記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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ハウスクリーニングで起業する始め方を調べていくと、「資格はいらない」「少ない元手で始められる」という説明にたくさん出会います。たしかにその通りです。ただ、始めやすさだけを頼りに動き出すと、気づけば下請けの安い単価で体を削り続ける入口に立ってしまうことがあります。今日は、そこへ落ちないための順番を、現場で見てきた事実から整理していきます。
私はこれまで延べ6万人を超える会社員の起業準備に向き合ってきましたが、清掃の仕事で独立を考える方の相談には、ある共通点があります。「技術を身につければ食べていける」と思って入ってくる方ほど、最初に価格で苦しむという順番のねじれが起きています。
始め方の話は、道具をそろえる順番ではなく、誰のどんな困りごとを引き受けるかを決める順番から始めます。
ハウスクリーニングで起業する始め方、下請け単価から抜ける順番

始め方を一文で言えば、「技術と道具をそろえてから仕事を探す人」と、「引き受ける相手の困りごとを先に決めてから道具をそろえる人」の分かれ道です。前者は単価を相手に決められ、後者は自分で値段を出せる側に立ちます。
ハウスクリーニングは、開業の入口が広い仕事です。公益社団法人全国ハウスクリーニング協会によれば、ハウスクリーニング技能士は2012年度から同協会が実施している技能検定(国家検定)で、職業能力開発促進法にもとづいて同協会が指定試験機関として実施しています。裏を返せば、この検定が一般的な住宅清掃サービスを始めるための必須条件というわけではありません。
誰でも入れる入口だからこそ、何もしなければ同じ入口に立つ人が大勢いて、価格だけで比べられる場所に流れ着きます。始めやすさは、そのまま単価の下がりやすさにつながっています。だから始め方の最初の一歩は、道具の購入ではなく、自分が引き受ける相手を絞ることになります。
「資格と道具をそろえれば食べていける」という思い込みを外す

まず、よくある始め方の説明を一度ほどいておきます。検索すると、必要な道具一式と高圧洗浄機をそろえ、技能を磨き、ポータルサイトやマッチングサービスに登録して仕事を待つ、という流れがよく出てきます。間違いではありません。けれど、この流れには値段を誰が決めるかという視点が抜けています。
ハウスクリーニングの市場そのものは、伸びています。矢野経済研究所の調査では、ハウスクリーニングを含む生活支援サービスの主要5分野(家事代行・ハウスクリーニング・ホームセキュリティ・見守り・家具家電レンタル)の市場規模は、2024年度に前年度比9.3%増の6,158億円になると予測されています(矢野経済研究所「住まいと生活支援サービスに関する調査」2024年)。
需要が増えているのに価格で苦しむのは、矛盾しているように見えます。理由は単純で、入口が広い仕事には、同じように「資格なしで始められる」と聞いて入ってきた人が次々に並ぶからです。需要の伸びを取りにいく人の数のほうが、もっと速く増えている場所に身を置くと、単価は上がりません。
ここで大事なのは、技術が要らないという話ではない点です。技術は当然要ります。ただ、技術は「同じ土俵に立つための入場券」であって、それだけでは値段の決定権を握れません。決定権は、誰のどんな困りごとを名指しで解けるかという一点から生まれます。
道具をそろえる前に決める一つのこと
独立を考える方からよく聞かれるのが、「最初に何をそろえればいいですか」という質問です。気持ちはわかります。形から入ると安心するからです。けれど、道具は引き受ける仕事が決まってから選ぶほうが、無駄が出ません。
たとえばエアコン内部の分解洗浄を主役にするのか、退去後の空室まるごとを引き受けるのか、高齢のご家庭の水回りを定期で見るのか。引き受ける相手と現場が違えば、必要な道具も、声をかける先も、つけられる値段も変わります。先に決めるのは、買い物リストではなく、引き受ける相手です。
下請け常用という、見えにくい入口
もう一つ、始め方で見落としやすいのが下請けという入口です。大手や元請けの仕事を回してもらう形は、最初の経験を積むうえでは確かに助けになります。仕事を探す手間がなく、すぐに現場に立てるからです。
ただ、回してもらう側は、一件あたりの取り分を相手に決められます。現場を重ねても、自分で値段を出す力は育ちにくい構造です。経験を積むための下請けと、ずっと下請けのままでいることは、分けて考える必要があります。始めの数件で現場感をつかんだら、自分の名前で相手を見つける動きを、早めに並走させておくことが効いてきます。
始め方の手順、相手を絞ってから直請けへ動く五つの段

では、具体的にどの順番で動くか。清掃で独立を考える方に向けて、現場で効いてきた流れを五つの段に分けて整理します。順番そのものに意味があるので、飛ばさずに見てください。
| 段 | やること | この段の狙い |
|---|---|---|
| 1 | 引き受ける相手と現場を一つに絞る | 価格決定権の土台を作る |
| 2 | 知り合い一軒に有料で一件だけ引き受ける | お金をもらって成立するか試す |
| 3 | 作業範囲と時間を記録し、原価を出す | 値付けの根拠を持つ |
| 4 | 開業届を出し、直請けの窓口を一つ持つ | 自分の名前で受ける形を整える |
| 5 | 紹介と定期で直請けの比率を上げる | 下請け依存から抜ける |
全体の流れを一言で言えば、第1段で引き受ける相手を一つに絞り、第2段でその相手に有料で一件試し、第3段で値付けの根拠を持ちます。そのうえで第4段で開業届を出して直請けの窓口を一つ整え、第5段で紹介と定期によって直請けの比率を上げていきます。第1段の絞り込みが弱いと、後の段がすべてぶれてしまうので、最初の絞り込みは丁寧にやってください。
この五段のうち、もう一つ力を入れてほしいのが第2段です。いきなり広告を出したり、たくさんの現場を取りにいったりする前に、知り合い一軒に有料で一件だけ引き受けてみる。無料の手伝いではなく、お金をもらって成立するかどうかを確かめる。これが、どんな調査よりも確かな最初のテストになります。
お金が動くと、相手の本音が見えます。何にいくらまで払うのか、どこを雑にすると不満が出て、どこを丁寧にすると喜ばれるのか。一件の有料の現場には、十件分の市場調査に勝る手応えが詰まっています。
開業の費用は、思うより小さく始められる
費用の不安についても触れておきます。日本政策金融公庫総合研究所「2024年度新規開業実態調査」によると、開業費用は平均985万円、中央値は580万円でした。一方で、開業費用が「250万円未満」だった人は20.1%、「250万~500万円未満」が21.0%を占め、合わせて4割超が500万円未満で開業しています。
ハウスクリーニングは、この少額側に寄せやすい仕事です。最初から大きな機材をそろえず、引き受けると決めた現場に必要な道具から段階的にそろえれば、初期の負担は抑えられます。少なく始められること自体は強みですが、その強みを安売りの言い訳にしないことが、始め方の分かれ目になります。
値付けは、強気の側から下ろしてくる
第3段の値付けについて、もう少し踏み込みます。原価と時間を記録したら、そこに自分の手間賃を乗せて値段を出すわけですが、ここで多くの人が遠慮します。相手に申し訳ない気がして、つい安く出してしまうのです。
拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、値付けは超強気で考え、当初の理想として3千円で売っていたものを1万円で出すくらいの発想を紹介しています。同じ作業でも、誰のどんな困りごとを解いているかが明確であれば、その値段で選んでくれるお客様は必ずいます。安さで選ばれる関係から、内容で選ばれる関係へ。値付けは、その入口です。
直請けの単価を上げやすくする三つの絞り方
- 相手を絞る:
共働き世帯、高齢のご家庭、退去前の入居者など、困りごとが似た相手に的を絞る - 現場を絞る:
水回りだけ、エアコンだけ、キッチンの油汚れだけと、自分が深く解ける一点に絞る - 関係を絞る:
単発で広く取るより、定期で続く相手を少数に絞って深く付き合う
速水さんが下請け単価から抜けた一年

起業18フォーラムの会員さんで、設備メンテナンス会社で働いていた速水さん(仮名・40代)という方がいました。現場の段取りには慣れていて、清掃の腕も悪くありません。会社の外で食べていける技術は、十分に持っていました。
独立した当初、速水さんは大手の清掃案件を下請けで回してもらうところから始めました。仕事を探す手間がなく、現場には困りません。それでも数ヶ月が過ぎた頃、一件あたりの取り分の薄さに気づきます。朝から晩まで現場を詰め込んでも、手元に残る額がなかなか増えていきませんでした。
転機は、安く請け負った退去清掃の現場でした。範囲をはっきり決めないまま「一式で」と引き受けたところ、想定の倍の手間がかかり、移動費まで含めると赤字になったのです。価格と作業範囲を自分で決めていなかったことが、赤字の正体でした。速水さんは、この一件で「安く受けること」と「言い値で受けること」は違うのだと、はっきり腹落ちしました。
起業18フォーラムで値付けの順番を学ぶ
赤字の現場を持ち帰った速水さんは、起業18フォーラムの勉強会で自分の見積もりを実例として持ち込み、参加者から値付けの甘さを率直に指摘されました。そこで促されたのは、相手を絞り、作業範囲を先に決め、そこに自分の手間賃を強気に乗せてから値段を出すという順番です。
それまでの速水さんは、相手の予算に自分を合わせていました。学んだあとは逆になりました。まず「共働きで時間のない子育て世帯の、水回りの定期清掃」と引き受ける相手を一つに絞り、作業範囲を紙に書き出し、原価と時間から値段を組み立てたのです。最初の一軒は、知り合いの紹介で有料の一件を引き受けるところから始めました。
同じ作業が、違う値段で選ばれるように
絞り込んでから、速水さんの仕事は静かに変わっていきました。下請けで回されていた頃と作業内容そのものは大きく変わりません。けれど、絞り込んで動き出して半年を過ぎたあたりから「子育て世帯の水回りなら速水さん」と名指しで相談が来るようになり、同じ一回の清掃でも、以前の下請け単価とは比べものにならない値段で受けられるようになりました。
速水さんは「下請けで言われた値段で受けていた頃と同じ作業が、絞り込んで直接お願いされるようになってから、単価で見ると倍以上で選ばれるようになりました」と話していました。
口コミで名前が広がり、定期で続く相手が増え、独立から12ヶ月目に入る頃には、下請けの仕事を少しずつ手放せるところまで来ていました。同じ時間働いても手元に残る額は、下請け中心だった頃を無理なく上回るようになっています。
速水さんが変えたのは、技術ではありません。誰のどの困りごとを解くかを先に決め、その値段を自分で出す側に回ったこと。それだけです。入口の広い仕事だからこそ、絞り込んだ人だけが価格決定権を手にできる。それが、この一年の中身でした。
よくある質問

Q.ハウスクリーニングの開業に資格は必要ですか?
一般的な住宅清掃サービスを始めるうえで、全国ハウスクリーニング協会が実施するハウスクリーニング技能士が必須資格とされているわけではありません。ハウスクリーニング技能士は国家検定ですが、資格は技術の裏づけとお客様への安心材料として効いてくるもので、開業の必須条件とは分けて考えてください。
まず開業届を税務署に出せば、個人事業として始められます。資格の取得を急ぐより先に、誰のどの困りごとを引き受けるかを決めるほうが、最初の一歩としては実りがあります。
Q.未経験でも始められますか?
始められます。ただ、未経験から入る場合ほど、いきなり広く仕事を取りにいかないほうが安全です。家にある水回り一か所を、自分の手で時間をかけて仕上げてみる。そのうえで知り合い一軒に有料で一件だけ引き受け、お金をもらって成立するかを確かめる。この順番なら、未経験でも現場感と値付けの感覚を、痛手なく身につけられます。
Q.下請けから始めるのは間違いですか?
間違いではありません。最初の数件で現場の段取りや仕上げの基準をつかむうえで、下請けは助けになります。問題は、下請けだけに留まり続けることです。回してもらう仕事は取り分を相手に決められるため、現場を重ねても自分で値段を出す力が育ちにくくなります。
経験を積む期間と割り切り、並行して自分の名前で受ける窓口を一つ持っておく。下請けを入口として使いつつ、直請けの比率を少しずつ上げていく動き方が、価格で苦しまないための現実的な道になります。
開業の情報を集めるほど、道具や資格の話に気を取られがちです。けれど、入口の広いこの仕事で長く続けられるかどうかは、誰のどの困りごとを名指しで引き受けられるか、その一点で決まります。
今日できることは、引き受けたい相手を一つに決め、その現場の作業範囲を紙に書き出して有料で一件試す段取りを始めることだけで十分です。道具をすべてそろえてからでなくて構いません。一件の現場が、次の値付けを教えてくれます。

ハウスクリーニングは、始めやすさが魅力であり、落とし穴でもあります。入口が広いからこそ、引き受ける相手を絞った人だけが、価格を叩かれる側から、内容で選ばれる側へと回っていけます。
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