会社に知られたくない不安で動けない人が、守りながら起業準備を進める順番

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「いつか自分の名前で仕事をしたい」と思いながらも、いちばん最初の一歩で足が止まってしまう。その理由が「会社に知られたら気まずい」「住民税やマイナンバーで勤め先にバレるんじゃないか」という不安なら、あなたは慎重で、まじめな人です。その慎重さは、起業準備において欠点ではありません。

ただ、この不安だけは厄介で、頭の中で考えているうちは大きくなる一方です。実際には、税金の仕組みを正しい順番で押さえれば、勤めを続けながら準備を進めることはできます。

今日は、その「守りながら進める順番」を、税務の正確なところまで具体的にお伝えします。

ポイント 「マイナンバーで会社に知られる」は、実は誤解です

怖さの正体はマイナンバーではなく住民税にある

フリーランス

まず、いちばん多い思い込みから外しておきましょう。「マイナンバー制度が始まったから、会社に副収入が筒抜けになる」と感じている人は少なくありません。私のところにも、この一点だけで準備を止めている会員さんが毎月のように来られます。

ところが、これは事実とは違います。デジタル庁の「よくある質問:マイナンバー制度について」では、マイナンバー制度によって地方税関係の手続きに変更は生じず、会社の外での収入があるという事実が新たに判明するものではない、と明記されています。行政があなたの勤め先に「この人は別の収入があります」と通知する仕組みは、そもそも存在しません。

では、なぜ「バレる」という話が消えないのでしょうか。鍵になるのはマイナンバーではなく、住民税です。ここを取り違えたまま不安だけ抱えていると、いつまでも動けません。だからこそ、順番として最初に外しておきたい誤解でした。

ポイント 本当に気をつけたいのは、住民税の「徴収方法」です

本当に気をつけるのは住民税の徴収方法の一点

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会社員の住民税は、ふだん給与から天引きされています。これを特別徴収と呼びます。会社があなたに代わって納める方式です。

会社の外で得た収入を確定申告すると、その分も住民税の計算に乗ります。何もしなければ、増えた住民税も特別徴収にまとめられ、勤め先に届く通知の金額が変わります。経理担当者が「給与のわりに住民税が多いな」と気づく。これが、いわゆる「バレる」の正体です。

逆に言えば、ここさえ手当てすれば、不安の大半は具体的な手続きに置き換わります。やみくもに怖がる段階から、自分でコントロールできる段階へ移れるわけです。

確定申告書で「自分で納付」を選ぶ

方法はシンプルです。確定申告書の第二表に「住民税・事業税に関する事項」という欄があり、住民税の納め方を選べます。会社の外で得た所得の住民税を「自分で納付(普通徴収)」に印をつけておけば、その分は会社を通さず、自分で納める形になります。

こうすると、勤め先に届く住民税の通知は給与分だけになります。増えた分はあなたの手元に納付書が届き、自分で払う。会社の経理を経由しないので、給与とのズレで気づかれることがなくなります。

「給与でもらう」と、この方法が使えないことがある

ここが、多くの解説が省きがちで、けれど正確に知っておきたいところです。会社の外の仕事を「給与」として受け取る場合、たとえばアルバイトのような形だと、住民税は原則として特別徴収にまとめられます。普通徴収を選んでも、自治体の処理で本業の会社側に乗ってしまうことがあるのです。

一方、自分の事業として受ける仕事(事業所得や雑所得)であれば、普通徴収を選びやすい。つまり、守りながら進めたいなら、雇われてアルバイトする形ではなく、自分の名前で仕事を受ける形のほうが税務上も整理しやすいということです。準備の入口で「どういう受け取り方をするか」まで考えておくと、後がラクになります。

なお、住民税の最終的な徴収方法を決めるのは、お住まいの自治体です。申告内容や運用によって扱いが変わることがあります。「普通徴収を選べば絶対に知られない」という制度ではない点は、誠実にお伝えしておきます。確実を期したいなら、申告の前に役所の住民税担当に一本確認を入れておくと安心です。

ポイント 守りながら進める、現実的な順番

理解し、受け取り方を決め、自治体に確かめる

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ここまでを、動ける形に並べ直します。拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、住民税の普通徴収を含めた「会社に知られず、できる範囲で続ける」ための地に足のついた論点を紹介しています。その考え方を、今のあなたの一歩に落とすと、こうなります。

  • 順番1:仕組みを正しく理解する:
    怖さの正体はマイナンバーではなく住民税の徴収方法だと押さえます。ここで不安の半分は消えます。
  • 順番2:受け取り方を決める:
    雇われる形ではなく、自分の名前で仕事を受ける形を選びます。普通徴収を使いやすくしておきます。
  • 順番3:自治体に確認する:
    申告前に、役所の住民税担当へ「自分で納付」を選べるかを確かめます。

この3つは、どれも今の生活を一切崩しません。収入が途絶えるわけでも、会社に何かを申し出るわけでもない。ただ、知って、選んで、確かめるだけです。

ポイント 勤めを続けながら、月3万円のラインに届いた篠塚さん

手続きを整えたら数字に怯えず前を向けた篠塚さん

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会社員をしながら準備を進めた篠塚(しのづか)さんは、40代で、まさにこの「税金が怖くて動けない」で半年ほど立ち止まっていた方でした。経理部門にいたこともあって、人一倍「数字で会社に気づかれること」に敏感だったのです。自己流で調べるほど不安が増し、手が止まっていました。

流れが動いたのは、起業18フォーラムの勉強会で、先に動いていた会員さんから「自分は普通徴収にして、事業所得で受けるようにした」という実際の扱いを聞いたときでした。漠然と怖がっていたものが、具体的な手続きの名前に変わった瞬間です。

そこから篠塚さんは、フォーラムの個別相談で公的な手続きの順番を一つずつ確認しました。確定申告書のどの欄で普通徴収を選ぶか、受け取り方をどう整えるか。土台が固まると、本業の傍らで請けていた資料作成の仕事を、落ち着いて広げられるようになりました。

9ヶ月目、篠塚さんの会社の外での収入は、月3万円ほどで安定するようになっていました。派手な数字ではありません。けれど本人いわく「金額より、会社にビクビクしながらやらなくてよくなったのが大きい」とのことでした。守りが固まると、人は前を向けます。不安に怯えていた頃には届かなかった落ち着きが、手続きを整えただけで手に入ったわけです。

ポイント 今日できること

今日できるのは普通徴収を選べるか確認するだけ

point

不安は、調べれば調べるほど大きくなることがあります。でも、手続きの名前を一つ知るだけで、急に手のひらサイズになります。あなたがまじめに「会社に迷惑をかけたくない」と考えている、その気持ちは、むしろ事業を長く続ける人の資質です。

今日できることは、お住まいの役所か国税庁のページで「普通徴収(自分で納付)」が選べるかを、1点だけ確認することだけで十分です。それ以上は、今日はしなくてかまいません。

会社の外に自分の収入の柱を持つことと、勤め先への配慮は、両立できます。だからこそ、焦らず自分のペースで進めて大丈夫です。

会社員のまま起業するのは本当にできますか?
● 質問 会社員のまま起業するという方法に興味があるのですが、本当にそれで起業できるのか半信半疑です。 周りを

大切なのは、不安を抱えたまま止まることではなく、仕組みを知って自分で選べる状態になることです。その一歩は、納付書の選び方を確かめるところから、もう始められます。

ポイント よくある質問

税金と会社バレの不安によくある疑問にお答えします

起業前質問集

Q.副収入が年20万円以下なら、確定申告も住民税の手続きもいらないのですか?

所得税の確定申告が不要になる場合でも、住民税の申告は別に必要になることがあります。会社の外での所得は、金額にかかわらずお住まいの自治体への住民税申告の対象になり得ます。「20万円以下だから何もしなくていい」と早合点せず、役所の住民税担当に確認してください。

Q.普通徴収を選べば、会社に知られることは完全になくなりますか?

「完全になくなる」とは言い切れません。住民税の最終的な徴収方法を決めるのは自治体で、申告内容や受け取り方(給与か事業所得か)、自治体の運用によって扱いが変わることがあります。普通徴収はリスクを下げる有効な手段ですが、確実を期すなら申告前の事前確認が安心です。

Q.会社にバレない裏ワザのような方法はありますか?

残念ながら、絶対の裏ワザはありません。大切なのは奇策ではなく、住民税の仕組みを正しく理解し、自分の名前で仕事を受け、普通徴収を選び、自治体に確認するという正攻法です。地味に見えても、これがいちばん長く続けられて、気持ちも消耗しない進め方です。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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