記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
通信会社のコールセンターで10年近くオペレーターをしている30代後半の女性です。周りからは「誰でもできる仕事でしょ」と言われ続けてきて、自分でもだんだんそんな気がしてきました。
毎日電話を受けるだけの私に、起業につながる売り物なんてあるのでしょうか?

● 回答
あります。それも、これから探しに行く必要がないほど身近な場所に、10年分すでに積み上がっています。
意外に思われるかもしれませんが、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、コールセンターオペレーターの就業者数は292,540人です(令和2年国勢調査)。全国に約29万人もいるのに、自分の応対の中身を「商品」として言葉にした人は、ほんのひと握りしかいません。
「誰でもできる」と言われる仕事ほど、中身の差が外から見えにくいだけです。コールセンターの経験は、ゴールから逆算して中身を言語化した瞬間に売り物に変わります。逆算の順番で、一緒に見ていきましょう。
ゴール像から逆算する:誰の「電話の困りごと」を解決する人になるか
最初に置くのは、努力目標ではなくゴール像です。たとえば「電話がうまく使えずに損をしている人や会社を、応対の専門家として助けている自分」。ここから逆算すると、必要なのは資格でも話し方の才能でもなく、「誰の、どんな電話の困りごとを解決するか」を1つ決めることだと分かります。
相談の現場で見ていると、応対の現場出身の方は、自分の技術を「慣れ」と呼んで安く見積もる傾向がとくに強いと感じています。中身をほどくと、少なくとも次の3つの売り物が入っています。
- 言語化力:
相手の曖昧な訴えを要点に直して返す力。ヒアリング・講座づくり・マニュアル整備の土台 - クレーム対応:
怒りの初動を受け止めて着地させる技術。小さな会社がいちばん外注したい領域のひとつ - 傾聴:
声だけで相手の状態をつかむ力。相談業・カウンセリング系サービスの中核スキル
この3つは、電話を一日中受け続けた人にしか宿らない技術です。「毎日電話を受けるだけ」と感じてきた時間は、そのまま訓練時間だったと考えてください。
「数字を毎日見る習慣」は、応対の現場ですでに身についている
もうひとつ、見落とされがちな強みがあります。拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』では、成果を出す人ほど毎朝決まった数字を確認して小さく直し続ける「数字を毎日見る習慣」を紹介しています。
コールセンターのオペレーターは、応対件数、平均処理時間、応対品質の評価を毎日見ながら働いています。数字で自分の仕事を点検して翌日に直す習慣は、事業を続けるうえでの基礎体力そのものです。多くの人が起業してから苦労して身につけるものを、あなたは業務として10年続けてきたことになります。
3,000円の講座が、同じ内容のまま1万円になった例
起業18フォーラム会員の篠塚さん(仮名・30代後半)も、通信系のカスタマーサポートで働きながら準備を始めた一人でした。きっかけは検索です。お客さまから受けた質問を試しに検索したところ、「電話 クレーム 言い方」のような関連質問が画面にずらりと並び、自分が毎日口頭で答えてきた内容に大きな需要があると気づきました。
手探りのまま、「電話が苦手な人向けの個人レッスン」を3,000円で売り出しました。ところが数ヶ月たっても申し込みは数えるほどで、値下げを考え始めたころに起業18フォーラムへ参加しました。
勉強会で見直したのは値段ではなく、売る相手です。電話が苦手な個人ではなく、新人の電話応対に困っている小さな会社へ向けて、同じ中身を「新人向け電話応対研修」として組み直しました。すると3,000円で売れなかった内容が、1万円の研修としてすんなり受注できました。現在は月2〜3件のペースで8ヶ月続いており、会社の勤めはそのまま、リピートの依頼も入り始めています。
篠塚さんの中身は何ひとつ変わっていません。変わったのは、誰の困りごとに値段を付けるかという設計だけです。あなたも商品づくりの前に、「自分の応対を一番高く買うのは個人か、会社か」をまず決めてください。逆算の二歩目はそこからです。
よくある質問
電話応対の経験を商品にするとき、よく聞かれる疑問をまとめました。
Q.正社員ではなく派遣のオペレーターでした。それでも経歴として通用しますか?
通用します。お客さまにとって大事なのは雇用形態ではなく、何件の電話にどう答えてきたかという事実です。プロフィールには「派遣」ではなく、対応した業界・年数・応対の種類を具体的に書いてください。肩書きより実績の数字のほうが、ずっと強く信頼されます。
Q.人と話すのはもう疲れました。応対経験を、話さない形で活かせますか?
活かせます。応対経験の核心は「相手の言葉を整理する力」なので、トークスクリプトの作成、FAQやマニュアルの整備、チャット対応の設計など、書く仕事に転用できます。電話に出続ける働き方を、そのまま事業に持ち込む必要はありません。
まずは一度だけ、これまで応対で答えてきた質問の種類と、1日の対応件数をかけ算してみてください。何万件という答えの蓄積が数字で見えたとき、「誰でもできる仕事」という他人の評価は、あなたの中で静かに効力を失います。

10年間、名乗らない誰かの困りごとに声だけで向き合い、こうして自分の売り物まで調べに来たあなたなら、その経験に正しい値段を付ける設計もきっとやり遂げられます。
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