個人事業主の見積書の書き方|金額より先に範囲・修正回数・納期を書面にする手順

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

初めての見積書づくりは、行き先を告げないままタクシーに乗るのと少し似ています。メーターの数字ばかり気にしているのに、どこまで行くのか、いつ着きたいのかを運転手さんと確認していない状態です。これでは、降りるときに料金でもめても不思議はありません。

個人事業主としての最初の見積書・提案書で本当に大事なのは、金額の欄ではありません。その手前にある前提条件、範囲・修正回数・納期の3つを文字にすることです。

ポイント 見積書で最初に書くのは金額ではなく前提条件

初めての見積書で金額より条件を先に書く理由

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金額の欄で手が止まる気持ちは、よくわかります。安く書きすぎて損をしないか、高すぎて引かれないか。初めての見積書の悩みは、たいていお金の話から始まります。

ところが、起業準備の相談の現場でもめごとの中身を見ていくと、様子が違います。見積書のトラブルの多くは、金額ではなく「どこまでやるのか」の解釈のズレから始まります。金額に納得して始まった仕事でも、範囲があいまいなら着地点は相手の頭の中で動き続けるからです。

「ロゴの修正もお願い」「ついでにこのページも」と頼まれるたび、どこまでが見積もりの内側なのか、あなたにも相手にも分からなくなっていきます。断る基準を最初に作っていないので、夜中の作業で吸収するしかなくなるわけです。

だからこそ、書く順序を入れ替えてほしいのです。見積書は値札ではなく、仕事の範囲を先に決めるための小さな合意書です。金額は、その合意の上に乗る数字にすぎません。

拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』では、「価格競争が起きない場所に行く」という考え方を紹介しています。条件を書かずに金額だけを出す人は、相手の頭の中で「いくらでやってくれる人」の比較表に並べられます。前提条件を先に示す人は、その比較表から降りて、条件を提示する側に立てるのです。

前提条件を決めずに受けたときに起きること

  • 「言った言わない」の確認メールが本作業より長くなる
  • 無料の修正が延々と続き、時給に直すと赤字になる
  • 納期の認識がズレて、報酬だけでなく信用まで失う

裏を返せば、先に文字にしておくだけで避けられるもめごとが、それだけ多いということです。

ポイント 書面にする前提条件は「範囲・修正回数・納期」の3つ

範囲・修正回数・納期の3点を書面化する手順

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難しい書式はいりません。見積書なら金額欄の上、提案書なら末尾に、次の3行を入れるだけです。順番に見ていきましょう。

範囲:含む作業と含まない作業を区切る

「トップページ1枚のデザインまで。下層ページと文章の作成は含みません」のような書き方です。ポイントは、含むものだけでなく「含まないもの」も1行添えること。人は書かれていない部分を、自分に都合よく解釈します。

修正回数:無料で直す範囲を先に決める

修正は善意で受けるほど終わらなくなります。「修正は2回まで、3回目からは別料金」のように、回数と追加分の扱いを先に1行で書いてください。ここを書ける人は意外と少なく、書くだけで仕事の進み方が変わります。

納期:日付と着手条件をセットで書く

納期は「○月○日まで」だけでは半分です。「素材一式をいただいてから10営業日で初稿」のように、相手の協力が前提に入っていることを示します。納期遅れの原因のかなりの部分は、発注側の素材待ちだからです。

見積書・提案書に入れる前提条件チェックリスト

  • 範囲:
    含む作業と含まない作業を1行ずつ明記
  • 修正回数:
    無料は2回までなど回数と追加料金の扱いを明記
  • 納期:
    着手条件とセットで「受領から○営業日」と明記

全部で3行、時間にすれば10分の作業です。前提条件が空欄の見積書は、あとから条件を相手が決められる「白紙委任状」になりかねません。埋めてから出す習慣を、最初の1枚から作ってください。

ポイント 条件を書くのは失礼ではなく、フリーランス新法の標準

フリーランス新法で条件明示が標準になった今

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条件を細かく書いたら相手に失礼ではないか、と手が止まる方は多いものです。ここは時代の流れを知っておくと、気持ちが楽になります。流れはむしろ逆だからです。

2024年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、いわゆるフリーランス新法が施行されました。個人で仕事を受ける人と発注者との取引を、国がルールとして整えた法律です。

所管は公正取引委員会と中小企業庁、働く環境の整備については厚生労働省が担当しています。違反があれば、これらの行政機関に申し出る窓口も用意されました。

柱になるのが取引条件の明示義務です。仕事を頼む側は、仕事の内容・報酬の額・支払期日などの条件を、書面かメールなどの電磁的方法で示すことが義務になりました。口頭だけの発注は、もう認められません。

さらに、従業員を使う発注事業者には、成果物を受け取った日から60日以内に報酬の支払期日を定める決まりもあります。逆に、あなたがいつか誰かへ仕事をお願いする側に回れば、規模に関係なく条件明示の義務を負う立場になります。

発注側にすら書面化が義務付けられた時代です。受注側のあなたが前提条件を先に書くのは、失礼どころか「取引のルールを分かっている人」の振る舞いになります。堂々と書いてください。

ポイント 「もろもろ込み」で受けた片桐さんの見積書が変わるまで

手戻り赤字から失注率が下がるまでの道のり

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起業18フォーラムの会員さんに、制作会社の経験を生かしてWeb制作で独立した片桐さん(仮名・40代)がいます。

独立して10ヶ月目、知人の紹介で受けた会社案内サイトの案件で、片桐さんは見積書に「一式◯◯円(もろもろ込み)」とだけ書きました。早く決めたい一心で、範囲も回数も書かなかったそうです。

結果は手痛いものでした。公開直前までデザインの直しが続き、修正が12回を超えた時点で、手元に残るはずの利益は消えていました。それでも「込み」と書いた手前、断る根拠がありません。

この案件のあと、片桐さんは原因を相手ではなく自分の書類に見つけました。価格と範囲を決めていなかったのは、ほかならぬ自分だったという気づきです。

起業18の定例会で先輩会員の見積書を見せてもらったとき、金額の上には前提条件が3行並んでいました。片桐さんは自分の書式を作り直し、範囲・修正回数・納期を必ず先に書くようにしました。

変化は金額ではなく、負け方に表れました。14ヶ月目あたりから、相見積もりで「安いところに決めました」と言われる失注が目に見えて減ったのです。条件が合わない相手とは見積もりの段階で分かれるため、残った話はまとまりやすく、消耗するだけの負け方がなくなりました。今では紹介の話も、条件を読んだうえで届くようになっています。

ポイント よくある質問

見積書と提案書の細かい疑問に答えるQ&A

起業前質問集

Q.修正回数を書くと、相手の印象が悪くなりませんか?

逆です。基準のない「何度でも直します」のほうが、あとで双方を苦しめます。回数を書くのは「ここまでは気持ちよく直します」という宣言でもあります。印象を悪くするのは条件の存在ではなく、後出しのほうです。

Q.知り合いからの仕事でも前提条件は必要ですか?

近い関係ほど必要です。仲が良いほど「言いにくい」が積み重なり、仕事と一緒に関係まで壊れます。形式ばった契約書でなくても、メール1通に範囲・修正回数・納期の3行を書いて送れば、それが立派な書面になります。

Q.提案書と見積書で前提条件の書き方は変えるべきですか?

中身は同じで構いません。提案書は「何をやるか」を語る書類、見積書は「その条件と対価」を約束する書類です。両方に同じ3行を載せておけば、どちらか一方しか読まれなかった場合でも条件は伝わります。

ポイント 最初の1件は、条件3行を添えて出してみる

条件3行を添えて最初の1件を出す次の一歩

point

腕試しの相手は、遠くで探さなくて大丈夫です。範囲・修正回数・納期の3行を添えて、まずは知り合いの仕事を1件だけ、有料で引き受けてみてください。金額は小さくて構いません。お金をもらい、条件どおりに納めて、もめずに終える経験は、テンプレート集を何冊眺めるより力になります。

うまく書けたかどうかは、二の次でいいのです。条件を自分の手で決めて出したという事実が、あなたを「値段を聞かれるだけの人」から「条件を示す人」に変えていきます。

最初の値付け、安売りから抜ける値段の決め方|相場と最低ラインの順番
自分のサービスにいくらの値段をつければいいのか。起業準備でこの問いの前に立つと、多くの人の手が止まります。高く

前提条件の3行は、知った今日が出発点です。いつか同じところで手を止めている人に「金額より先に条件だよ」と自分の言葉で話せたとき、この知識は本当にあなたのものになっています。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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