上層部と揉めた上司に「一緒に辞めて起業しよう」と誘われて辞めた結果・・・

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

私は、コンサルタントという職業上、たくさんの経営者さんの栄枯盛衰を目の当たりにしてきました。今日は、とある輸出商社さん(B社)のお話をしてみたいと思います。
 

倒産した企業
 

数年前に、知り合いが立ち上げた貿易を専業とする企業が、ついに倒産してしまいました。神戸を中心に展開していた、ちょっと特殊な業界、ちょっと遠い国を専門に商売をしていた、ニッチな専門商社です。

元々あったA社という「業界の雄」内で起こった「ちょっとした揉めごと」がきっかけで上層部と一部社員が対立し、その一部社員がさらに分裂して退職、結果、ほぼ同業のB社が誕生しました。

A社の巻き返しによるB社社員の引き抜きなどの争いを経て、B社は少しずつ実績を伸ばし、2年後には、B社はA社に劣らない規模に成長し、東京にも支店を構えるまでになりました。

創業当時、A社1強であったその業界は、輸出先の相手国商社のオーナー(顧客)との人間関係で取引が決まる世界であり、「会社より人」に顧客がつくのが通常でしたし、B社社員も元々A社で活躍していた人ばかりであったため、その辺りについては心配していなかったようです。

実際、B社の創業後は、多くの顧客がA社とB社の双方に見積り依頼をするようになり、B社は「業界の革命児」とも言われるようになり、業績を伸ばしていきました。
 

仲間と起業すると?
 

しかし、問題が起こります。

同製品を扱うA社とB社の激しい価格競争、消耗戦が続き、そのしわ寄せに悲鳴をあげたメーカーが、相次いでB社への商品の提供を中止し始めたのです。

メーカーとしても厳しい選択だったと思いますが、長年のA社との関係、そしてA社の強い財務体質を考慮した上での決定でした。この決定は、B社にとっては死活問題となり、B社はやむを得ず、コンパチブルの商品(代替品)の、中国調達に踏み切りました。
 

ここが転落への分岐点でした。
 

B社は創業当時は順調だったとは言え、サラリーマン同士で貯金から集めた資本金を持ち合って立ち上げた会社ですから、資金繰りは簡単ではありませんでした。

貿易取引自体は、幸いにもL/C取引をすることができ、前払いと同じように銀行からの入金がありましたが、その受注までの交渉に時間がかかるのです。もちろん、メーカーからの仕入れは前払いでした。

為替の急激な変動、顧客からの相見積りによる価格交渉、A社からの営業攻勢、B社の営業担当者は翻弄され続け、結果、少しずつ経営はひっ迫していきました。そして、創業3年目のある日、不良品の大量発生による納入停止トラブルに遭遇し、ついにB社は営業を続けることができなくなってしまいました。
 

「もうだめです・・・ これまでありがとうございました」
 

B社社長の落胆した表情を、今でもよく覚えています。
 

ポイント 業界の革命児と呼ばれた企業を襲った「思わぬ事態」の結果

上司に「一緒に起業しよう」と誘われた結果

残業とプライド
 

上述のB社の例のように、会社が分裂してしまうような事態になることは、滅多にないことだとは思います。ですが、会社に何らかの不満を持ってしまったり、それがきっかけとなって退職をする人は少なくないと思います。

そのときに考えてしまいがちなこと、それが、「今までと同じ仕事」をしようとしてしまうことです。会社を飛び出した後に、以前いた会社と同じ仕事で独立しようとしてしまうのです。

一人で組織を飛び出した場合や、単純に退職をした場合には、そもそも、そういうことはできないのかもしれないのですが、数名で離脱したりする場合には、同じような会社を立ち上げようと考えてしまいがちです。

ですが、仮にそれで創業できたとしても、以前と同じレベルの商品、サービスが提供できるのかと考えると、そう簡単にはいかないこともあるでしょう。

サラリーマンであるうちは、会社の全体像を知ることができているようで、意外とできていません。それは部長、常務という役職があっても同じことで、組織は結局、自分以外の人が関わっている部分は、よくわからないのです。

そして、以前にいた会社で裏方から支えてくれていた人たちの仕事の大切さを、飛び出した後に初めて知ることになるのです。徐々に、それを補うには、大きなコストがかかることがわかってきます。

結果、同じようなサービスを展開しようとしていたはずなのに、単なる劣化版、縮小版になってしまうのです。そして、財務体質が弱く、信用もない新会社は、市場から退場させられてしまうのです。
 

ポイント 仲間が一緒に会社を辞めようと言ってきたらどうする?

上司に「一緒に起業しよう」と誘われた結果

廃墟のオフィス
 

実は、私の叔父も、生前、大手企業の役員として働いていて、次期社長争いから脱落した結果、スピンアウトして新会社を創業しました。全くの同業で起業したのですが、結果的には数年で会社は倒産し、その後は体調を崩してそのまま他界してしまいました。

彼はサラリーマン時代は大手企業の常務取締役でしたし、貫禄があって、いつも堂々としていて偉大な叔父でした。中小企業を創業して切り盛りしていた私の父とは違う雰囲気で、上品な安定感があり、格が違うというか、持っている自信が違う感じがしていました。

でも、今になってわかるんです。やっぱり、やっぱり、大切なことをやっていなかったのだと。

大手の役員だったプライド、次期社長の椅子取りゲーム、派閥争いに敗れ、会社から追い出されたという屈辱感、そういったものは確かに起業の原動力になったとは思います。ですが、会社を辞めれば、ただのおじさんであり、一人の起業家として冷静になってやるべきことを、きちんとやらなければならなかったはずなのです。

やるべきだったこと、それは・・・

  • 勢いでやらずに準備すること。
  • 顧客を取り続けるための仕組みを作ること。
  • 小さく始めて、固定費をかけないことに、知恵を絞ること。

結局、いつも言っていることと同じになってしまいました(笑)でも、周りを見れば見るほど、小心者の僕は、そう思うんです。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全12冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。


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