記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
コンサルタントとして開業準備を進めているのですが、いずれ自分の本も出したいと考えています。文筆業(ライター)は個人事業税が非課税だと聞きました。
ということは、コンサル業で開業していても、本を出して印税が入れば、その印税の分だけは非課税所得になるのでしょうか?
課税と非課税の分かれ目がよく分からず、申告のときに困りそうで不安です。

● 回答
出版社から受け取る印税(著作権使用料)は、著作物の内容がコンサル業に関連していても、原則として個人事業税の対象外(非課税)になります。「文筆業は非課税」という話は本当ですが、注意が必要なのは「著作権使用料として出版社等から受け取るか」「自分で本を印刷して販売するか」「業務委託として制作した成果物の報酬として受け取るか」によって扱いが変わるという点です。まずこの区別を押さえておくと、申告のときに迷わなくて済みます。
ご質問には2つの論点が混ざっています。ひとつは「そもそも個人事業税は何にかかるのか」、もうひとつは「印税のうちどこまでが非課税なのか」です。順番に解きほぐしていきます。
個人事業税は「法定業種70」だけにかかる
はじめに大前提をお伝えします。個人事業税は、すべての個人事業主にかかる税金ではありません。地方税法で定められた業種、いわゆる法定業種を営む人だけが対象です。東京都主税局の案内によると、この法定業種は全部で70業種あり、第1種事業37業種(税率5%)、第2種事業3業種(税率4%)、第3種事業30業種(税率3〜5%)の3つに区分されています。
第3種の30業種には、コンサルタント業・デザイン業・弁護士・税理士などの士業が含まれます(地方税法第72条の2第10項)。なお、「イラストレーター業」という名称の法定業種は地方税法上には存在しません。イラストレーターの業務は、広告や商業目的の依頼業務であれば「デザイン業」として課税対象になる場合がありますが、書籍等の文章内容を補完するさし絵など芸術的創作の側面が強い業務については、広告・宣伝目的のものを除き個人事業税の課税対象として取り扱わないとする行政判断もあります(東京都 審査請求答申)。逆に、この70業種のどこにも当てはまらない事業であれば、所得がいくら多くても個人事業税はかかりません。文筆業(著述業)や作家は、この70業種に名前が挙がっていない代表例です。
文筆業の印税が原則「非課税」になる理由
では、なぜ文筆業の印税は非課税といわれるのでしょうか。理由はシンプルで、作家や著述業が「法定業種70」のどれにも該当しないからです。自分の想像力や知識・経験を文章にして対価を得る仕事は、課税対象としてリストに載っていない、というわけです。
そのため、専業の作家が受け取る印税や原稿料は、個人事業税の対象外になります。確定申告のときは、確定申告書の第2表にある「事業税に関する事項」の欄で、印税などの非課税所得を区分して記載しておくと、後の処理がスムーズです。非課税の所得であることを、申告の段階で都道府県側に正しく伝えるためです。この欄の「非課税所得など」には番号「10」(地方税法第72条の2に定める事業に該当しないものから生ずる所得)を記入します(国税庁 確定申告書記載手引き)。
課税になる収入・ならない収入の見分け方
ここがご質問の核心です。税務当局の公式見解では、「文書・図画そのものを創作する文筆家・画家・漫画家等の著作権の対価(印税等)は法定事業に含まれない」とされています(福井県「個人事業税 業種の認定基準」等)。この原則はコンサルタントが書いた本であっても変わりません。出版社との契約に基づいて支払われる著作権使用料(印税・原稿料)は、著作物の内容が本業のコンサル業に関連していても、それだけで課税対象に転じるわけではなく、原則として個人事業税の対象外です。
分かれ目は「本業と関連するかどうか」ではなく、「収入の性質が何か」です。出版社等から受け取る著作権使用料(印税・原稿料)は原則非課税、自分で印刷・販売した本の売上やコンサル業務の一環として制作した資料・成果物の報酬は課税対象になる可能性があります。「文筆業だから全部非課税」と早合点して、課税対象になり得る収入まで申告から外してしまうと、後で指摘される可能性があります。
- 原則非課税:
出版社等から受け取る著作権使用料(印税・原稿料)。コンサル業の人がコンサル関連の内容で本を書いた場合も同様 - 課税対象になり得る:
コンサル業の一環として制作・納品した資料・マニュアル等の報酬(業務委託の対価として受け取るもの) - 課税対象:
自分で印刷した本を販売する収入(出版業に該当)や、受注制作した同人誌・自費出版物の販売収入
見落としやすい3つの落とし穴
非課税の話には、つまずきやすいポイントがいくつかあります。知らずに進めると判定を間違えやすい3点を挙げておきます。
- 自分で印刷して売る分は別扱い:
出版社から受け取る印税は非課税でも、自分で印刷した本を販売する分は「出版業」とみなされ課税対象になり得ます - 同人誌の物販も課税になり得る:
著作権収入ではなく現物を売る形だと、物品販売業に近い扱いで課税される場合があります - 業務委託として制作した成果物の報酬は課税:
コンサル業の一環として制作・納品したマニュアルや資料の報酬は、コンサル業の事業所得として課税対象になります。出版社から受け取る印税(著作権使用料)とは明確に区別して考える必要があります
つまり、印税という言葉だけで非課税と決めず、収入の中身が「著作権による対価(印税・原稿料)」なのか「自分で作った物を売った代金」なのか「業務として提供したサービスの報酬」なのかを分けて考える必要があります。

自分のケースを確かめる手順
判定に迷ったときの確認手順をまとめます。まず、個人事業税には事業主控除290万円があります(地方税法第72条の49の14)。課税対象の所得から年290万円を差し引いてから税額を計算するため、所得が290万円以下なら、課税業種であってもそもそも個人事業税はかかりません。準備段階の小さな売上のうちは、ここで吸収されるケースも多いはずです。
そのうえで、受け取る収入が印税(著作権使用料)として課税対象外になるかどうか判断がつかないときは、お住まいの都道府県の都税事務所・県税事務所に確認してください。業種の認定は、看板の名前ではなく実際の事業内容と収入の性質で判断されるため、最終的には所轄の判断になります。電話で「この内容の収入は課税対象になりますか」と1問だけ聞いてみるのが、いちばん確実です。
準備中の久野さん(40代・出版に関わる仕事)も、最初は印税と原稿料の扱いが分からず、確定申告のたびに不安だったといいます。転機になったのは、起業18フォーラムの勉強会で「不定期な収入こそ、入った日と内訳を毎回記録しておくといい」と助言されたことでした。
拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』でも、数字を毎日見て記録を切らさない習慣を紹介しています。久野さんは入金のたびに内訳をメモする習慣をつけ、いまは申告前に慌てることがなくなったそうです。

印税の税金は、登録や届け出を急いで今日決めるような話ではありません。仕組みを理解してから判断しても十分間に合いますから、まずは課税・非課税の線引きだけ押さえておけば大丈夫です。
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