記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
県庁で事務職として働く40代の男性です。あと数年で退職して、地元で自分の仕事を始めたいと考えています。ただ、公務員は営利企業への兼業が制限されていると聞いていて、実際に退職する前にどこまで起業準備を進めておいてよいのでしょうか?

● 回答
「私には特技なんてない、と思っていました」。準備講座に来ていた、ある県庁事務職の方の言葉です。実際に話を聞いてみると、その方は20年以上、住民対応や補助金の審査、庁内の調整業務を積み重ねてきていました。地方公務員が退職前にできる準備は、報酬を得ない範囲でなら想像より広く、報酬を得る範囲は任命権者の許可という一線で仕切られます。まずはこの線をはっきりさせるところから始めてください。
逢坂さん(40代・県庁事務職・男性・仮名)は、55歳前後で早期退職して地元に戻り、中小企業向けの補助金申請支援を始めたいと考えていました。最初は自己流で夜な夜な単発の記事作成サイトに登録し、報酬付きで案件を受けようとしましたが、途中で服務規程の壁に気づいて手が止まり、3ヶ月ほど動けなくなりました。
転機は起業18フォーラムの勉強会に参加したことです。当事者の先輩から「地方公務員法第38条で任命権者の許可が必要になるのは『報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事するとき』です。逆に言えば、報酬を伴わない領域はかなり広いですよ」と教わりました。
そこから、拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』で紹介している「継続可能ゾーン」の考え方に沿って、まずは無報酬でできる情報収集と設計から始めました。半年後には所属先の人事担当に相談したうえで許可を申請し、今は退職2年前の助走期間として、業務時間外で少しずつ準備を進めています。
まず「報酬を伴わない準備」と「報酬を伴う従事」の線を引く
地方公務員法第38条は、任命権者の許可を受けなければ「営利企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない」と定めています。つまり許可が必要になるのは、①営利企業を営むことを目的とする会社等の役員その他規則で定める地位を兼ねるとき/②自ら営利企業を営むとき/③報酬を得ていかなる事業や事務にも従事するときの3つです。逆に、報酬を伴わない情報収集・学習・設計・下ごしらえは、この条文の対象外に置かれます。
ここが「継続可能ゾーン」の考え方と重なります。無理な報酬追及に飛び込むと、規程違反のリスクと生活のリスクが同時にのしかかります。まずは報酬を伴わない準備を、業務時間外で無理のない量から始めてください。目安は1日30分から1時間、週の合計で5時間前後です。
ここでいう準備には、勤め先の就業規則を確認する、地方自治体の創業支援窓口の資料を集める、将来売りたいサービスの原型を紙に書き出す、といった作業が含まれます。
- 許可なしで進められる準備の例:
就業規則と服務規程の確認、地方自治体の創業支援制度の情報収集、退職金と年金の見込み額の把握、想定顧客像の言語化、家計の見直し - 許可の判断が必要になる領域:
報酬を伴う原稿執筆、報酬を伴う講師業、営利企業の役員就任、自ら事業を営む行為、有償のオンライン販売 - グレーになりやすい領域:
無償のブログ発信で将来的に収益化を想定する場合、家族名義の事業への実質的な関与、報酬の受取先を後日に回す取り決め
令和7年の総務省通知が示した「兼業の見え方」も押さえる
令和7年6月11日付けで、総務省自治行政局公務員部長から各都道府県知事・各指定都市市長・各人事委員会委員長に「営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する留意事項について」(総行公第72号)の通知が出されました。この通知は、兼業を希望する地方公務員が兼業できる環境を整備することを目的として、地方公務員法に基づく兼業許可の運用について技術的助言を行ったものです。
近年、自治体ごとに許可基準が整えられつつあり、令和6年度の総務省フォローアップ調査では、兼業の許可基準を設定している地方公共団体は全体の約6割にのぼり、その許可基準を設定している団体のうち約9割が国家公務員の兼業許可基準と同様の基準としています。
この背景があるため、いま在職中の起業準備は、以前より窓口が開きやすくなっています。ただし、個別の許可判断は所属する自治体の任命権者に委ねられている点は変わりません。全国一律の基準ではないので、あなたの所属先の運用を人事担当部署に確認するのが確実です。
退職2〜3年前から進めたい準備の順番
逢坂さんの場合、退職2年前からの助走を次のように組み立てました。最初の半年は情報収集と自己分析に絞り、報酬を一切伴わない段階に留めました。次の半年で、退職後に売りたいサービスの試作を紙とスライド上で作り、家族と支援ニーズのある知人にだけ見てもらいました。ここまでは一般に営利企業への従事そのものには当たりにくい領域ですが、所属先の服務規程や利害関係、信用失墜行為に当たらないかの確認は必要です。
そのうえで、退職1年前を目安に人事担当へ相談し、業務との関連性・公務の公正性への影響・報酬の妥当性を整理した資料を用意して、許可申請の要否と手順を確認しました。今週できることは、ご自身の所属先の就業規則と服務規程を職場のイントラで確認し、営利企業従事許可に関する運用要領があるかを見ることです。
運用要領があれば、そこに申請の様式や判断基準が書かれています。無ければ、人事担当への相談を近いうちに一度予約してみてください。
- 退職2年前:
就業規則の確認、創業支援窓口の情報収集、退職金・年金の見込み把握、家計の再設計 - 退職1年半前:
売りたいサービスの原型づくり、想定顧客への非公式ヒアリング、地方自治体の創業塾の申込み - 退職1年前:
人事担当への事前相談、必要に応じて任命権者の許可申請、退職後の資金計画の確定 - 退職半年前:
屋号と事業内容の最終決定、退職後の健康保険と国民年金の切替手順の確認、実務の道具立て
メリットと、慎重になるべきデメリット
公務員として在職しながら準備できるメリットは、まず生活基盤が守られている点にあります。給与と社会保険が続くので、慌てて売上を作りに行かなくてよい。そのぶん、時間をかけてサービスを磨けます。もう一つは、住民対応・調整業務・書類作成といった役所の日常業務の経験が、退職後の中小企業支援や地域向けサービスにそのまま活きる点です。
一方で、慎重になるべき面もあります。無報酬の準備であっても、業務時間内や職場の設備を使うことは避けるべきです。公務員は勤務時間中は職務専念義務がありますし、庁内のPCで私的な事業計画を作れば服務規律の問題になり得ます。退職前の準備は、自宅と私物の環境で、業務時間外に進めるのが原則です。SNSなどで所属先を匂わせる発信も、退職後にトラブルの種になりやすい領域です。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』でも紹介していますが、「継続可能ゾーン」の目標は、やる気満々の適切ラインより少し左に設定するのがコツです。あなたの場合、退職までの残り時間を思い切り走り切るのではなく、「毎週この時間だけは準備に充てる」という枠を決めておいたほうが続きます。
26年以上の起業支援の現場で見てきた限り、公務員から独立された方に共通しているのは、退職の日をゴールにせず、退職後の1年目までを見据えた助走を組んでいたことです。

地方で始めるか、オンラインで全国を相手にするか。土地に縛られないやり方も、今は十分に現実的です。まずは今週、勤め先の就業規則を開いて、営利企業従事許可の記述があるかを確認してみてください。
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