記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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剪定も植栽も人並み以上にこなせる。けれど「見積りを出す」「お客様を自分で見つける」となると、急に自信がなくなる。その偏りは、腕一本でやってきた庭師さんに驚くほど共通します。
独立を考え始めると、たいてい最初に頭に浮かぶのは道具と車のことです。けれど現場で見ていると、つまずく人ほど道具を急ぎ、続く人ほど「誰に、どう呼ばれるか」を先に決めています。造園の独立でつまずく原因は、技術ではなく仕事の取り方の設計にあることがほとんどです。
下請けの常用で日当をもらう働き方から、自分の名前で頼まれる庭師へ。その移り方には順番があります。鍵になるのは、許可がいるのか、いくらで請けるか、最初のお客様をどう見つけるか。技術より先に、この三つの段取りを固めることです。
造園の独立はそもそも「許可がいる仕事」なのか

独立をためらう理由のひとつに、「許可や登録が面倒そう」という思い込みがあります。ここを先に外しておくと、踏み出す心理的なハードルがぐっと下がります。
造園工事は建設業の一種ですが、建設業の許可が必要になるのは、1件の請負金額が500万円以上(税込)の工事を請け負う場合です。国土交通省の建設業法では、これに満たない工事は「軽微な建設工事」として、許可がなくても請け負えると定められています。個人の庭の剪定や小規模な植栽で独立を始める段階では、建設業許可がなくても仕事はできます。
さらに押さえておきたいのが、剪定や草刈りといった日常の管理作業は、そもそも建設工事に当たらないという点です。庭木の植栽や景石の据え付けは造園工事に含まれますが、伸びた枝を整える、雑草を抜くといった手入れは「管理業務」であり、建設業許可の枠の外にあります。つまり、手入れ中心で始めるなら許可の心配はほとんど要りません。
- 請負金額の線引き:
1件500万円未満(税込)の工事なら建設業許可は不要です。材料費を施主が出す場合も合算して判断します。 - 管理業務の扱い:
剪定・草刈りなどの手入れは建設工事に当たらず、許可の対象外です。 - 開業の届出:
個人で始めるなら税務署への開業届を出すだけで、費用はかかりません。
下請け待ちから抜けられないのは、なぜか

厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、造園工の就業者数は12万2,810人(令和2年国勢調査)で、平均年収は360.8万円(令和7年賃金構造基本統計調査)と公表されています。有効求人倍率は1.92(令和6年度ハローワーク求人統計)で、人手は慢性的に足りていません。
需要があるのに収入が伸び悩む。この食い違いの正体は、多くの場合「単発の工事を会社の言い値で受け続ける」働き方にあります。元請けから回ってくる仕事は、自分で値段を決められず、季節や元請けの都合で量が大きく揺れます。忙しさの割に手元に残らないのは、価格を決める側に立てていないからです。
ここで効いてくるのが、先ほど触れた管理業務の存在です。植栽工事のような単発の仕事を追いかけるより、剪定や年間の手入れを「決まったお客様」と続けるほうが、収入の波が小さくなります。腕の見せどころは同じでも、仕事の取り方を変えるだけで、来年の予定の埋まり方が変わってきます。
結城さんが「任される庭師」になるまで

起業18フォーラムの会員に、造園会社で15年働いたのち44歳で独立した、40代の結城さんという方がいます。剪定の腕は社内でも一目置かれていましたが、独立してすぐは、知り合いの工務店から回ってくる植栽工事を一件ずつこなす日々でした。
最初の失敗は、独立2年目に手がけたある個人邸の庭づくりでした。気心の知れた相手だからと、作業範囲をきちんと決めないまま「ひと通りやっておきます」と安請け合いしてしまったのです。途中で「あの木も」「ここも整えて」と要望が増え、見積りに入れていない作業が膨らんで、その現場は赤字になりました。
その次の細かな剪定でも同じことが起きました。手間の割に金額を低く見積もり、追加の手直しでまた利益が消えたのです。失敗が積み重なるたび、「腕の問題ではなく、自分が範囲と値段を決めていないことが原因だ」と腹に落ちていきました。

背中を押されたのは、起業18フォーラムの勉強会に出たときでした。別の会員が、単発の植栽工事ではなく「年間の庭の管理契約」を一軒ずつ増やして仕事を安定させている話を聞いたのです。剪定や消毒、草取りを年間で請け負い、季節ごとに決まった額をいただく形でした。
結城さんは会員同士の個別相談でその仕組みを掘り下げ、「自分も単発の工事を追うのをやめて、近所の戸建ての庭を一年通して預かる側に回ろう」と方針を固めました。
ここで結城さんが支えにしたのが、拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』で紹介している「複線化」という考え方です。大きな蛇口を一本ひねるのではなく、剪定・消毒・庭木の植え替え・支柱の手入れといった流れを束ね、互いに結びつけていく。年間契約はまさにその束ね方でした。一軒のお客様の中に、季節ごとの手入れという複数の流れが生まれ、それが翌年も続いていきます。
方針を変えて12ヶ月目。結城さんの仕事は、単発の植栽工事の本数では測れないものに変わりました。「困ったらまた結城さんに」と、名指しで一年分の手入れを任されるお客様が増えていったのです。工務店から回ってくる下請けの仕事も、断れるときは断れるようになりました。金額の大小よりも、「あの家の庭は結城さんが見ている」と任される関係が積み上がったことが、本人にとっていちばんの手応えだったと話してくれました。
独立を「任される側」から設計する手順

結城さんの歩みを、これから独立する人がたどれる順番に置き換えてみます。技術はすでにある前提で、仕事の取り方を組み立てていきます。
- STEP1 誰の庭を預かるかを決める:
全方位に「何でもやります」と広げず、戸建ての常連、集合住宅の共用部など、続けて関われる相手を一つ思い描きます。 - STEP2 範囲と値段を先に紙にする:
一回いくら、年間いくらを作業内容ごとに分けて書き出し、追加作業の扱いも決めておきます。安請け合いを防ぐ土台になります。 - STEP3 単発を年間に変える提案を用意する:
一度の剪定で終わらせず、「次は消毒の時期に」と季節の手入れをひと続きで提案する流れを持っておきます。 - STEP4 最初の一軒で試す:
知り合いの庭を一件だけ有料で請け、要望を直接聞きながら、自分の値付けと範囲が通用するか確かめます。
大事なのは、道具や車をそろえるより先に、この「仕事の取り方」を決めておくことです。設備は後から足せますが、価格と範囲を決める習慣は、最初の一軒で身につけておく必要があります。
剪定や管理を年間で束ねていく複線化の考え方は、一気に大きくしようとしないからこそ無理なく続きます。まずは一年通して関われる庭を一軒、自分の手で持つことを目標にしてみてください。

独立は、誰かの下で日当をもらう働き方から、自分の名前で庭を任される働き方へ移ることです。今日できることは、知り合いの庭を一件だけ有料で請けて、要望を直接その口から聞いてみるところからで十分です。先輩の現場に一日同行させてもらい、お客様とのやり取りを横で見るのも、よい入り口になります。
腕はあるのに営業や見積りに不安が残るなら、最初に見る順番をまとめた次の記事も参考になります。

これだけ仕事の取り方や値付けに目を向けているあなたなら、勢いだけで道具をそろえて始める人とは出発点が違います。任される庭師への道は、最初の一軒から始まります。
よくある質問

Q.造園で独立するのに資格は必要ですか?
剪定や植栽の作業そのものに必須の資格はありません。1件500万円未満(税込)の工事なら建設業許可も不要です。造園技能士などの国家資格は信頼の裏づけにはなりますが、独立の条件ではないため、まずは仕事の取り方を固めることを優先してかまいません。
Q.下請けの仕事は続けながら独立してもいいですか?
問題ありません。むしろ収入の土台として下請けを残しつつ、年間管理の契約を一軒ずつ増やしていくほうが、波を抑えながら移行できます。自分で値段を決められる仕事の割合を、少しずつ増やしていく感覚が無理のない進め方です。
Q.最初のお客様はどうやって見つければいいですか?
いきなり広告を打つより、まず知り合いや近所の戸建てに一軒だけ声をかけるのが確実です。一度きちんと手入れをして信頼を得れば、紹介や次の季節の依頼につながります。最初の一軒で範囲と値段の決め方を試すことが、その後の指名を生む土台になります。
Q.年間管理契約は、どんな庭から始めると続けやすいですか?
手入れの頻度が読みやすい個人の戸建ての庭が始めやすいです。春の芽吹き、夏の消毒、秋の剪定、冬囲いと、季節ごとに決まった作業があるため、一年を通した提案がしやすくなります。一軒で流れを作れたら、近所の似た条件の庭へ広げていくと無理がありません。
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