記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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起業の準備を始めたものの、「結局、自分は何を売ればいいのか」で止まったまま動けなくなる方は本当に多いです。アイデア本を読んでも、セミナーに通っても、自分の番になると手が止まります。原因は能力が足りないからではありません。強みを探す順番が逆になっているだけです。
多くの方が「世の中で売れそうなもの」から探し始めて、自分の中を最後に見ます。順番を入れ替えるだけで、商品の輪郭は驚くほど早く立ち上がります。
今日は、一人きりでも進められる強みの棚卸しの順番を、手順に沿って整理します。
なぜ「何を売るか」で止まるのか

市場から探すと、自分が消える
売るものが決まらない方の大半は、探す方向が外側を向いています。流行っている業種や、儲かりそうなジャンルから入って、そこに自分を当てはめようとします。けれども市場は無数にあって、当てはめ方も無数にあります。だから比較が終わりません。
何を売るかは、市場から逆算するのではなく、自分の中にすでにあるものから組み立てるほうが早く決まります。探す対象を「世の中」から「自分」に変えるだけで、選択肢が一気に絞られます。
「名もなき強み」に目を向ける

履歴書に書けないスキルこそ価値がある
強みと聞くと、資格や役職、表彰歴のような「履歴書に書けるもの」を思い浮かべがちです。しかし起業の現場で売り物になるのは、もっと地味なもののほうが多いです。私はこれを名もなき強みと呼んでいます。
拙著『起業神100則』でも、この名もなき強みを紹介しています。資格や肩書きには載らないけれど、職場でいつのまにか頼られている業務スキルのことです。たとえば、もめている取引先をなだめるのが妙にうまい。複雑な手順を初めての人にも伝わる言葉で説明できる。散らかった情報を一覧表に整理して見通しをよくできる。
本人にとっては「当たり前にやっていること」ほど、外から見るとお金を払ってでも頼みたいスキルになっています。当たり前すぎて自分では気づけないからこそ、棚卸しという作業が要ります。
- 段取りを組む力:
締め切りから逆算して人と作業を並べ替える、社内では当たり前の調整力 - 翻訳する力:
専門用語を素人にもわかる言葉に置き換えて説明できる力 - 気づく力:
相手が言葉にしていない不安や不満を先回りして拾う力
一人で棚卸しする4つの順番

STEP1 頼まれた仕事を書き出す
最初にやるのは、過去5年で人から頼まれた仕事を思い出して書き出すことです。「Aさんに資料の作り方を聞かれた」「後輩のクレーム対応に付き添った」のように、相手の顔が浮かぶ単位で書きます。理想や得意ではなく、実際に頼まれた事実だけを並べてください。50個を目安にすると、自分の輪郭が見えてきます。
STEP2 繰り返し頼まれたものに印をつける
書き出したリストの中で、何度も頼まれているものに印をつけます。一度きりの頼まれごとは偶然ですが、繰り返されているものは需要です。複数の人から同じことを頼まれているなら、それはすでに市場が存在している証拠です。印が集まった項目が、あなたの名もなき強みの候補になります。
STEP3 誰の役に立ったかを書き添える
印をつけた項目それぞれに、「誰が」「どう助かったか」を一行で書き添えます。「新人がミスをしなくなった」「上司が会議で迷わなくなった」のように、相手の変化を言葉にします。この相手の変化こそが、後で商品の価値そのものになります。
STEP4 一番喜ばれた一点を選ぶ
最後に、相手の喜びがいちばん大きかった一点を選びます。複数あっても、まずは一つに絞ってください。売るものは、いちばん多く頼まれたものではなく、いちばん深く感謝された一点から決めると軸がぶれません。ここまで来れば、「何を売るか」はもう半分決まっています。
棚卸しから商品へつなげる

小さく試してから値段をつける
棚卸しで一点に絞れたら、次は小さく試す段階です。選んだ強みを、まずは知り合い数名に無料か少額で提供してみます。机の上で完璧な商品を設計するより、相手の反応を見ながら形を整えるほうが、はるかに早く売れる形にたどり着きます。
ここで一人の会員さんの話を紹介します。起業18フォーラムの会員で、メーカーの品質管理を長く担当してきた高木さん(仮名・40代・男性)は、最初、独学で「品質管理コンサルタント」を名乗ろうとしていました。立派な肩書きを掲げたものの、何を売っているのか相手に伝わらず、半年間ほとんど反応がありませんでした。
転機は、起業18フォーラムの勉強会で頼まれ仕事を棚卸ししたことでした。書き出してみると、彼が繰り返し頼まれていたのは難しい検査手順を新人向けにかみ砕いて教えることでした。そこで「現場の手順書づくりを手伝うサービス」に絞り直したところ、知人の工場から相談が入りました。現在は勤めを続けながら、月に数件の手順書づくりを請け負い、月10万円ほどの収入になっています。立派な肩書きをいったん外して、繰り返し頼まれた一点に絞ったことが、彼の転機でした。
- 知り合いに試す:
選んだ強みを数名に無料か少額で提供し、反応を確かめる - 言葉を借りる:
「助かった」と言われた相手の言葉を、そのまま紹介文に使う - 値段は反応で決める:
最初の数名の手応えを見てから、本格的な価格を決める
公的データが示す「経験を生かす起業」
自分の経験を商品にする流れは、特別な人だけの話ではありません。日本政策金融公庫の2024年度新規開業実態調査では、開業の動機として「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」を挙げた人が46.0%にのぼりました。つまり開業する人のおよそ半数が、ゼロから新しいことを始めるのではなく、これまで積んできた経験を起点にしています。あなたが棚卸しで見つける名もなき強みも、その経験の一部です。

よくある質問

頼まれた仕事が何も思い出せません。どうすればいいですか?
いきなり50個を埋めようとせず、直近の一週間をふりかえることから始めてください。同僚から「ちょっといい?」と声をかけられた場面を思い出すと、案外出てきます。それでも浮かばないときは、家族や友人から頼まれたことも含めてかまいません。仕事の枠を外すと、相談に乗るのが得意、調べ物が速い、といった日常の強みが見えてきます。
棚卸しで見つけた強みが地味すぎて、売れる気がしません。
地味だと感じるのは、あなたにとって当たり前になっているからです。本人が「こんなことで」と思うものほど、できない人にとっては価値があります。値段がつくかどうかは、自分の感覚ではなく相手の反応で決まります。まずは知り合い数名に試してもらい、「助かった」と言われるかどうかを確かめてみてください。
強みは見つかったのに、最初の一歩がなかなか踏み出せません。
完璧な商品にしてから出そうとすると、いつまでも始まりません。20点でいいので、今週中に一人だけ選んで試してもらってください。相手の反応が、次に直すべき点を教えてくれます。準備が整う瞬間を待つより、小さく出して育てるほうが、結果的に早く形になります。
今日から始める棚卸し

売るものが決まらないのは、あなたに強みがないからではありません。自分の中にあるものを、まだ書き出していないだけです。市場をいくら眺めても答えは出ませんが、頼まれた仕事を紙に並べれば、商品の芽は必ず見つかります。
起業18フォーラムでは、こうした名もなき強みを一緒に掘り起こし、商品の形に整えていく作業を勉強会で進めています。一人での棚卸しに行き詰まったときは、同じ会社員仲間と書き出してみると、自分では気づけなかった強みが見えてきます。
方向性がある程度固まったあとで、創業の相談窓口や公的な支援制度に触れると、それらは一気に役立つ道具になります。順番としては、まず何を売るかの方向を自分の中から決め、それから制度を使う流れがおすすめです。今日できることは、過去に頼まれた仕事を紙に書き出すだけで十分です。
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