教師の起業|在職中にできる準備と退職後に活きる強みの整理術

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

教壇に立っていると、保護者から「先生、うちの子だけ別で見てもらえませんか」と頼まれた経験が一度はあるのではないでしょうか。

その瞬間に、自分の指導が外でも価値になるかもしれないと感じた人は少なくないはずです。

ただ、教師の場合は地方公務員法や教育公務員特例法の枠があり、思いつきで動くと懲戒対象にもなりかねません。

ここでは、教員という立場の制約を踏まえたうえで、在職中から退職後までを見越した起業準備の進め方を整理していきます。

ポイント 教師の経験が事業になる3つの理由

指導・設計・対話の三領域がそのまま市場価値に変わる

講師

文部科学省の学校基本調査によれば、令和6年度の本務教員数は小学校42万5109人、中学校24万7420人、高校22万3206人で合計約90万人に上ります。これだけの人数が日々、誰かに何かを伝える仕事をしているわけです。

ところが、自分の経験が市場でいくらの値段になるのかを意識する機会は、教員生活の中ではほぼありません。給与表で動く世界にいると、自分の指導力に値札を付ける発想そのものが遠のきます。

ここを切り替えるには、まず教師の仕事を「指導」「設計」「対話」の三領域に分解して、どこに需要があるかを見ていくのが近道です。

指導の領域は単価が読みやすい

授業で蓄積した教える力は、最も換金しやすい資産です。オンライン家庭教師、個別指導、受験対策動画、いずれも「分からない子にどう噛み砕くか」という教師の日常そのものを商品にできます。

矢野経済研究所の調査では、2024年度の国内eラーニング市場規模は3,812億円、教育産業市場全体は2兆8,555億円に達しています。指導の場が教室の外に大きく広がっていることが分かります。

設計の領域は再現性で売る

授業案、評価ルーブリック、学級経営計画、年間カリキュラム。これらを毎年作り直してきた経験は、教材販売や教育機関向けのコンサルにそのまま活きます。

教師にとっての「設計」は、目の前の子に合わせて構造化する作業を毎日繰り返してきた蓄積であり、ここに気付くかどうかで起業の選択肢は大きく変わります

対話の領域は感情労働の専門知になる

保護者面談、生徒指導、いじめ対応、進路相談。きれいごとでは済まない場面を経験してきた人ほど、保護者向けコーチング、不登校支援、教育系カウンセリングといった領域で強みを発揮します。

  • 指導:オンライン家庭教師・受験対策・教科特化レッスン
  • 設計:教材販売・カリキュラム提供・教員研修
  • 対話:保護者コーチング・不登校支援・進路カウンセリング

どの領域から始めるかで、必要な準備も顧客像も変わります。在職中は最も自分の手持ち時間と相性がよい領域に絞るのが現実的です。

ポイント 在職中に進めておく起業準備のステップ

兼業規制を前提に、退職前にやれる準備を逆算する

オンライン講師

公立学校の教員は地方公務員法第38条により営利企業への従事が制限されています。一方で教育公務員特例法第17条は、教育関連の兼業について教育委員会の許可があれば可能と定めています。

つまり「収入を伴う活動を始めるかどうか」と「準備を始めるかどうか」は別の話だということです。準備段階であれば、在職中でも踏み込める範囲があります。

ステップ1:自分の指導の棚卸しをする

授業ノート、テスト、配布プリント、年間計画。これまで作ってきた成果物を一箇所に集めて、外に出せるものとそうでないものを分けます。学校の所有物と、自分が独自に作ったものとの線引きをここで明確にしておくのが大事です。

ステップ2:許可なく動ける活動から検証する

無償の教材公開、ブログでの教育論発信、SNSでの情報提供。収益が発生しない活動であれば届出不要のケースが多く、自分の発信が誰に届くかをここで掴んでおくと、退職後の事業設計が一気に楽になります。

ステップ3:兼業申請が下りる領域を見極める

教育委員会の規程はそれぞれ異なります。教員研修の講師、大学の非常勤講師、教育系の執筆。これらは申請が通りやすい領域として知られます。一方で塾運営や物販は不許可の例が多く、退職後に回す判断が必要です。

ステップ4:退職時期と収入の逆算をする

文部科学省の学校教員統計調査によれば、令和4年度の公立学校の普通退職者数は9,929人で、平成25年度から約1.8倍に増加しています。早期退職が珍しい選択ではなくなったことが、数字からも読み取れます。

ただし、退職後すぐに事業収入だけで生活を回すのは現実的ではありません。退職金、貯蓄、年金支給開始までの期間を計算したうえで、最低でも一年間は生活が続けられる資金を準備しておく必要があります。

  • 所有物の線引き:学校資産と自作教材を分ける
  • 無償発信での反応取り:ブログ・SNSで読み手を確認
  • 兼業申請の対象判定:研修講師・執筆は通りやすい
  • 資金計画:最低1年分の生活費確保

在職中の準備でどこまで進められるかが、退職後のスタートダッシュをそのまま決めます。慌てて辞めるのは最も避けたい選択です。

ポイント 教師経験を活かす具体的な起業アイデア

担当教科・年代・対応領域から逆算して事業を選ぶ

法人化

「教師経験を活かす」と一言で言っても、何を専門にしてきたかで取れる選択肢は変わります。担当教科、担当学年、得意な指導領域。この三軸で自分の事業候補を絞り込みます。

教科特化型:単価が読みやすい王道ルート

英語、数学、国語、理科。教科に強みがある場合、オンライン家庭教師、受験対策コース、教科別教材販売が中心になります。月額制のコース運営にすれば、生徒一人あたりの単価は3,000円から1万円程度で安定収入を作りやすい形です。

ただし、教科特化型は競合が多い領域でもあります。「○○教科の元教師」だけでは差別化にならないため、学習障害への対応、海外大学受験、難関中学受験など、テーマをさらに絞ることが必要になります。

学年特化型:保護者の悩みに刺さりやすい

低学年の学習習慣づけ、中学受験、思春期の子の進路相談、高校生の探究学習サポート。学年が違えば保護者の悩みは全く別物になるので、自分が長く関わってきた学年に絞るほど指名買いされやすくなります

領域特化型:教科の枠を超えた専門性で勝負する

不登校支援、特別支援、探究学習、キャリア教育、生徒指導。教科横断で必要とされる領域は、教師経験者でないと提供しにくい価値があります。

特に不登校の対応経験は、現場で培われた知識と、保護者への伝え方の両方が求められます。文部科学省の調査では小中学校の不登校児童生徒数は毎年過去最多を更新しており、市場としての需要は明確です。

教員向けの事業:同業者の課題を解決する

教員研修、授業改善コンサル、教育系の執筆や講演。教師の働き方改革が進む中で、外部の経験者から学びたいという需要は確実にあります。教員向け事業は法人取引が中心になるため、単価は1件5万円から30万円と個人向けより高い水準で動きます。

  • 教科特化:オンライン指導・受験対策・教材販売
  • 学年特化:低学年習慣づけ・中学受験・進路相談
  • 領域特化:不登校支援・特別支援・探究学習
  • 同業者向け:研修講師・授業コンサル・執筆

どのアイデアも、自分が現場で何をしてきたかと地続きで選ぶのが鉄則です。経歴と乖離した事業ほど、軌道に乗せるまでの時間が長くなります。

ポイント 教師ならではの失敗パターン

教育現場の常識が、起業の世界では通用しない場面

会社員

教師として成果を出してきた人ほど、起業初期に独特のつまずき方をします。これは能力の問題ではなく、教育現場の文化と事業運営の文化が違うことから生まれるズレです。

価格を安く設定しすぎる

公教育の感覚が抜けないまま、自分のサービスに値段を付けると相場の半額以下になることがよくあります。「教育で稼ぐのは申し訳ない」という心理が働くと、生活が回らない価格設定で消耗してしまいます。

教師の指導は無料で当たり前と感じる人もいるかもしれませんが、塾講師の時給相場は2,000円から5,000円、個別指導の月謝は中学生で2万円台が相場です。自分の値段を相場から逆算するクセを付ける必要があります。

兼業申請をせずに収入を得てしまう

知人から頼まれてつい受けた、SNSのフォロワーから収益化を勧められた。こうした流れで在職中に無申請の収入を得ると、懲戒の対象になります。「ばれなければ大丈夫」は通用しません。

一斉指導の型から抜け出せない

教室では「全員に向かって話す」のが基本ですが、起業後の顧客は一人ひとり別の悩みを持っています。同じ説明を一斉に流す型のままだと、オンライン指導でも教材でも「先生っぽいけど、自分には刺さらない」という反応が返ってきます。

個別最適化を意識しないと、せっかくの指導力が市場では伝わりません。

集客の仕組みを後回しにする

教室では生徒が勝手に来ますが、起業後は自分で集めなければなりません。「いい教材を作れば売れる」「いい授業をすれば広まる」という発想だけでは、半年経っても顧客ゼロのままという例は珍しくありません。

ブログ、SNS、紹介、広告。集客の動線を商品開発と並行で進めるのが鉄則です。

校内の人間関係を引きずる

教員時代の上下関係、職員室の慣習、PTAとの距離感。これらを起業後の顧客対応に持ち込むと、フラットな関係が必要な場面で違和感を生みます。

教え子の保護者を最初の顧客にする場合は特に、料金面・契約面で曖昧さが残りやすいので注意が必要です。

ポイント 教師から起業へ進むときの心構え

職を辞めずに準備し、自分の指導の値段を決めていく

会社員

教師の仕事は、子どもの人生に責任を持つ重さがあるからこそ、抜け出すこと自体に強い心理的なブレーキがかかります。「子どもを置いていくのか」という気持ちを抱えたまま準備を進める人もいます。

ただ、辞めるかどうかの議論より先に、自分の指導が学校の外でいくらの価値になるのかを把握する作業を、在職中から始めておくほうが選択肢は広がります

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講師として起業すると言うと、いきなり大きなホールで講演する姿を想像する方が多いのですが、実際の入り口はずっと小

教師経験は単独の職歴の中でも、最も「人を変える」現場での蓄積が濃い部類に入ります。その経験に値段を付ける作業は、教壇を降りる決断より先に始められます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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