。
開業前に押さえる許可の地図

開業準備で最初につまずくのが、廃棄物の扱いです。遺品の多くは、法律上は家庭から出る一般廃棄物にあたります。
処分する家財を集めて運ぶには、市町村ごとの一般廃棄物収集運搬業の許可が必要です。ところが、この許可の新規交付をほとんど行っていない自治体が多いのが実情です。
だからといって、道が閉ざされているわけではありません。実務では、許可を持つ地元業者と提携し、回収と処分はその業者に任せる形が主流です。自分は仕分けと立ち会いに専念します。
避けたいのは、「トラックがあるから運べる」と無許可のまま処分まで請け負ってしまう失敗です。廃棄物処理法に触れるおそれがあり、積み上げた信用を一度で失います。
- 一般廃棄物収集運搬業許可:
処分する家財を運ぶための市町村許可。新規取得は難しく許可業者との提携が現実的 - 古物商許可:
家財を買い取って再販するときに必要。都道府県公安委員会に申請 - 産業廃棄物収集運搬業許可:
会社や店舗から出る廃棄物を扱う場合の別枠。家庭の遺品とは区別
買取を組み合わせるなら、古物商許可は早めに取っておきたいところです。買取額で処分費を相殺でき、遺族の負担も軽くなります。
請け方3タイプと自分に合う入口

許認可が頭に入ったら、次は請け方です。遺品整理業への入り方は、大きく3つに分かれます。
- 仕分け・立ち会い型:
遺族の窓口として形見分けと分別までを担当。処分は提携業者に委ねる形 - 買取併用型:
古物商許可を取り、買い取れる家財で処分費を抑える形 - 下請け型:
葬儀社や不動産管理会社の紹介案件で現場経験を積む形
始めやすいのは、仕分け・立ち会い型を軸にして、下請けで場数を踏む組み合わせです。現場を知らないまま看板だけ掲げても、見積もりの精度が出ません。
ただし下請けだけに寄りかかると、単価も仕事の範囲も相手に握られたままになります。紹介元の言い値で動くうちに、「何でも一式いくら」のどんぶり勘定へ流されていくのが、この業種でよくある失敗です。
抜け出す鍵は、最初の1枚の見積もりにあります。
見積もりの段階で、処分は提携業者・仕分けと遺族対応は自分、という役割の線引きを書面にして渡してください。それだけで、値決めの主導権が自分の側に戻ってきます。
段取りと声かけは「名もなき強み」です

では、同業とどこで差をつけるか。私は、道具や価格ではなく「段取りと声かけ」だと考えています。
拙著『起業神100則』では、「何に詳しい人」と呼ばれているかを、自分の強みを探す手がかりとして紹介しています。肩書きや資格の名前ではなく、周りが自然に頼ってくる中身のほうに、商品の種があるからです。
遺品整理でいえば、形見と処分品を仕分ける手順の組み立てや、作業の前に遺族へ確認を入れる声のかけ方が、まさにそれにあたります。求人票にも資格試験にも載らない技術です。
声かけの技術を言葉にする
「仏壇とお写真には手を触れず、まずご家族に確認します」と最初に言えるかどうか。その一言が、依頼する側の安心感をまるごと変えます。過去の仕事で身についた確認の癖や順序を、一つずつ言葉に起こしてみてください。
遺族への声かけと現場の段取りを言葉にできた人から、名指しで選ばれる遺品整理業者になっていきます。ここが値引き合戦から降りる分岐点です。
会員・三雲さんが名指しされるまでの12ヶ月

私は26年間、延べ6万人の起業準備の相談と向き合ってきましたが、遺品整理のように気持ちに関わる仕事ほど、値決めと許可の設計を後回しにする人が多いと感じています。
起業18フォーラム会員の三雲さん(40代・引越会社の現場責任者)も、最初はそうでした。単身の高齢のお客様の住み替えや退去の現場で、行き場のない家財に何度も向き合ってきた方です。
きっかけは、地元で遺品の引き取りまで請け負っていた古いリサイクル店の閉店でした。店主の高齢が理由です。葬儀社に勤める知人から「ああいう頼み先がなくなって困っている」と聞き、彼は休みの日に片付けの手伝いを請け負い始めました。
ただ、自己流の時期は「何でも一式いくら」のどんぶり勘定でした。月1〜2件で足踏みが続き、遺族の前で何に触れてよいのかも分からなかったといいます。
動き出したのは、起業18フォーラムの勉強会で、下請けの常用仕事から直請けへ切り替えた他の会員の事例を聞いてからです。会員どうしの個別相談の場で、三雲さんが現場で自然にやってきた確認の声かけと仕分けの手順を、一つずつ言葉にしていきました。
そのうえで彼は、処分を許可業者との提携に切り替え、買取用に古物商許可を取りました。看板を「遺品の仕分けと遺族対応の一次窓口」に絞り、地元の葬儀社と不動産会社へあいさつに回りました。
12ヶ月目には、葬儀社からも不動産会社からも「最初に三雲さんに見てもらいたい」と名指しで一次対応を任されるようになりました。
現在も件数を追わず、1件ごとの遺族対応の質を守る方針を続けています。金額の話をほとんどしないのに紹介が途切れないのが、彼の強みです。
よくある質問

Q.遺品整理士の資格を取らないと開業できませんか?
いいえ。民間資格のため、取得は法律上の義務ではありません。ただ、遺族や提携先に自分の姿勢を説明する材料としては有効です。講座で廃棄物や供養に関する基礎を学べる利点もあります。
Q.遺品はどこまで自分の車で運んでよいのですか?
処分する家財を運ぶには、市町村の一般廃棄物収集運搬業の許可が必要です。新規の許可はほとんど出ないため、許可業者との提携で運搬・処分を賄うのが現実的です。買い取った品物の扱いは、古物商許可の範囲になります。
Q.便利屋やハウスクリーニングと何が違うのですか?
作業の中身は一部重なりますが、遺品整理の中心は遺族への配慮と確認の窓口業務です。形見分けや相続に関わる品物の判断を勝手に進めない姿勢が、そのまま商品価値になります。
Q.勤めを辞めずに準備を進められますか?
可能です。古物商許可の申請や提携先探し、週末の現場同行は、退職前に進められます。収入の見通しが立ってから独立を判断しても遅くありません。
次の一歩は先輩の現場に1日同行すること

遺品整理で独立した先輩か提携候補の業者に頼んで、現場に1日同行させてもらってください。講座の案内では見えない遺族との間合いと、処分の実務がその日のうちに分かります。
同行して「自分なら段取りを組める」と感じられたら、古物商許可の申請と提携先探しに進みましょう。順序さえ守れば、大きな元手は要りません。

遺品整理での独立を考えるあなたが、ここまで許可の仕組みや遺族への声かけに目を通してきたのなら、体力と勢いだけで参入する人とは出発点が違います。その丁寧さこそ、この仕事でいちばん長く効く資質です。
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