記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
あるニュースサイトから、原稿執筆の依頼が届きました。ビジネスネームでも名前が世に出るのはうれしいので引き受けたいのですが、こういう場合、原稿料は請求してよいものでしょうか?
また、いくらに設定すればよいのでしょうか?

● 回答
原稿料は、堂々と請求してください。仕事として書くのですから、お金を受け取るのは当たり前のことです。金額の目安は、専門性のある執筆なら2,000〜3,000文字で1万円前後から考えると決めやすくなります。ここからは「請求していいのか」という気持ちのほうと、「いくらにするか」という値づけのほう、両方をほどいていきます。
「請求していいのか」という遠慮を、まず外す
名前が出るのがうれしい依頼ほど、「お金まで求めたら欲張りに見えないか」と気後れしてしまう方が、これまでの相談の現場でも本当に多くいらっしゃいました。けれど、原稿はあなたの時間と知識を使って生み出す成果物です。露出のうれしさと、対価を受け取ることは、まったく別の話として切り分けてかまいません。
先方も、ライターやデザイナーに発注するときは費用が発生する前提で動いています。「お金はいただけますか」と尋ねること自体が、相手にとって失礼になることはまずありません。むしろ無料で引き受けると、次の依頼も無料が前提になりやすく、あとから値づけがしづらくなります。
いくらに設定するか(文字単価と一式、ふたつの数え方)
料金の数え方には、大きく分けて「文字単価」と「記事一式」のふた通りがあります。Webの記事では文字単価で計算することが多く、専門性の低い一般的な記事は1文字あたり1〜2円ほどがボリュームゾーンです。医療・法律・お金のような専門知識が要るジャンルや、取材を伴う記事は、その1.5倍から2倍以上の単価がつくことも珍しくありません。
一方、取材やインタビューを含むしっかりした記事なら、「一式いくら」で見積もるほうが実態に合います。あなたのように専門家として書く依頼であれば、2,000〜3,000文字で1万円前後を出発点に、取材の有無や調べ物の手間を上乗せして決めると、自分も納得しやすい金額になります。最初の見積もりは、自分が「これなら気持ちよく書ける」と思える額より、少しだけ高めに置いておくのがコツです。
単価を決める3つの軸(どこで・誰に・何として売るか)
拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』に、単価を上げる3つの方向という考え方を紹介しています。流通経路を変える、居場所を変える、カテゴリを変える、の3つです。これは原稿料の値づけにもそのまま当てはまります。
流通経路は「誰を通して受けるか」です。コンペ形式のクラウドソーシング経由は単価が下がりやすく、直接の指名依頼は上がりやすい傾向があります。居場所は「どんな媒体に書くか」で、無名の個人ブログより、読者数のあるニュースサイトのほうが原稿料を載せやすくなります。
カテゴリは「何の専門家として書くか」です。「ライター」ではなく「その分野に詳しい実務家が書いている」と位置づけると、同じ文字数でも値段が変わってきます。あなたが名前を出して依頼されたのは、まさにこのカテゴリの価値を見込まれたからです。
「露出になるから無料で」と言われたときの線引き
「掲載されれば宣伝になりますから、今回は無料で」と打診されることもあります。判断の軸は、その露出が本当にあなたの次の仕事につながるか、です。著名な媒体で署名記事として残り、あなたのサイトへリンクを張ってもらえるなら、最初の1本だけ実績づくりとして無料で受ける選択もあります。
ただし、無料で受けるなら必ず交換条件を取り付けます。プロフィール掲載・自分のサイトへのリンク・執筆者名の明記のうち、最低ひとつは書面で約束してもらってから引き受けてください。条件もなく「とにかく無料で」という相手は、その後も買いたたいてくる可能性が高いので、丁重にお断りしてかまいません。
2024年からの新しい法律が、あなたを守ってくれる
2024年11月に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」が施行されました。会社などの事業者が個人に業務を委託するときのルールを定めた法律で、取引の適正化は公正取引委員会・中小企業庁、就業環境の整備は厚生労働省が担当しています。原稿執筆の依頼も、相手が事業者で個人として業務委託を受ける場合は対象になり得ます。
この法律では、発注側に取引条件を書面やメールで明示する義務があります。業務の内容・報酬額・支払期日などです。さらに、一定期間以上の継続的な業務委託では、相場より著しく低い額を一方的に押しつける「買いたたき」なども禁止されます。報酬は成果物を受け取った日から数えて60日以内に支払うルールです。
「条件を文書でいただけますか」とお願いするのは、わがままではなく、法律が後押しする正当な手続きです。口約束だけで進めないことが、初めての取引で自分を守る一番の方法になります。
受け取るときに知っておきたい、源泉徴収のこと
原稿料を個人として受け取ると、支払う側が「源泉徴収」として税金を先に差し引くことがあります。所得税法で定められたもので、税率は1回の支払いが100万円以下なら10.21%です。たとえば1万円の原稿料なら、1,021円が差し引かれ、手取りは8,979円になります。差し引かれた分は、翌年の確定申告で精算されるので、損をするわけではありません。
請求書には「原稿料10,000円」と書き、源泉徴収の有無を相手に確認しておくと行き違いが防げます。請求のときに、税込か税別か、源泉は引かれるのかのふた点だけは、最初に聞いておきましょう。
最初の1本で迷った会員さんの話
起業18フォーラムにいた倉持さん(仮名・40代・女性・メーカーの広報担当)は、社内報を長く書いてきた経験を生かして、勤めながら執筆の仕事も持ちたいと考えていました。とはいえ「自分の文章にお金をもらっていいのか、正直わからない」状態で、フォーラムに参加されました。
勉強会で「カテゴリを変えると単価が変わる」という考え方に出会い、倉持さんは自分を「ライター」ではなく「広報の実務を20年やってきた書き手」と名乗り直しました。会員どうしの個別相談で見積もりの立て方を教わったそうです。
知り合いの会社のオウンドメディアに、まずは有料で1本だけ寄稿してみました。最初の原稿料は、3,000文字で1万2,000円。「思っていたより、あっさり受け入れてもらえました」と話してくれました。
そこから半年。倉持さんは媒体をひとつに絞り、同じ会社で月2本の連載を持つようになりました。今は1本あたりの単価を当初の1.5倍に上げ、指名で依頼が続く状態になっています。件数を追うのではなく、長く付き合える取引先を1社育てたことが、無理のない収入の柱になりました。
よくある質問

Q.相手から「いくらで書けますか」と聞かれたら、どう答えればいいですか?
その場で即答せず、「文字数と取材の有無を教えていただければ、お見積もりをお送りします」と返すのが安全です。条件を聞いてから、文字単価か一式かで計算し、書面で出します。口頭で安い額を言ってしまうと、あとから上げにくくなります。
Q.最初は実績がないので、相場より安くしたほうがいいですか?
1本目だけ実績づくりとして相場より低めにする選択はあります。ただ、ずっと安いままだと値上げがしづらくなるので、「初回特別価格です」と伝え、次回からは通常料金に戻す前提で受けてください。無料ではなく、少額でも有料で受けるほうが、その後の交渉がしやすくなります。
Q.会社に勤めながら原稿料を受け取ると、勤務先に知られますか?
原稿料は雑所得または事業所得にあたることが多く、給与以外の所得にかかる住民税を自分で納付する扱いにできるかは、申告書の記載欄と自治体の運用を確認しておく必要があります。まずはお住まいの自治体の手引きと、勤務先の就業規則の関連項目を、それぞれ一度確認しておくと安心です。
Q.請求書を作ったことがありません。何を書けばいいですか?
まずは、宛名、日付、品目(原稿料・本数・文字数)、金額、振込先、支払期日を基本項目として押さえます。源泉徴収がある場合は、その額と差引後の手取りも併記します。インボイス登録をしている場合などは追加の記載が必要になるため、自分の状況に合わせて確認してください。
原稿料をいくらに設定するか迷ったら、まずは同じジャンルで先に書いている人の料金を、上位の人を中心に5件ほど見て、相場の幅をつかむところから始めてみてください。安すぎも高すぎも避けられます。
名前を出して頼まれたという事実は、あなたの書く力に値段がつき始めた合図です。請求をためらう気持ちは、それだけ誠実に仕事と向き合っている証拠でもあります。その丁寧さは、値づけの交渉でもきっと信頼に変わっていきます。

最初の一通の請求書を出せたとき、あなたは「書く人」から「書いて対価を受け取る人」へと、確かに一歩進んでいます。
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