記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「自分には、お金を払ってもらえるような特別な経験なんてない」。起業準備の入口で足が止まる方の多くが、ここでつまずきます。けれど、その感覚そのものが、実は一番の思い込みです。
大きな決断も、まとまった時間も、今日はいりません。朝の30分と夜の30分、合わせて1日1時間あれば、準備は静かに動き始めます。今いる場所から、何を、どの順番で進めればいいのか。順を追って整理していきます。
「特別な経験がない」という感覚は、どこから来るのか

「特別な経験がない」と感じている人ほど、これまで積み上げてきた経験という資産を、自分では見落としているものです。毎日こなしている仕事は、本人にとって「当たり前」になりすぎていて、価値として目に映らなくなっています。
日本政策金融公庫の2024年度新規開業実態調査では、開業した人が起業のきっかけに挙げた理由のうち、「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」が46.0%にのぼりました。多くの人は、ゼロから何か新しいものを身につけたのではなく、すでに持っていたものを土台に動き出しています。あなたが「平凡」と感じている日々の業務こそ、その土台の正体です。
私のこれまでの起業支援の経験でも、最初に必要なのは新しいスキルの習得ではなく、手持ちの経験を「人に渡せる形」に並べ替える作業でした。ここを誤解したまま勉強や資格に走ると、いつまでも始められません。
朝晩30分で進めるための、順番という考え方

拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、1日1時間でも準備が進む理由を紹介しています。むしろ、まとまった時間がないからこそ、毎日少しずつ続く形に落とし込まざるを得ない。これが結果的に習慣化を助けます。
大切なのは、その1時間で「何を」「どの順番で」やるかです。順番を間違えると、限られた時間がムダに溶けていきます。
まず取りかかる、3つの段階
準備の全体像は、大きく3つの段階に分けて考えると迷いません。以下の順で進めていきます。
- 第1段階:棚卸し
今の仕事で人に頼られた場面、説明したら感謝された場面を思い出す - 第2段階:絞り込み
思い出した中から「困っている人が想像できる」ものを1つ選ぶ - 第3段階:仮決め
予算・期間・出口の3つを、今わかる範囲でざっくり決める
このうち、第3段階の「予算・期間・出口を仮決めする」は、つい飛ばされがちです。けれど、撤退ラインを先に置いておくと、不安に押し戻されずに続けられます。仮決めなので、毎年見直してかまいません。
経験を「人に渡せる商品」にした人の歩み

起業18フォーラムの会員さんで、法人向けの購買・調達を長く担当してきた仁科さん(仮名・47歳・既婚・子は中学生)がいました。本人は「営業と社内調整をしてきただけで、売り物になる専門性はない」と話していました。
転機は、勤めながらの雑談でした。取引先の中小企業の方から「うちの仕入れの見直し、個人的に相談に乗ってもらえませんか」と打診されたのです。仁科さんにとっては息をするようにやってきた仕事が、社外の人には喉から手が出るほど欲しい知見でした。ここで初めて、自分の経験の輪郭がぼんやり見えてきました。
とはいえ、打診されただけでは商品になりません。「何を、いくらで、誰に届けるのか」を一人で決めきれず、仁科さんはしばらく動けずにいました。そこで起業18フォーラムの勉強会に持ち込み、会員さん同士のやり取りの中で「中小企業の購買担当が孤独に抱える悩み」へ照準を絞り込んでいきました。
商品の輪郭が定まってからは、進み方が変わりました。最初は知人の紹介で月1件の相談から始め、準備を始めて10ヶ月目には月数件まで増えていきました。勤めを続けたまま無理のない範囲で広がっています。金額の大きさより、「名指しで頼まれる」関係が積み上がったことが、本人の手応えになっていました。
よくある質問

資格を取ってからのほうが安全ではないですか
気持ちはよくわかります。ただ、資格の取得を先に置くと、勉強が目的化して肝心の準備が止まりがちです。今ある経験で一度試し、足りないと感じた部分だけ後から学ぶ。この順番のほうが、遠回りに見えて近道になります。
朝晩30分では、いつまでも形にならない気がします
1日1時間でも、毎日続けば1カ月でおよそ30時間です。半年で180時間になります。問題は時間の総量よりも、迷っている時間が長いことのほうです。順番を決めておけば、短い時間でも前に進みます。
勤め先に知られないか不安です
準備の段階で一番知られやすいのは、税金よりも「自分で話してしまうこと」です。手応えが出ると人に言いたくなりますが、軌道に乗るまでは静かに進めるのが安全です。
回数を競う必要はありません。今いる仕事の中で、人から「ありがとう」と言われた瞬間を、1週間だけ気に留めて数えてみてください。その一つひとつが、あなたの経験を商品に変える種になります。
準備の進め方をもう少し具体的に知りたい方は、こちらも参考になります。

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