記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
40代の配送ドライバーです。社会に出てからずっとトラックや配送の運転だけで、ほかに資格も特技もありません。いつか自分で何か始めたい気持ちはあるのですが、運転以外に何もしてこなかった自分に、起業で活かせる道はありますか?
運転だけでは商売にならない気がして、一歩が踏み出せずにいます。

● 回答
「私には特技なんてない、とずっと思っていました」。準備講座に来ていた、ある配送ドライバーの方が、最初にそう前置きしました。けれど話を聞き終える頃には、ご本人も私も、活かせる道がはっきり見えていました。運転の仕事しかしてこなかった人にこそ、地域に根ざした起業の入口があります。
運転は「ただ荷物を運ぶ作業」ではありません。毎日決まったエリアを回り、道を知り、時間どおりに届け、相手の顔を覚える。その積み重ねは、起業の土台としてとても強いものです。どこを勘違いしやすいか、順番に見ていきましょう。
「運転しかない」と感じてしまう失敗の入口
このご相談で多いのは、自分の経験を「運転技術」という一語に丸めてしまう受け取り方です。運転技術そのものを売ろうとすると、たしかに行き止まりに見えます。プロのドライバーは世の中にたくさんいて、技術だけでは差がつきにくいからです。
けれど、つまずきの本当の原因はそこではありません。運転に付いてきた「周辺の力」を、自分で価値として数えていないことが、一歩を止めています。地理に強い、段取りがうまい、約束の時間を守る、重い荷物を扱える、人の家の事情に踏み込みすぎない距離感がある。これらは運転の副産物ではなく、それ自体が立派な商品の部品です。
運ぶ相手を「荷物」から「人の暮らし」に置き換えてみる
では、その周辺の力をどこに向ければよいのでしょうか。ひとつの考え方が、運ぶ対象を荷物から人の暮らしへ置き換えてみることです。
いま、地域の移動と買い物には大きな空白が生まれています。農林水産政策研究所が2024年2月に公表した食料品アクセスマップによると、店舗まで500メートル以上あり自動車の利用も難しい65歳以上の高齢者は、約904万人と推計されています。高齢者のおよそ4人に1人にあたります。
そのぶん、近所まで来てくれて、重いものを運び、ちょっとした用を頼める人への需要は、静かに膨らんでいます。買い物の代行、荷物の運び出し、通院への付き添い同行、家具の移動。どれも「運ぶ・動く」というあなたの本業の延長線上にあり、しかも地域に根ざしているぶん大手が入りにくい領域です。
運転経験が地域サービスに変わる切り口
- 暮らしの同行支援:
通院や役所の窓口に付き添い、乗降の補助や待ち時間のサポートを担う - 暮らしの代行:
買い物代行や大型ごみの運び出しなど、運ぶ力を家事の周りで使う - 地理と段取り:
地元の道と所要時間を知る強みを、定期巡回の組み立てに活かす
【法律上の注意点】自家用車(白ナンバー)を使い、人を乗せて料金を受け取る「送迎サービス」は、道路運送法第78条により原則として禁止されています(いわゆる白タク行為)。高齢者を有償で送迎する事業を行いたい場合は、国土交通省の許可(一般乗用旅客自動車運送事業・福祉輸送限定)と第二種運転免許の取得が別途必要です。まず始めやすい入口としては、人を乗せない「買い物代行」や「付き添い同行」から検討するのが現実的です。
大切なのは、いきなり大きな事業を描かないことです。まずは半径数キロの困りごとを一つ引き受けてみる。運転の経験は、その小さな一歩を確実にこなす力として、最初から十分に通用します。
「会う前の信頼」を先に積んでおく
地域サービスで一つだけ、運転の現場とは違う準備が要ります。それが、お客様と会う前の信頼づくりです。
拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』では、お客様が初めてあなたを知ったときに生まれる印象を「第ゼロ印象」と呼んで紹介しています。第一印象のさらに前、会う前の段階で生まれる印象のことです。高齢の方やそのご家族は、家の中に入る相手を慎重に選びます。だからこそ、どんな人柄で、何を頼めて、どこまでやってくれるのかが、会う前に伝わっていることが効いてきます。
名前と顔写真、頼める内容、料金の目安を一枚の紙にまとめ、近所の掲示板や自治会に置けるかを一つ確認してみてください。立派なチラシは要りません。安心して呼べる人だと、会う前に分かることが何より大切です。
起業18会員の麻生さんの歩み
起業18フォーラム会員の麻生さん(仮名・40代・配送ドライバー)も、まったく同じ入口で迷っていました。運転以外に何もないと感じ、準備を始めた最初の1か月は、求人サイトで配送の仕事を比べては「結局これしかない」とため息をつく日々だったそうです。
流れが変わったのは、物価高で家計を見直していたとき、近所の高齢のご夫婦が重い米袋を二人がかりで運んでいる姿を見かけた瞬間でした。「これ、自分なら五分で済む」。そう思った日に、運ぶ相手は荷物でなくてもいいのだと、初めてはっきり言葉になったといいます。給与だけに頼る危うさへの不安が、行動の理由に変わった日でした。
3か月目、麻生さんはまず知り合いの一人から、週に一度の買い物代行を試しに引き受けました。リストを預かって商品を購入し、自宅まで届ける形です。半年が過ぎる頃には、その方の紹介で近所の数軒へと広がっていきます。気づけば、延べ30人ほどの買い物代行や荷物の運び出しを重ねていました。
1年たった今、いちばん変わったのは、呼ばれ方でした。以前は配送先で「業者さん」と呼ばれていたのが、今では地域の人から「麻生さん、来週もお願いね」と名前で呼ばれます。運ぶ人から、地域の頼れる存在へ。役割を言い換えただけで、声のかけられ方そのものが変わったのだと、麻生さんは振り返ります。
今日できることは、求人を眺めることではありません。通勤や配達の道すがら、車を持たない高齢世帯がどんな場面で困っていそうか、半日だけ「目で追う・耳をすます」つもりで見てみてください。困りごとの正体が見えてくると、運転の経験が向かう先が、はっきりしてきます。

運転を続ける道も、地域の足になる道も、どちらも立派な選択です。あなたの暮らす土地と、これまで覚えてきた人の顔に合うほうから、選んでください。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
