記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
起業を考えているのですが、最初のお客さんをどこから獲得すればいいか、まったく見当がつきません。SNSはほぼ使っておらず、フォロワーもいません。業界の人脈も薄く、地域のつながりもほとんどない状態です。
こんな状況でも、最初の1件目は取れるものでしょうか?

● 回答
SNSゼロ・人脈ゼロからの初受注は、多くの方が一番最初にぶつかる壁です。結論からいうと、最初の1件は「遠い見知らぬ誰か」ではなく、すでに自分を知っている人の中から生まれることがほとんどです。SNSの発信力も、業界コネも、その時点では必要ありません。
拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』にも「第ゼロ印象」という考え方を書いています。SNSや名刺交換のような「第一印象」が生まれるより前の段階、つまりあなたの存在をすでに知っている人が持っている印象のことです。起業の初期に動くべき相手は、この第ゼロ印象がすでに積み上がっている人です。
「知られていない」ではなく「まだ声をかけていない」
SNSゼロ・人脈ゼロという表現をよく聞きますが、実態を整理すると「SNSで発信していない」「業界の有名人ではない」というだけで、あなた自身を知っている人は必ず存在します。
今の職場の同僚、取引先の担当者、前職の上司、学生時代の知人。この中に「もし◯◯さんが独立して仕事を受けてくれるなら頼みたい」と思っている人が1人もいない、ということはほぼありません。
問題は「その人たちに、あなたが独立するつもりだということが伝わっていない」だけです。知られていないのではなく、まだ声をかけていない状態。そこを動かすことが、初受注への最短ルートになります。
声がけから業務委託に発展した、平山さんのケース
フォーラムでの個別相談で印象に残っているケースを紹介します。
食品メーカーで品質管理を4年担当していた平山さん(31歳・女性)は、規格書の作成や工程管理に関するスキルを独立後の仕事に活かしたいと考えていました。ただ、SNSは使っておらず、業界の横のつながりも薄く、「誰に声をかければいいかもわからない」という状態でした。
相談の中で整理したのは、平山さんの「商品10個」でした。提供できるサービスを書き出してもらったのですが、リストはすぐ埋まりました。ところが「それを頼む具体的なお客様は誰ですか?」と聞いたとき、誰一人顔が浮かんでこなかった。ここが出発点でした。
ひとつ違ったのは、「お客様を探す」より先に「自分が独立することを伝える」という順番を守ったことです。平山さんは、現在の職場で取引のある食品商社の担当者1人に、「もし独立したら、規格書まわりの仕事で声をかけていいですか」と一言だけ送りました。
返信は翌日でした。「それは願ったり叶ったりです。うちでも困っていたところです」という内容で、その後業務委託契約の話に発展しました。声がけの段階では「まだ独立もしていない」状態でしたが、相手が先に待っていてくれたわけです。平山さんは31歳のとき、この一言から仕事の流れが動き始めました。
契約から数ヶ月後、外部からの収入が積み上がり始めました。フォーラムの個別相談では、30代の会社員がこのような初受注を経験するケースが多く、早い人では半年以内に本業以外の受注実績が生まれています。平山さんが「ここが節目だった」と振り返るのは、その金額の大小ではなく「仕事が来る仕組みが、声がけという行動で動き始めた」という実感でした。
声がけの前に整理すること
いきなり「仕事をください」と言うのは声がけではありません。平山さんのケースで機能したのは、次の2点が整っていたからです。
提供できることが具体的だった:「品質管理の仕事全般」ではなく「規格書の作成・工程管理の整理」という形で、相手が依頼をイメージしやすい内容になっていました。相手との関係性が実在した:取引先の担当者という関係がすでにあったため、「独立したら」という仮定の話でも不自然に聞こえませんでした。
この2点が整っていれば、声がけは「売り込み」ではなく「情報提供」として受け取られます。「そういう仕事をするつもりがある」と知らせるだけで、相手が判断する余地が生まれます。
日本政策金融公庫調査が示す初受注の意味
日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査では、開業時に苦労したこととして「資金繰り、資金調達」(56.9%)と「顧客・販路の開拓」(49.9%)が上位でした。裏を返せば、最初の1件を取ることは単なる「最初の売上」ではなく、資金と販路の不安を具体的に下げる分岐点でもあります。
初受注は、売上の始まりであると同時に「自分のスキルに対価を払う人がいる」という確信の始まりでもあります。この確信なしに、発信も営業も長続きしません。
よくある質問
Q.今の職場の人に声をかけると、独立の話がバレるのでは?
「もし独立したら声をかけていいですか」という問いかけは、今すぐ会社を辞めるという宣言ではありません。取引先や社外の担当者であれば、在籍先の就業規則とは関係のない会話です。ただし、社内の人間関係には慎重さが必要で、社外の取引先や退職した元同僚から始めるほうが安全な場合があります。
Q.声をかけられる人が本当に一人もいない場合はどうすればいいですか?
その場合でも、「声がけリスト」を作ることから始めます。現職・前職・学生時代・地域のつながりを書き出すと、思っていたより名前が挙がることがほとんどです。「いない」と感じているのは、声をかけるイメージが持てないだけで、リストが空になるケースは実際にはほぼありません。フォーラムの個別相談では、このリスト化を一緒に行うこともよくあります。
Q.声をかけた結果、断られた場合、関係が気まずくなりませんか?
「もし独立したら声をかけていいですか」という聞き方は断られても関係が壊れにくい問いかけです。「今はないけど、何かあれば」という返答でも十分で、その時点でその人はあなたが何をするつもりかを知ってくれた状態になります。半年後に案件が生まれたとき、最初に連絡が来ることがあります。
今日できることは、今の取引先や元同僚の中から1人だけ選んで「独立したら声をかけていいですか」と問い合わせてみるだけで十分です。

最初の1件は、遠くにいる誰かではなく、すでにあなたを知っている誰かから始まります。地元の小さな需要に気づけたなら、それはもう、あなたにしか見えない商機を一つ見つけたということです。
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