工場の現場で身につけた技能は起業の武器になる? 資格がなくても売れる道とは

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

自動車部品の工場で生産技術をやっている30代の男です。ラインの段取りや不良の原因つぶしをずっとやってきましたが、特別な資格があるわけでもなく、しょせん工場の中でしか通用しない仕事だと思っています。

こういう現場の経験で起業なんてできるものなのでしょうか? つぶしが効かないと感じていて、何を売ればいいのかもわかりません。

起業前質問集

● 回答

結論からお話しすると、工場の現場経験は起業に十分使えます。むしろ、ご自身が「つぶしが効かない」と思い込んでいる現場知こそ、外に出ると驚くほど重宝される武器になります。

ただし、いきなりコンサルタントや研修講師を名乗る必要はありません。私がこれまで会社員の起業準備を支援してきたなかでも、製造現場の方が最初につまずくのは、たいてい「肩書をどう作るか」で止まってしまうところでした。順番に整理していきます。

まず避けたい「いきなり大きく見せる」失敗

現場の方が起業を考えると、なぜか最初に「カイゼンコンサルタント」のような立派な看板を作ろうとします。気持ちはわかります。資格も肩書もないぶん、何かで権威づけしないと相手にされない気がするからです。

  • 立派な肩書から作ろうとする:
    名刺やホームページを整える前に売るものが定まらず、いつまでも準備だけで止まる
  • 大企業向けの本格コンサルを目指す:
    実績ゼロの状態で大手に提案しても、信用の壁が高すぎて入口にすら立てない
  • 資格取得から入ろうとする:
    品質管理検定などの勉強に時間を使い、肝心の「誰の何を助けるか」が後回しになる

この遠回りは、現場の技能を「教える商品」にしようとした瞬間に起きます。教えるには体系化が要りますし、相手は経営層になりがちで、信用づくりのハードルが一気に上がるからです。技能そのものは確かにあるのに、売り方を一段高く設定しすぎて動けなくなるのが製造現場出身者の典型的なつまずきです。

あなたは「何に詳しい人」と呼ばれてきたか

では、どこから手をつければいいのか。出発点は資格でも肩書でもなく、ご自身の強みの棚卸しです。拙著『起業神100則』では、自分の強みを見つける手がかりとして、まわりから「何に詳しい人」と呼ばれてきたかを思い出すことを紹介しています。

生産技術の現場であれば、段取り替えの時間短縮、不良の原因をたどる勘どころ、5Sや治具の工夫といった、あなたにとっては当たり前の動作があるはずです。社内で「あの件はあの人に聞け」と名前が挙がる領域こそ、外でお金になる強みの種になります。そのぶん本人にとっては当たり前すぎて、価値があると気づきにくいだけなのです。

まずは「現場で何度も頼られてきたこと」を10個ほど書き出してみてください。商品やサービスの形を先に決めるのではなく、頼られた場面を並べるところから始めると、そこに、あなただけの商品の輪郭が見えてきます。

現場知を「小さな改善支援」として売る

強みが見えたら、それをコンサルや研修ではなく、もっと小さく具体的な「改善支援」として売る道を考えます。たとえば、近所の小さな町工場や食品加工の現場には、生産技術の専門部署がありません。段取りが属人化していたり、在庫や工程の動線が整っていなかったりするのに、誰も手をつけられずにいます。

そこへ「半日だけ現場を見て、すぐ直せる無駄を一緒に洗い出す」という形で関わると、相手は身構えずに頼めます。大上段のコンサルではなく、現場の隣に立って一緒に直す人。これなら資格も大きな実績もいりません。

最初の一歩は、勤め先ではなく半日で着手できる小さな現場を最初の相手に選ぶことです。規模の大きな案件は信用が育ってから取りにいけば十分です。

  • 対象:
    専門部署を持てない小規模な製造・加工の現場
  • 売り物:
    段取り短縮・整理整頓・不良削減など、半日で着手できる小さな改善
  • 立ち位置:
    教える講師ではなく、現場で一緒に手を動かす伴走役

こうした道に踏み出す人の裏づけもあります。日本政策金融公庫総合研究所「2024年度新規開業実態調査」では、開業の動機として「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」を挙げた人が46.0%にのぼり、動機の上位を占めています。

資格や肩書ではなく、現場で積み上げた経験そのものを元手に起業する人が、実際にこれだけいるということです。その経験の一つに、あなたが現場で磨いてきた段取りや不良つぶしの勘どころが、そのまま当てはまります。

月4万円から始めた、ある現場出身者の歩み

起業18フォーラム会員の寺田さん(仮名・30代・自動車部品工場の生産技術)も、ご自身と同じく「自分の技能は工場のラインを離れたら値段がつかない」と思い込んでいました。転機になったのは、かつての工場のOBから「知り合いの町工場が段取りで困っている」と紹介を受けたことでした。

半信半疑で半日だけ現場を見に行き、段取り替えの手順を一緒に見直したところ、相手にとても喜ばれたそうです。そこで初めて、自分の当たり前が外では価値になると実感できました。最初の半年は、休日に月1件か2件だけ請け負い、月4万円ほどの収入でした。金額は小さくても、勤め先の評価とは別の場所で、自分の名前で頼られた手応えは大きかったと話しています。

現在は紹介が紹介を呼び、いくつかの小さな現場を定期的に見ています。寺田さんを動かしたのは新しい資格ではなく、すでに手のなかにあった現場の段取り力でした。あなたが今日できることは、これまで現場で頼られてきた具体的な場面を、ノートに10個書き出してみるだけで十分です。

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● 質問 メーカーで品質管理やデータ分析の仕事をしてきましたが、特別な資格もなく、社外で通用する強みが自分にあ

つぶしが効かないという感覚は、現場の中だけで自分を測っているうちは、なかなか消えません。けれど一歩外に出れば、あなたが手放そうとしているその段取りの勘を、まさに必要としている小さな現場があります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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