記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「何か始めたいけれど、やりたいことが特にない」。起業準備の相談で、いちばん多く聞く言葉のひとつです。やりたいことが先にあって動き出す人ばかりではありません。むしろ「これといってない」ところから準備を始める会社員のほうが、私の現場では多数派です。やりたいことを探すところで止まってしまうのは、出発点の置き方がずれているからです。
今日は、好きを探す前にやるべき一歩をお伝えします。
「やりたいこと」は起業の出発点ではない

やりたいことを探すほど動けなくなる
やりたいことがないと感じている人ほど、まず「自分の本当に好きなこと」を見つけようとします。ところが、好きなことは机の上でいくら考えても出てきません。考えるほど候補は抽象的になり、どれもピンとこないまま時間だけが過ぎていきます。
私のこれまでの起業支援の経験では、好き探しから入った人の多くが、最初の数カ月をこの足踏みで使ってしまいます。起業準備は「やりたいこと探し」ではなく「すでに自分の中にあるものの棚卸し」から始めたほうが、はるかに早く前に進みます。好きが先に決まっている人のほうが、現場ではむしろ少数派です。
開業動機のデータが示すもの
動機の中身を、公的なデータで見てみましょう。日本政策金融公庫の2024年度新規開業実態調査によると、開業動機でもっとも多かったのは「自由に仕事がしたかった」で56.9%でした。注目したいのは2番目です。「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」が46.0%で続いています。
つまり、実際に起業した人の出発点は「やりたいこと」という熱量ではなく、「自由になりたい」という気持ちと「これまでの経験を生かす」という現実的な発想だったわけです。やりたいことがなくても、起業準備は始められます。
好き探しの前に「仕事の棚卸し」から始める

毎日やってきたことを言葉にする
やりたいことが見つからない人に、私が最初におすすめするのは、好きなことではなく「これまでやってきた仕事」を書き出す作業です。今の会社で日常的にこなしている業務、過去に任された役割、頼まれて何度も対応してきたこと。自分にとって当たり前すぎて意識すらしていない作業ほど、外から見ると価値のある経験です。
書き出すときのコツは、抽象的な肩書きではなく具体的な動作で書くことです。「経理を担当」ではなく「請求書の不備を見つけて差し戻す」「月末の締めを期日どおりに終わらせる」というレベルまで分解します。具体的な動作まで分解すると、外の人が対価を払う対象が見えてきます。
アイデアは3つの層から出す
書き出した経験を、起業のアイデアにつなげていきます。拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』では、アイデアを30本ほど出して整理する考え方を紹介しています。その際に役立つのが、出どころを3つの層に分ける見方です。
- 業界層:
本業の業界知識や職務経験から出てくるネタ。やりたいことがない人がいちばん書きやすい層 - 日常層:
家事や育児、地域活動など、生活の中で繰り返している経験から出てくるネタ - 趣味層:
休日に没頭していること、続いている習慣から出てくるネタ
やりたいことがないと感じる人ほど、まず業界層だけに集中して書き出してみてください。好きかどうかは脇に置いて、できること・知っていることから埋めていくと、案外手が止まりません。
棚卸しから準備を始めた会員さんの例

「やりたいことがない」が口ぐせだった桐谷さん
起業18フォーラム会員の桐谷さん(50代後半・中堅SIerでプロジェクト管理を担当)も、「特にやりたいことがない」と言い続けていた一人でした。何か始めたい気持ちはあるのに、起業の本を読んだり成功談の動画を見たりするだけで、半年以上も何も動き出せずにいたのです。
転機になったのは、以前の職場の先輩から届いた一通のメールでした。「好きなことではなく、頼まれてきた仕事を書き出してみたらどうか」とすすめられたのです。最初は自己流で「やりたいこと」を探していたため、何も浮かばず止まっていました。業界層に絞って、これまで社内で頼まれてきた工程改善の相談を50個書き出すところから始めてみてください。
桐谷さんは書き出すうちに、システム開発の進め方を整える相談を後輩から何度も受けていたことに気づきました。そこから小さな工程改善のアドバイスを試し、会社に勤めながら少しずつ依頼を受けるようになり、始めて8か月ほどで初めての受注に届き、現在は月7万円ほどの収入につながっています。やりたいことがあったのではなく、できることを棚卸しした結果、やりたいことのほうが後から見えてきた形です。
やりたいこと幻想を外して、今日から動く

やりたいことが見つかってから動く、という順番にこだわると、準備はいつまでも始まりません。今夜できるのは、これまで頼まれてきた仕事を10個だけ紙に書き出すことです。好きかどうかの判断はあとまわしでかまいません。
やりたいことは、探して見つけるものというより、手を動かしているうちに輪郭が出てくるものです。完璧な答えを待たず、まず書き出すところから始めてみましょう。

やりたいことがないことは、起業準備の遅れではありません。むしろ、思い込みなく自分の経験を見直せる出発点です。
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