記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
62歳です。年金は受け取り始めましたが、それだけだと心もとなくて、月に数万円でいいので何か稼ぎたいと思っています。ただ、もう若いころのように長時間は動けません。立ちっぱなしの仕事で腰を痛めた経験もあり、体に負担のかかる働き方は避けたいのです。
年金をもらいながら、体に無理なく稼ぐ方法はありますか?

● 回答
あります。そして大事なのは、稼ぐ金額の大きさよりも先に、どれだけ体力を使わずに続けられるかを決めることです。60代から年金に少し足す働き方は、稼ぐ額を目標にするのではなく、無理なく続く稼働量を先に決めてから組み立てるとうまくいきます。
「もう若くないから、稼ぐなんて難しいのでは」と感じておられるかもしれません。その気持ちは、これまで多くの同世代の方からうかがってきました。でも、年齢を重ねたこと自体は、商売の世界ではむしろ持ち物になります。長く働いてきた経験や、人とのつながり、段取りの勘どころ。そういうものは、若い人がすぐには手に入れられないものです。
「すごいアイデア」も特別な資格も要りません。必要なのは、自分の体に合った稼ぎ方を見つけることだけです。
同世代の多くが、すでに働きながら年金を受け取っている
まず、ご自身が特別な挑戦をしようとしているわけではない、という事実から見ておきましょう。総務省統計局が2025年9月に公表した「統計からみた我が国の高齢者」によると、2024年の65歳以上の就業者数は930万人で、21年連続の増加となり過去最多でした。65歳以上の就業率は25.7%、なかでも65〜69歳では53.6%と、半数を超えています。
65歳前後の世代の半分以上が、何らかの形で働きながら暮らしているのが、いまの当たり前です。そのぶん、あなたが「年金にもう少し足したい」と考えるのは、ごく自然な流れの中にあります。問題は「働くかどうか」ではなく、「どう体力を配分して働くか」のほうにあります。
「体に無理なく」を、3つの負担に分けて考える
「体に無理なく」という言葉は、そのままでは漠然としています。漠然としたものは、不安として頭に残り続けます。そこで、体への負担を、はっきりした3つに分けてみましょう。分けてしまえば、それぞれに対処の手が打てます。
- 体の負担:
立ちっぱなし、重い物を運ぶ、長時間の移動など、体そのものを消耗させる働き方 - 時間の負担:
朝早く決まった時間に拘束される、シフトに縛られて生活リズムが崩れる働き方 - 気持ちの負担:
ノルマや人間関係に追われ、家に帰っても気が休まらない働き方
立ち仕事で腰を痛めた経験があるとのことですから、まず避けたいのは1つ目の体の負担です。ここを外すだけで、選べる仕事の質がぐっと変わります。そして年金を受け取りながらの稼ぎでは、2つ目の時間の負担も軽くできます。生活費の柱は年金が担ってくれているので、無理にシフトを増やして暮らしを削る必要がないからです。
体力を使わない働き方は、座ってできる仕事に寄せる
体の負担を外すと決めたら、次は座ったまま、あるいは自分のペースでできる仕事に寄せていきます。長く働いてきた方ほど、こうした仕事の種をすでに持っています。
- 教える・相談に乗る:
これまでの仕事で身につけた段取りや交渉のコツを、後輩世代に伝える - 書く・調べる:
経験した業界のことを文章にまとめる、リサーチを請け負う - つなぐ・紹介する:
長年のつながりを生かして、人と人、会社と会社を引き合わせる
どれも、机に向かってできる仕事です。拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、才能のない人は一人もいない、という考え方を紹介しています。離婚や失敗やつまずきといった経験すら、同じ悩みを持つ人にとっては価値になります。長く働いてきた60代のあなたが「当たり前」と思っている知恵は、外に出せば立派な商品です。小さな入口を1つずつ用意して、まずは反応を見ればよいのです。
年金が減るのが心配なら、調整のしくみを知っておく
「働くと年金が減るのでは」という不安もよく聞きます。これは在職老齢年金というしくみのことですが、結論から言えば、月に数万円の小さな稼ぎなら、まず気にする必要はありません。
厚生労働省によると、2025年度の在職老齢年金の支給停止調整額は51万円です。会社などに雇われて厚生年金に入りながら働く場合、給与(総報酬月額相当額)と厚生年金の基本月額の合計が、月51万円を超えて初めて、超えた分の半額が調整される計算になります。
月に数万円を自分の事業として稼ぐ範囲なら、この基準にはまず届きません。小さく稼ぐかぎり、年金が削られる心配はほとんどない、と考えてよい段階です。
ご自身の働き方で正確に確認したいときは、最寄りの年金事務所に相談してみてください。制度は数年ごとに見直されるため、最新の基準を窓口でたしかめておくと安心です。
起業18フォーラムの江原さんが、生活リズムを崩さずに続けられた話
起業18フォーラム会員の江原さん(仮名・60代)は、定年まで営業職を勤め上げた方でした。年金生活に入ってしばらくして、貯金が少しずつ減っていくのを通帳で見るのがつらく、何か稼ぎたいと考えるようになりました。
最初に選んだのは、近所の倉庫での仕分けの仕事でした。ところが、慣れない立ち仕事と早朝のシフトで一気に疲れがたまり、ひと月ほどで膝を痛めてしまったのです。「やっぱり、この歳で稼ぐのは無理なのか」と一度はあきらめかけました。
転機は、江原さんが自分の通帳ではなく、これまでの働き方を見直してみたことでした。長い営業経験のなかで、若手の同行指導や取引先との折衝を数えきれないほどこなしてきました。その段取りや言葉の選び方こそ、人に求められるものではないか。江原さんはそう気づき、週に半日だけ、中小企業の営業相談に乗る仕事を始めました。すべて座って、自分のペースで進められる仕事です。
半年ほど続けるうちに、相談相手だった経営者から「次はうちの若手にも話してやってほしい」と名指しで頼まれるようになり、紹介で相談先が少しずつ広がっていきました。体を痛めることもなく、朝はこれまでどおりゆっくり過ごし、生活リズムを崩さずに続けられています。江原さんはいま、「自分の経験を、まだ誰かが必要としてくれる」と感じる場面が増えたと話します。
- 稼ぐ金額より先に、無理なく続けられる稼働量を決める
- 体の負担・時間の負担・気持ちの負担の3つに分けて避ける
- 座ってできる、自分のペースの仕事に寄せる
- 長年の経験そのものを小さな商品にする
これだけ自分の体力の配分に目を向けて考えているなら、勢いだけで仕事を引き受けてしまう人とは、出発点がまるで違います。あとは、頭の中で考えているだけの段階から、小さく外に出してみる段階へ進むだけです。
今日できることは、週に半日だけ動く小さな仕事を1つ、試しに始めてみることだけで十分です。続けられる手応えは、動かしてみて初めて分かります。

無理なく続く稼ぎ方は、いちどに完成させるものではありません。体に合う稼働量を少しずつ確かめながら、自分のペースで形にしていけば大丈夫です。
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