開業届を出すタイミングはいつがいい? 早すぎても遅すぎても怖い人へ

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

会社員をしながら、休日に少しずつ自分の仕事を始めようとしています。ネットで調べると「開業届は早く出した方がいい」という意見と「売上が出てからで十分」という意見の両方が出てきて、どちらが正しいのか分かりません。

まだ売上はゼロですが、今のうちに開業届を出しておくべきでしょうか?

起業前質問集

● 回答

まだ売上がゼロの段階なら、急いで開業届を出す必要はありません。開業届を出すタイミングは、カレンダーの日付ではなく「売上がどの段階にあるか」で判断するのが現実的です。最初の一人のお客様にたどり着く前の時期に、書類を先に整えても、得られるメリットはまだ動き出しません。

とはいえ「出さないと罰則があるのでは」と不安になる気持ちも、よく分かります。その不安の正体も含めて、順番に整理していきますね。

開業届は「出すだけ」なら費用も罰則もない

まず、いちばん怖がられている部分を先にほどいておきます。開業届(正式には個人事業の開業・廃業等届出書)は、税務署の窓口・郵送・e-Taxのいずれでも提出でき、提出そのものに手数料はかかりません。書類は国税庁のサイトから無料でダウンロードできます。

提出期限は所得税法第229条で定められており、2026年1月1日以降に開業した場合は「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで」となっています。具体的には、開業した年の翌年3月15日が期限です。また、この期限を過ぎても罰則やペナルティはありません。ここを知らずに「出し遅れたら怒られる」と思い込んでいる方が、本当に多いのです。

開業届について先に知っておきたい事実

  • 費用:
    提出に手数料はかからず、書類も国税庁サイトから無料で入手可能
  • 期限:
    事業を開始した年の確定申告期限(翌年3月15日)まで。過ぎても罰則はなし
  • 方法:
    窓口・郵送・e-Taxから選べて、自宅からでも提出可能

つまり「出すこと」のハードルは、思っているよりずっと低いのです。怖いのは手続きそのものではなく、出した後に何が変わるかが見えていないことだと、私は感じています。

売上が出る「前」と「後」で、得られるものが違う

では、なぜ「売上が出てからでいい」という意見が出てくるのか。それは、開業届のメリットの多くが、売上が動き出してから初めて効いてくるからです。

開業届を出すと、青色申告という制度を使う準備が整います。青色申告には最大65万円の青色申告特別控除という大きな利点がありますが、これは利益が出ていて初めて意味を持つ仕組みです。売上がゼロの段階では、控除する対象がそもそもありません。屋号での銀行口座も、取引相手がいて初めて活きてきます。

一方で、売上が出る前に出すと困る場面もあります。たとえば、配偶者の扶養に入っている方の場合、開業届を出したことで扶養の条件を確認する手間が早めに発生することがあります。失業給付を受けている時期なら、開業の事実が受給に影響することもあります。慌てて出すと、まだ準備していない判断を前倒しで迫られてしまうのです。

私が起業準備の相談に乗ってきた中でも、書類を先に完璧に整えようとして、肝心の「最初のお客様を見つける」ことが後回しになってしまう方を何度も見てきました。順番が逆になっているのですね。

「売上の段階」で考えると、出すタイミングが見えてくる

ここで、判断の物差しを一つご紹介します。私は拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』で、売上を金額のレンジごとの段階(STAGE)に分けて紹介しています。

いちばん最初のSTAGE Iは、売上が0円から1万円の時期です。この段階の主役は書類ではなく、「お金を払ってもいい」と言ってくれる最初の一人にたどり着くことです。友人に頼まれた1回の作業に「お金を払いたい」と言われて、無料の親切と有料の仕事の境目を初めて意識する。そういう瞬間が、この段階の入口になります。

開業届や青色申告といった制度の話は、その次のSTAGE II(売上1万円から5万円)で具体的に効いてきます。継続して売上が立ち始め、確定申告を意識する時期です。だからこそ、まだ最初の一人に出会う前のSTAGE Iにいるなら、書類は急がなくていいのです。

売上の段階で見る、開業届の考え方

  • 売上ゼロ〜最初の一人を探す段階:
    書類より先に、お金を払ってくれる一人を見つけることに集中
  • 継続して売上が立ち始めた段階:
    青色申告特別控除のメリットが効き始めるので、開業届の提出を具体的に検討
  • 判断の物差し:
    日付ではなく、自分が今どの売上段階にいるかで決める

データもこの考え方を後押ししてくれます。日本政策金融公庫の2024年度「起業と起業意識に関する調査」では、本業のかたわら起業した人(パートタイム起業家)の月商は、9割(90.2%)が50万円未満でした。多くの人が小さく始めて、少しずつ売上を育てているのです。あなたが今すぐ完璧な書類をそろえる必要がないことが、この数字からも見えてきます。

堤さんが、書類より先に動いた話

起業18フォーラムの会員さんで、IT営業をされている30代の堤さんという方がいました。休日に得意のデータ整理を仕事にしたいと考えていたのですが、最初に取りかかったのが開業届の準備でした。書類の書き方を調べ、屋号を何にするか何日も悩み、肝心の「誰に売るか」が止まってしまっていたのです。

転機は、ちょっとした偶然でした。知人から「うちの店の売上データを見やすく整理してほしい」と頼まれ、軽い気持ちで引き受けたところ、「これ、お金払うよ」と言われたのです。その一言で、堤さんは初めて自分の作業に値段がつくことを実感しました。

そこからは順番が変わりました。書類は後回しにして、同じように困っていそうな小さなお店に声をかけていったのです。気づけば、初月で3万円の売上が立っていました。堤さんが開業届を出したのは、その後のことです。最初の一人に出会ってから書類を整えても、何ひとつ遅くはありませんでした

順番を入れ替えただけで、止まっていた準備が動き出した。これは堤さんに限った話ではありません。書類は、売上という現実が見えてから整えても十分間に合うのです。

よくある質問

開業届のタイミングについて、相談の現場でよくいただく質問にお答えします。

Q. 開業届を出さないと、確定申告ができないのですか?

いいえ、開業届を出していなくても確定申告はできます。所得が一定額を超えれば申告は必要ですが、それは開業届の有無とは別の話です。ただし、青色申告特別控除などの有利な制度を使うには、開業届と青色申告承認申請書の両方が必要になります。この2つは別の書類で、青色申告承認申請書の提出期限は「開業日から2ヶ月以内(開業日が1月1日〜15日の場合はその年の3月15日まで)」と定められています。青色申告を考えるなら、早めにこの期限を確認しておきましょう

Q. 会社に開業届のことが伝わってしまいませんか?

開業届の提出が、勤め先に直接通知されることはありません。会社に伝わるかどうかは、主に住民税の納め方など別の経路の話になります。開業届そのものを理由に、勤め先へ連絡が行くわけではないので、その点は切り離して考えて大丈夫です。

開業届を提出したら会社の保険から外れますか?
● 質問 会社員のまま起業準備で月10万円ほどの収入が出るようになり、開業届を出そうかと考えています。 ただ「

開業届を出すかどうかで悩んでいる時間は、実はまだ手前の段階にいるサインかもしれません。今日できることは、国税庁のページで「開業届は出すだけなら費用ゼロ」という事実を一つ確認するだけで十分です。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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