記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
勤め先で会社の外で収入を得る活動や兼業が認められていません。それでも自分の力で少し稼いでみたくて、本名を出さずに偽名で活動しようと考えています。ネット上だけ別の名前にすれば会社にバレないでしょうか。
偽名で活動する場合の問題点や、気をつけておくべきことを教えてください。

● 回答
本名を出したくないお気持ち、よくわかります。結論からお話しすると、本名を伏せて活動すること自体は可能ですが、それは「偽名」ではなく「屋号(ビジネスネーム)」として整理するのが正しい入口です。
そして、ここが一番大事なところなのですが、会社にバレるかどうかを決めるのは名前ではありません。多くの場合、決め手になるのは住民税の扱いです。名前を隠すことと、会社に知られない仕組みを作ることは、別の話だと考えてください。

「偽名」と呼ぶと怪しい。これは屋号です
本名とは別の名前で活動する人は、今ではめずらしくありません。ただ、それを「偽名」と呼んでしまうと、どうしても詐欺のような響きになってしまいます。
私たちはこれを、ビジネスネーム、ペンネーム、芸名と呼び、屋号の扱いにしています。松田聖子さんもマツコ・デラックスさんも本名ではありませんが、誰も偽名だとは思いませんね。まずは「偽名で隠す」という発想から、「屋号で名乗る」という発想に切り替えてみてください。
会社の外で稼ぐことを認める会社も、この数年でかなり増えました。パーソル総合研究所が2025年10月に発表した調査では、会社の外での活動を認める企業の割合は64.3%と、調査開始以降で最も高くなっています。いまや過半数の企業が、何らかの形で社員が外で稼ぐことを認める時代になりました。そのぶん、後ろめたく隠すよりも、屋号で堂々と小さく始めるほうが現実に合っています。
本当のバレ対策は名前ではなく住民税
名前を変えても、会社に知られる経路は別に残ります。代表的なのが住民税です。会社員の住民税は給与から天引き(特別徴収)されるため、外で稼いだ分が上乗せされると、経理の方が「この人だけ住民税が多いな」と気づくことがあります。
対策の基本は、確定申告のときに会社の給与以外の住民税を自分で納める「普通徴収」を選ぶことです。確定申告書の第二表に「住民税に関する事項」という欄があり、給与以外の所得にかかる住民税の徴収方法を「自分で納付」にできます。ここを選べば、その分の納付書が自宅に届き、給与天引きとは切り離せます。
ただし、これは万能ではありません。アルバイトなどの給与所得で稼いだ場合は、普通徴収を選んでも特別徴収に合算されやすく、会社側に見えてしまうことがあります。自治体が最終的な徴収方法を決めるため、心配なときは申告前にお住まいの市区町村へ確認しておくと安心です。
- 勤め先の規約を確認する:
就業規則で外の活動がどこまで制限されているかを先に読む - 所得区分を給与以外にする:
アルバイトではなく、自分の屋号での事業や雑所得の形にする - 確定申告で普通徴収を選ぶ:
第二表の住民税欄で「自分で納付」にチェックを入れる
名前を隠すことより、この住民税の手続きのほうが、会社に知られないための実質的な対策になります。確定申告の徴収方法を一度確認しておくだけで、不安の大半は小さくなります。
契約と確定申告は本名が必要です
屋号で名乗るのは自由ですが、本名がまったく要らなくなるわけではありません。お客様との契約や、税務署への確定申告は本名で行います。対外的に見せる名前は屋号、公的な手続きは本名、という切り分けが基本です。
この点は、2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)とも関係します。この法律で、企業が個人へ仕事を発注するときは、報酬や業務内容などの取引条件を書面やメールで明示することが義務づけられました。屋号で活動していても、こうした書面のやり取りでは実名や正確な事業者情報が必要になる場面が出てきます。
独立してフリーランスになった場合、インボイス制度に登録すると国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトに情報が載ります。ただし、検索できるのは登録番号からだけで、氏名からは検索できません。屋号や住所の公表も任意です。取引先から登録番号を伝えられない限り本名にたどり着かれにくいので、会社バレのリスクという点では過度に心配しなくて大丈夫です。
拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』の第5章では、住民税の普通徴収やマイナンバーをめぐる会社バレ対策を紹介しています。そこでもお伝えしているのは、隠すことに労力を使うより、屋号と税の手続きを正しく整えるほうが結局は楽だということです。
屋号でも銀行口座や集金はできます
屋号だけでは本人確認ができないため、屋号名そのままの銀行口座は作れません。ただ、銀行に相談すれば「屋号+本名」の営業性個人口座を開設できます。振込先として屋号で受け取りたい場合は、銀行に副名義の登録をお願いする形になります。
本名を一切出したくない段階では、決済を代行してくれるサービスを間に挟む方法もあります。
- PayPalのメール請求:
ビジネスアカウントのメールアドレス請求で受け取る - スキル販売サイトの集金:
ココナラやストアカなどのポータル側で代金を受け取る - フリーナンスの振込専用口座:
屋号やペンネームで使える振込専用口座を請求書に記載する
こうした選択肢を組み合わせれば、本名を前面に出さなくても、最初の小さな売上はきちんと受け取れます。
屋号で堂々と始めた西脇さんの例
会員さんに、メーカー勤務の西脇さんという方がいました。最初は会社にバレるのが怖くて、いくつものSNSをばらばらの偽名で運用し、誰にも気づかれないことばかりに気を取られていました。売上も立たず、活動そのものが止まりかけていました。
転機は、起業18フォーラムの個別相談で、確定申告のときに住民税の徴収方法を自分で選べると知ったときでした。バレ対策の本丸が名前ではなく税の手続きだとわかってから、西脇さんは肩の力が抜けたそうです。屋号を一つに決め直し、得意だった図解づくりの講座に絞り込みました。活動を始めて8か月目には、会社の外での収入が月8.5万円ほどで安定するようになりました。
名前を隠すことに費やしていた時間を、商品を磨くことに振り向けられたのが大きかったのだと思います。隠すための工夫より、名乗るための準備に時間を使ってみてください。

偽名で身を隠すという発想を、屋号で名乗るという発想に置き換えるだけで、できることはぐっと広がります。名前は表に出す顔として整え、会社に知られない工夫は住民税の手続きで担保する。この切り分けができれば、無理に隠さなくても小さく始められます。
今日できることは、勤め先の就業規則で外の活動の扱いを一度読み返すことと、自分の活動に合う屋号を一つ考えてみることだけで十分です。
よくある質問

Q.屋号は役所に届け出が必要ですか?
- 開業届の屋号欄への記入で足りる
- 商標のような登録は不要
屋号は開業届の屋号欄に書けば使い始められます。法的な登録は必要ありません。すでに活動していて開業届を出していなくても、名乗ること自体に問題はありません。
Q.会社に屋号や活動を聞かれたらどうすればよいですか?
- 就業規則の範囲内かを先に確認
- 許可制なら正直に相談する選択も
まずは就業規則で禁止の範囲を確かめてください。許可制や届出制であれば、隠すより正直に相談したほうが、後々のトラブルを避けられます。外で稼ぐことを認める会社が増えている今は、相談で道が開けることも珍しくありません。
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