会社を辞める前の準備、何から? 開業届を急がない順番の決め方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

会社を辞めて個人事業主になろうと決めたとき、多くの人がまず「開業届はいつ出すんだろう」と検索します。手続きの入口がいちばん目に入るからです。けれど、登録という事務手続きは、本当はかなり後ろの工程です。先に固めておくべきことが、その前にいくつもあります。

順番を間違えると、収入の見込みがないまま身分だけ個人事業主になってしまったり、勤め先との関係を整理しないまま動いて気まずくなったりします。この記事では、登録より先にやっておくことを、辞める前の準備の順番として整理します。今の働き方を続けながら、無理なく組み立てていく前提でお話しします。

ポイント 開業届は「準備の最後」に出る手続き

登録を急ぐより先に固めておきたい三つの土台

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個人事業の開業届(正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」)は、所得税法第229条にもとづく届出です。2026年からは、事業を始めた年分の所得税の確定申告期限までに税務署へ出せばよい形に改められました。つまり開業届は、事業を「もう始めた」あとに出す事後の手続きで、期限にもある程度の幅があります。

ここを取り違えると、順番が逆になります。開業届を出すことが起業のスタートではなく、事業の中身ができてから登録する流れが本来の順番です。登録そのものは十数分で終わる作業で、難しさはありません。だからこそ、そこに気を取られて、もっと大事な前工程を飛ばしてしまうのは惜しいのです。

では、登録より先に何を固めるのか。大きく分けて3つあります。お金が回るかの見通し、勤め先との関係の整理、そして準備に使う時間の確保です。次から順番に見ていきます。

ポイント 登録より先に固める3つのこと

お金と勤め先と時間という辞める前の三つの土台

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辞めてから慌てて整えるのではなく、勤めているうちに少しずつ固めておくと、退職という大きな決断が小さな延長線になります。日本政策金融公庫が2024年11月27日に公表した「2024年度新規開業実態調査」を見ると、その傾向がよく分かります。

この調査では、開業時の平均年齢は43.6歳で、40歳代が37.4%を占めていました。働き盛りで家庭もある世代が、生活を守りながら踏み出している様子がうかがえます。

そのぶん、いきなり収入を失う進め方は現実的ではありません。先に固めるべき土台を、辞める前から順に積んでいきます。

1.お金が回るかの見通しを立てる

最初に確認するのは、辞めても当面の生活が回るかどうかです。事業の利益が出るまでには時間がかかります。退職を考える目安として、半年先までの売上の見込みが立っているか、生活費の蓄えがあるかを先に押さえておきます。

家族がいる場合は、当面の生活費に加えて、本業の収入をしばらく補える備えがあるかを早めに数字で確認してください。ここがあいまいなまま登録だけ進めても、心の余裕は生まれません。

2.勤め先との関係を整理する

次に、今の勤め先との関係です。就業規則で兼業がどう扱われているかを、辞める前に静かに確認しておきます。準備の段階で勤め先と事を構える必要はありません。在職のうちにできることと、退職後に動かすことを、頭の中で線引きしておくと迷いが減ります。

  • 準備を急ぎすぎたときのつまずき:
    収入の見込みがないまま登録だけ先に済ませてしまう
  • 関係整理の見落とし:
    就業規則を確認しないまま動いて勤め先と気まずくなる
  • 時間の落とし穴:
    休日にまとめてやろうとして続かず、準備が止まる

青い枠に挙げたのは、順番を飛ばしたときに起きやすいつまずきです。どれも、登録より前の土台を固めておけば避けられます。

3.準備に使う時間を「定時」にする

三つ目が、見落とされがちな時間の確保です。お金と勤め先の整理ができても、準備を進める時間が日々の中に組み込まれていなければ、計画は前に進みません。ここでつまずく人がいちばん多いと感じています。

拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、朝晩30分、つまり1日1時間を準備にあてる考え方を紹介しています。まとまった休日を待つのではなく、毎日の決まった時間に小さく積む。むしろ、30分という短さだからこそ毎日続き、準備が止まらないのです。

ポイント 準備時間を「定時化」すると順番が崩れない

準備の時間を枠で固定すると順番が崩れず回り出す

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準備が続かない人の多くは、意志が弱いのではありません。準備の時間が「空いたらやる」になっているだけです。空き時間は、忙しい日ほど真っ先に消えます。だから、準備の時間そのものを先に予定として固定してしまうのが効きます。

たとえば、平日の夜に30分の枠を一つ決めて、カレンダーに「準備」と入れてしまう。会議の予定と同じ重さで扱う。今日できることは、平日夜の30分を「準備の定時」としてカレンダーに固定するだけで十分です。枠さえ決まれば、その中で何をやるかは後から埋まっていきます。

  • 枠を決める:
    平日夜などに30分の準備枠をカレンダーへ固定
  • 同じ重さで扱う:
    会議や家族の予定と同列に置いて動かさない
  • 小さく積む:
    30分でできる一歩に区切って毎日進める

黄色い枠のやり方は、準備の順番を崩さないための土台です。お金と勤め先の整理という重い検討も、毎日の30分に分けて少しずつ進められます。登録は、こうして中身が固まったあとに出せばよいのです。

ポイント 同じ30分の枠で、半年後に最初の受注が来た会員さん

同じ枠で回した定時の準備が継続につながった一例

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起業18フォーラムにいた鶴見さん(仮名・40代・メーカー総務)は、独立したい気持ちはあるものの「何から手をつければいいか分からない」状態でフォーラムに参加されました。最初は休日にまとめて準備しようとして、忙しい週はまるごと手つかずになっていたそうです。

転機は、勉強会で他の会員の進め方を見ているうちに、自分で気づいたことでした。準備が進む人は休日にがんばっているのではなく、平日の決まった時間に少しずつ動いている。そこに気づいて、鶴見さんは帰宅後の30分を準備の定時にあて、カレンダーに固定しました。総務で培った書類整理の感覚を活かし、まずは身近な人の事務まわりを手伝うことから始めたそうです。

同じ30分の枠が毎日回り続けたことで、準備は止まらなくなりました。半年後、知人を通じて最初の受注が一件入り、そこから少しずつ依頼が続くようになりました。派手な飛躍ではありません。けれど、準備の時間が崩れなかったことが、最初の一件と、その後の継続につながったのです。鶴見さんは今も同じ枠を守りながら、依頼を増やす準備を進めています。

ここで一つ、よく受ける反論にも触れておきます。「先に開業届を出したほうが本気になれるのでは」という声です。気持ちは分かります。ただ、登録は事業の中身を保証してくれません。本気のスイッチは、毎日の準備の枠を守るほうが確実に入ります。

順番を整理すると、登録は最後でいい、というのが結論になります。お金の見通し、勤め先との関係、そして準備の時間。この三つを勤めているうちに固めておけば、退職と開業届は静かに続く一歩になります。

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焦って身分を変えるより、明日の夜の30分を準備の定時にすること。順番の一段目は、いつもそこから始まります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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