個人事業主の名簿(リスト)はどこで手に入るのでしょうか?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

自分にとって始めやすいところから、まずは経理代行で起業する予定です。小さな会社や個人事業主を顧客にしたいと考えていて、集客はDMを送ろうと思っています。こうした人たちの名簿(リスト)は、いったいどこで手に入れればいいのでしょうか。

昔なら電話帳がありましたが、今はホームページを一件ずつ見ていくしかないのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

多くの方が名簿探しから動き出しますが、実はそこに最初の落とし穴があります。個人事業主の名簿は、公的にまとまった形では存在せず、リストへの一斉DMは、経理代行のように信用が前提の仕事ではほとんど反応が返ってきません。近道は、名簿を探すことではなく、最初の1人を確実に満足させて、その人から次へつなげていくことのほうにあります。

なぜそう言い切れるのか、まずは「名簿が手に入らない」という事実から順番に見ていきましょう。

個人事業主の「名簿」は、実はどこにも売っていない

多くの方が、法人を調べるのと同じ感覚で個人事業主のリストも手に入ると考えています。ところが、ここに最初の落とし穴があります。法人には国税庁から法人番号が割り振られ、商号・所在地とあわせて国税庁法人番号公表サイトで誰でも無料で検索でき、CSVやXMLで一括ダウンロードもできます。

一方で、個人事業主には法人番号が付与されません。そのため、国税庁法人番号公表サイトに個人事業主は一件も載っておらず、公的な個人事業主の名簿というもの自体が存在しないのです。あなたが探していた「電話帳の代わり」は、もともと公の場には用意されていない、というのが正確なところです。

有料のリスト販売業者は確かにあります。電話帳データなどから自営業者を抽出したリストを売っている会社も実在します。ただ、それらは出所も鮮度もまちまちで、あなたが本当に届けたい相手とどこまで重なるかは保証されません。リストを買うこと自体が悪いわけではありませんが、「買えば顧客が集まる」という期待だけは、いったん手放しておいたほうが安全です。

リストへの一斉DMが効きにくい理由

仮にリストが手に入ったとして、DMを一斉に送ればどうなるか。残念ながら、経理代行ではここがいちばん反応の鈍いやり方になります。理由は、扱う情報の中身にあります。

経理を任せるということは、クライアントにとっては会社の、場合によっては個人の財布の中身まで見せることを意味します。見ず知らずの相手から届いた1通のDMで、お金の管理を預けようと思う人はほとんどいません。信用が前提の仕事ほど、面識のない大量送付は届かないのです。

これは感覚論ではありません。日本政策金融公庫総合研究所の「2024年度新規開業実態調査」(2024年11月27日公表・開業1年以内の7,658社が対象)では、開業時に苦労したこととして「顧客・販路の開拓」を挙げた人が48.1%にのぼりました。さらに、開業後しばらく経っても「顧客・販路の開拓」に苦労していると答えた人が47.7%と、ほぼ減っていません。

ここから読み取れるのは、顧客獲得は開業者にとって最初から最後まで続く課題であり、リスト購入のような一発の手段で片づく問題ではない、ということです。私が起業準備の現場で見てきた限りでも、最初に名簿集めへ走った人ほど、半年後にまだ最初の1件が取れずにいる、という光景をくり返し見てきました。

最初の1人を「9割」と考える

では、どこから手をつければいいのか。発想を「面を広く狙う」から「点を深く狙う」へ切り替えることをおすすめします。

拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、「ひとりの客をつかまえれば9割は成功」という考え方を紹介しています。最初のお客様をたった1人、徹底的に満足させること。それができれば、起業はほとんど成功したようなものだという意味です。名簿の何百件より、目の前の1人にていねいに届けることのほうが、結果的に次の顧客への最短ルートになります。

理由はシンプルです。1人に本気で向き合うと、その人は満足し、同じように困っている知り合いを紹介してくれます。経理代行はとくに、近い業種・近い規模の事業者どうしがつながっているため、紹介が紹介を呼びやすい仕事です。最初の1人を「紹介者候補」として大切にする。この一点が、買ったリストには決して宿らない強さになります。

経理代行で最初の1人に出会う具体的な場

最初の1人は、遠くの名簿ではなく、たいてい手の届く範囲にいます。あなた自身がこれまで関わってきた職場の取引先、前職のつながり、知人が経営している小さな会社。まずはそこへ「もし経理で困っている人がいたら声をかけてほしい」と伝えるところから動くのが現実的です。

地域の青色申告会や商工会議所に名刺を持って顔を出すのも有効です。そこには、まさに経理に手が回っていない個人事業主が集まっています。ただし、いきなり売り込むのではなく、まずは小冊子のような無料の情報提供で「この人は信頼できそうだ」と感じてもらうこと。ホームページで業務内容と得意分野を示しておけば、紹介された相手が後から確かめに来たときの受け皿にもなります。

起業準備で最初の顧客に向き合う様子

起業18フォーラム会員の村瀬さん(仮名・40代前半・男性・中堅メーカーの経理部出身・妻と小学生の子1人)も、はじめは名簿に頼ろうとした1人でした。独立を決めた当初、有料の事業者リストを買い込み、数百件にDMを送ったものの、返信は1件もなかったそうです。半年たっても契約はゼロのまま、貯金だけが減っていきました。

転機になったのは、起業18フォーラムの勉強会でした。先輩会員の進め方を聞くうちに「最初の1人に集中する」という発想に出会い、村瀬さんは方針をすっかり入れ替えました。まず取りかかったのは、前職時代に世話になった小さな印刷会社の社長に「記帳をまるごと引き受けますよ」と直接持ちかけることです。

1件を破格の手間で、しかしていねいに仕上げました。すると数か月後、その社長が同業の知人を2人紹介してくれたのです。名簿への一斉DMでは1件も動かなかったのに、たった1人への本気の仕事が、次の2件を連れてきました。現在は紹介を中心に顧問契約が5件まで増え、来年の本格独立に向けて準備を進めています。

最初の1人を起点にするときの動き方

  • 遠くの名簿より、前職・知人など手の届く範囲から1人を探す
  • その1人にだけは赤字覚悟でも徹底的にていねいに仕上げる
  • 満足してくれた人を「紹介者候補」として関係を続ける

こうして1人が2人を、2人が4人を連れてくる流れができると、もう名簿を買う必要はなくなります。最初に時間をかけるべきは、リスト集めではなく、最初の1件の仕上げのほうなのです。

税理士事務所との差別化と、信用の作り方

もう一つ、経理代行で避けて通れないのが税理士事務所との関係です。記帳代行や経理代行は価格競争になりやすく、しかも税務申告そのものは税理士の独占業務です。あなたが国家資格をお持ちでないなら、ここをどう乗り越えるかを最初に決めておく必要があります。

差別化の方向は、大きく二つあります。一つは、大手や士業にはない距離の近さを強みにすること。レスポンスの速さ、経営者の相談に細かく付き合う姿勢、特定の業種に絞った深い理解。こうした「手厚さ」は、価格表には載らないあなただけの価値になります。

もう一つは、信頼できる税理士と組み、申告は税理士へ、日々の記帳と経営サポートはあなたへ、と役割を分ける形です。これなら資格の壁を越えつつ、紹介の流れもお互いに生まれます。

いずれにしても、クライアントが最後に見ているのは「この人になら財布の中身を見せられるか」という一点です。最初の1人にその信頼を勝ち取れれば、それが何よりの実績になり、次の顧客への説得材料になります。

ポイント よくある質問

名簿購入・資格・最初の1人の探し方への回答

起業前のよくある質問

Q.有料の営業リストを買うのは、完全にムダなのでしょうか?

ムダと決めつける必要はありません。地域や業種を絞って、ホームページや小冊子への導線とセットで使うなら、認知のきっかけにはなります。問題なのは「買えば顧客が集まる」と期待して、一斉DMだけで終わらせてしまうことです。リストはあくまで補助。主役は最初の1人への対応だと位置づけておけば、使い方を誤りません。

Q.税理士の資格がなくても、経理代行で顧客は集められますか?

集められます。記帳代行や日々の経理サポートは資格がなくても提供できる業務です。ただし税務申告は税理士の独占業務なので、そこは税理士と組むか、申告は別と割り切る形になります。資格がない分、最初は価格や、これまでの個人的なつながりが効いてきます。1人に信頼してもらえれば、その実績が次の説得材料になります。

Q.最初の1人は、結局どうやって探せばいいですか?

名簿の中ではなく、あなたがすでに知っている人の中から探します。前職の取引先、知人が営む小さな会社、青色申告会や商工会議所で出会った事業者。そのなかで経理に手が回っていなさそうな人に、直接「お手伝いしましょうか」と声をかけてみてください。1人が見つかれば、そこから紹介で広がっていきます。

実績ゼロの段階からどう口コミを生み出すかは、こちらの記事でも具体的に整理しています。

支援の現場で見てきて確かに言えるのは、長く続く人ほど、最初に名簿を集めた人ではなく、最初の1人を大切にした人だということです。今日できることは、これまでの仕事で縁のあった人を思い浮かべ、その中の1人に声をかけてみるだけで十分です。


さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

起業アイデア診断
【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!

【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!

ポイント この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます!