記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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起業準備を始めた会社員の多くが、開業届を出す前に机とパソコンをまとめて買いそろえてしまいます。実際のところ、起業準備で本当に必要な道具は、パソコン1台と自宅の通信環境、必要になった段階で契約する会計ソフトの3つだけで足りる業種がほとんどです。
形にすることで安心したい気持ちはよく分かりますが、机や機材の充実と、実際に売上が立つかどうかは別の話です。パソコンを持つべきかどうかの入り口論より前に押さえておきたいのは、実際に何かを買うと決めた瞬間に、優先順位と金額の上限をどう決めるかです。
起業準備の道具選びで最初に持つべき視点

起業準備という言葉を調べる人の多くが、最初に思い浮かべるのは机やパソコンといった目に見える道具です。形から入ることで、一歩踏み出した実感を得たいという気持ちはよく分かります。
起業準備の道具選びで一番大事なのは、何を買うかより、いつ・いくらまで使うかを先に決めておくことです。そこを決めないまま買い進めると、気づいたときには使わない道具ばかりが増えていることになります。
この段階でお金をかけるべきなのは道具ではなく、実際に売れるかどうかを確かめる工程だという考え方です。
起業準備を半年かけて組み立てる180日4ステージの考え方では、1ヶ月目を自分の強みの棚卸し、2ヶ月目を「最初の1円」を得る時期と位置づけます。
実際、開業にかける金額は年々小さくなる傾向にあります。
日本政策金融公庫の2024年度新規開業実態調査では、開業費用の中央値は580万円、250万円未満で始めた人が20.1%を占めています。
だからこそ、来店型の店舗や在庫を抱える業種でない限り、道具にかける金額もここまで大きくする必要はありません。
起業準備で最初にそろえたい3つの道具

起業準備の初期段階で本当に必要な道具は、突き詰めると多くありません。業種を問わず、最初に確認しておきたいのは次の3つです。
- ノートパソコン:
文字作業や事務処理が中心なら、普及価格帯の1台で十分な場合が大半。 - 通信環境:
自宅のネット回線とスマホのテザリングだけで足りる範囲。 - クラウド会計・請求書ソフト:
無料体験や小規模事業者向けプランと、サービスごとに異なる料金・機能・契約期間
クラウド会計ソフトの料金は、提供会社、契約期間、利用機能によって変わるため、契約時点の公式料金表で総額と機能を確認します。
高機能なプランは、売上や取引が増えてから切り替えても十分間に合います。
迷ったときは、まず今持っている端末とスマホで一件試してみて、それでも足りない部分だけを買い足す順番にします。
パソコン選びの基準は用途で決まる

パソコンを選ぶときに悩みやすいのは、性能をどこまで求めるかです。用途によって必要な水準はまったく違うので、自分がどのタイプに近いかを先に確認します。
| 作業タイプ | 具体的な作業例 | 必要なスペックの目安 | 予算の目安 |
|---|---|---|---|
| 文字・事務作業中心型 | 見積書の作成、メール対応、SNS発信の下書き | 普及価格帯のスペックで十分 | 7万円台からで足りることが多い |
| 画像・簡単な資料作成型 | 商品写真の加工、チラシやPDF資料の作成 | メモリに余裕を持たせると安定する | 10万円前後を目安にする人が多い |
| 動画・重い処理型 | 動画編集、容量の大きい画像処理 | CPU・メモリ・ストレージのバランスが要る | 15万円以上になることもある |
迷ったときは、動画編集のような重い処理をする予定があるかどうかだけを最初の分岐点にすると選びやすくなります。
動画編集の予定がないのに高スペック機を選ぶと、使わない性能に払い続けることになります。
買いすぎてしまいやすい道具と後回しでいい基準

逆に、多くの人が最初につまずくのが「買いすぎ」のほうです。
- 名刺・チラシの大量発注:
事業の内容が固まる前の発注は、刷り直し費用が発生する原因。 - 高性能な撮影機材:
最初はスマホのカメラで十分な場面が多く、必要性を感じてからでも遅くない範囲。 - 複数のサブスクリプションの同時契約:
似た機能のツールを重ねて契約すると増える、使わない分の固定費。
名刺やチラシをまとめて発注すると、内容変更のたびに刷り直しの費用が積み重なります。
どれも、事業の内容が固まってから、必要な分だけ足していけば十分な道具です。
三田さんが機材への出費を見直した経緯

三田さん(仮名・40代前半・経理事務の会社員)は、起業の準備を始めた当初、まず身の回りの環境を整えることから取りかかりました。
ノートパソコンを買い替え、名刺のデザインを何度も見直し、便利そうなアプリのサブスクリプションも次々に契約していきました。
ある月、家計簿アプリで直近のカード明細を見返していた三田さんは、支出の中身に驚きました。その支出のうち機材代が占める割合が、直近3ヶ月で7割に達していたのです。
それでも実際に売った商品はまだ一つもありませんでした。何かがおかしいと感じた三田さんは、起業18フォーラムの勉強会に参加し、他の会員の進め方を聞く中で、自分が2ヶ月目の「最初の1円」に届く前に、その先の段階で使う装備まで先取りして買ってしまっていたことに気づきました。
サブスクリプションは1つに絞り込み、新しい機材の購入をいったん止めて、手持ちのノートパソコンとスマホだけで3件の受注を目指すことにしました。
数ヶ月が経った今、月々の支出に占める機材代の割合は1割程度まで下がり、その分を材料費や広告のテストに回せるようになっています。
次の一台を選ぶ前に確認したい判断軸

次に何か一つ道具を買い足すかどうか迷ったときは、次の3点を順番に確認します。
- 今の作業で本当に困っているか:
道具のせいなのか、それとも別の理由なのかの切り分け。 - 買わずに済ませる方法がないか:
今持っているスマホや無料のツールで代用できるかどうかの確認。 - いくらまでなら出せるか:
検証期間中の費用として割り切れる金額の上限。
次の一台を検討するときは、いくらまでなら検証費として割り切れるかを先に決めておくと、後悔が減ります。
この3点を確認するだけでも、衝動的な買い物はかなり減らせます。
よくある質問

Q.起業準備でパソコンは絶対に必要ですか?
いいえ、業種によっては最初の数ヶ月をスマホだけで進めることも可能です。それでも足りないと感じた場面が出てきてから、用途に合わせて選ぶ順番で構いません。
Q.ノートパソコンはいくらくらいの物を選べばいいですか?
文字入力や事務処理が中心なら、普及価格帯の1台で十分な場合がほとんどです。動画編集など重い処理をする予定があるときだけ、予算を上げて検討します。
Q.名刺や印刷物は先にそろえておくべきですか?
事業の内容が固まりきっていない段階での大量発注はおすすめしません。まずは少部数で試し、内容が固まってからまとめて発注するほうが無駄が出ません。
Q.会計ソフトはいつから契約すればいいですか?
最初の売上や取引記録が発生するタイミングで契約を検討しても間に合います。料金と機能は契約時点の公式情報で比較します。
次の道具を買う前に立ち止まる基準

今、何か一つ買い足そうか迷っている道具があるなら、まずその金額を検証期間中に使う分として、いくらまでなら出しても後悔しないかを一度だけ計算しておきます。
道具を揃えることは起業の証明ではなく、事業が動き出してから必要になった分だけ整えていく後工程だと捉え直すと、最初に感じていた足踏みの正体が少し軽くなるはずです。
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