公認会計士の起業は何から始める? 資格を時給仕事で終わらせない準備の順番

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

公認会計士の資格を持っていると、独立を考えたときにまず頭に浮かぶのは税理士登録をしての開業ではないでしょうか。けれど「税務がやりたくて会計士になったわけじゃない」という方も少なくありません。監査法人で経験を積むほど、独立=監査の続きか税理士か、という二択に見えてくるものです。

この記事では、その思い込みをいったん外して、公認会計士という資格を起業にどうつなげるかを、準備の順番からお話しします。

ポイント 公認会計士の起業が「税理士開業」一択に見えてしまう理由

資格が高い人ほど入り口を1本に絞ってしまう罠

税理士

高い資格ほど「時間の切り売り」に閉じ込められやすい

公認会計士は、難関資格のなかでも開業権を持つ数少ない職業です。監査も税務も、自分の名前で請け負える。だからこそ独立のハードルは低いように見えます。けれど現場で多くの会計士の方と話してきて感じるのは、資格の格が高い人ほど、かえって入り口を1本に絞ってしまうことです。

監査の延長で監査を請けるか、税理士登録をして顧問業を始めるか。どちらも「時間あたりいくら」で動く仕事です。資格が立派だと、その資格の枠の中だけで独立を設計してしまい、収入も働き方も結局は時給型に縛られます。これは公認会計士という職業に特有のつまずき方だと思っています。

「会計士=税理士で開業」は思い込みにすぎない

厚生労働省の職業情報提供サイト job tag によると、公認会計士のうち自営・フリーランスとして働く人の割合は23.4%です。およそ4人に1人が独立しているわけですが、その多くが税務顧問を軸にしているのが実態でしょう。

ただ、これは「会計士の独立はそれしかない」という意味ではありません。決算の早期化支援、経理体制づくり、ベンチャーのCFO代行、M&Aの財務調査、補助金の事業計画づくり。会社の数字に強い人が求められる場面は、税務申告の外側に広く転がっています。独立の形を「資格でできること」から発想するのではなく、「困っている会社が何にお金を払うか」から考え直してみてください。

ポイント 会社員のうちに整える、起業準備の順番

勤めながら進める起業準備の4つのステップ

税理士

監査法人や事業会社に勤めながら準備を進めるなら、順番が大事です。いきなり辞めて事務所を構えると、顧問先ゼロの時間だけが過ぎていきます。次の順で進めると、収入を途切れさせずに独立の足場を作れます。

ステップ1:自分の数字の経験を棚卸しする

監査で見てきた業種、関わった会計論点、社内で頼られた場面を書き出します。「上場準備を3社見た」「製造原価の改善提案をした」といった経験は、そのまま商品になります。ここで大切なのは、肩書きではなく「何の場面で頼られたか」を拾うことです。

ステップ2:小さな入り口を1つ作る

最初から顧問契約を狙わず、まずは単発で受けられる小さな仕事を1つ用意します。月1回の決算レビュー、創業期の経理立ち上げ相談、月次のチェックなど。大きな契約を1本取りにいくのではなく、小さな入り口を複数持つほうが、独立後の収入はずっと安定します。

ステップ3:実名で信用が伝わる場を持つ

会社の数字に詳しい人は世の中に大勢います。そのなかから選ばれるには、相手があなたを見つけて「この人に相談したい」と思える接点が要ります。専門ブログでも、知人の経営者への定期的な情報提供でもかまいません。先に売り込むより、先に役立つ情報を渡しておくことです。

ステップ4:撤退ラインと出口を仮決めする

予算・期間・出口の3つを先に決めておきます。準備にいくらまで使うか、いつまでに最初の1件を取るか、うまくいかなかったらどう戻るか。決めておくと、迷ったときに動けます。

  • 監査・税務以外で頼られた経験の棚卸し
  • 顧問契約より先に単発の小さな仕事を1つ
  • 実名で相談される接点づくり
  • 予算・期間・出口の3点を先に仮決め

会社員を続けながらこの4つを回せば、辞めるかどうかの判断は後からで間に合います。

ポイント 「時給仕事」から抜けるためのフロー思考

小さな入りフローを増やすフロー思考への転換

税理士

公認会計士の独立で一番もったいないのは、せっかく自分の名前で仕事ができるのに、結局は監査法人時代と同じ「時間あたりいくら」の働き方を続けてしまうことです。

拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』に、ストック思考からフロー思考へという考え方が出てきます。大きな蛇口を1本ひねるのではなく、お金が少しずつ流れ込む小さな入り口を量産していく発想です。会計士にとってのフロー思考とは、決算1件、相談1件、レビュー1件という小さな入りフローを複数持ち、やがて自分が動かなくても回る仕組みに育てることです。

「銀の卵」を先に育てる

同じ本のなかで、不動産のような金の卵より先に、自分がいなくても回る仕組みである銀の卵を育てるべきだという話を紹介しています。会計士なら、自分の知見を教材や仕組みに変えることがこれにあたります。経理担当者向けの講座、ひな型の提供、若手会計士への業務委託。最初は自分の手で1件ずつ受けながら、少しずつ人や仕組みに渡せる部分を切り出していってください。

時間を切り売りするだけでは、年収には天井があります。job tag によれば公認会計士の年平均収入は810.8万円ですが、独立してもこの働き方のままだと、勤務時代と大きく変わらない景色になりがちです。だからこそ、小さな入り口を増やし、仕組みに変えていく順番が効いてきます。

ポイント 実例紹介:藤本さんが「税理士開業の思い込み」を外すまで

思い込みを外した会員さんのV字回復エピソード

税理士

起業18フォーラムの会員さんに、藤本さん(仮名・30代後半)という方がいます。大手監査法人のマネージャーで、独立はしたいけれど「会計士の独立なんて、結局は税理士で開業するしかない」と思い込んでいました。

最初は自己流で動きました。とりあえず税理士登録だけ済ませ、空いた時間に開業準備をしたものの、顧問先のあてはなく、半年ほど何も動かない時間が過ぎました。営業の仕方も分からず、「立派な資格があるのに何も起きない」という焦りだけが募ったそうです。

転機は、起業18フォーラムの勉強会で「小さな入り口を量産する」という考え方に出会ったことでした。大きな顧問契約を一気に取ろうとしていたことが、かえって動けない原因になっていたのです。藤本さんはそこで方針を変えました。

まず、知人の紹介で1社の月次決算を月1回だけ見る仕事から始めました。報酬は小さくても、毎月確実に頼られる関係ができました。やがて「経理の立ち上げも相談したい」と声がかかり、スポットの相談業務が少しずつ増えていきました。現在は勤務を続けながら複数のスポット契約を持ち、独立に踏み切る現実的な見通しが立っています。

  • 知:
    監査で培った決算と内部統制の知見
  • 人:
    月1回の小さな仕事から積み上げた経営者との信用
  • 金:
    単発契約を複数持ち収入の入り口を分散

藤本さんの変化は、特別な才能ではなく入り口の作り方を変えただけです。資格の枠から発想を外したことが、停滞を抜ける一歩になりました。

ポイント 公認会計士が起業でつまずきやすい落とし穴

独立前に知っておきたい3つの失敗パターン

税理士

会計士の独立には、この職業ならではのつまずき方があります。先に知っておくと避けられます。

専門性が高すぎて相手に伝わらない

会計の言葉のまま説明すると、経営者には届きません。「内部統制の整備」ではなく「決算で慌てない仕組みづくり」と言い換えるだけで、相手の反応が変わります。

資格の名刺だけで仕事が来ると思う

公認会計士という肩書きは強い信用ですが、それだけで依頼は来ません。日本公認会計士協会の会員数は2024年12月末で3万6,696人にのぼります。資格保有者は珍しくない時代です。肩書きの上に「何の場面で頼れる人か」を乗せて初めて選ばれます。

完璧な事業計画を待ってしまう

数字に強い人ほど、計算が合うまで動けません。けれど起業準備は20点で出して直していくものです。小さな1件を受けながら整えるほうが、机上の計画より早く前に進みます。

  • 専門用語のまま話して相手に伝わらない
  • 資格の名刺だけで依頼が来ると考える
  • 完璧な計画ができるまで動き出せない

どれも、数字に強い会計士だからこそ陥りやすい失敗です。逆に言えば、ここを外すだけで一歩抜け出せます。

ポイント よくある質問(FAQ)

公認会計士の起業についてよくある4つの疑問

起業前質問集

Q.公認会計士の独立は、やはり税理士登録が前提ですか?
税務顧問をやるなら税理士登録が必要ですが、独立の前提ではありません。決算支援、経理体制づくり、CFO代行、財務調査など、税務申告をしない形の独立も十分に成り立ちます。何を商品にするかを先に決めてから、必要な登録を考える順番がおすすめです。

Q.監査法人に勤めながらでも起業準備はできますか?
できます。むしろ収入があるうちに小さな入り口を1つ作っておくほうが安全です。就業規則の兼業規定は事前に確認しておきましょう。月1回の決算レビューのような無理のない範囲から始める方が多いです。

Q.独立に向いているタイミングはいつですか?
経験年数5年から10年あたりで独立する方が多いです。ただ年数そのものより、自分の名前で頼られる小さな実績が1つでもあるかどうかが目安になります。準備のなかでその1件を作ることを優先してください。

Q.顧問先のあてがありません。何から探せばいいですか?
新規開拓より先に、今つながっている人を見てください。前職の取引先、知人の経営者、士業仲間。月1回の小さな仕事を1件もらうところから信用が積み上がります。いきなり大きな契約を狙わないことが遠回りに見えて近道です。

ポイント まとめ:資格の枠を外すところから始める

小さな入り口から整えていく起業準備の要点

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公認会計士の起業は、税理士開業だけが道ではありません。会社の数字に強い人が求められる場面は、税務の外側に広がっています。大切なのは、資格でできることから発想するのではなく、困っている会社が何にお金を払うかから考えること。そして大きな契約を一気に狙うより、小さな入り口を複数持つことです。

藤本さんのように、月1回の小さな仕事1件から信用は積み上がります。今日できることは、監査や税務以外で自分が頼られた場面を3つだけ書き出してみるだけで十分です。そこにあなたの起業の入り口が隠れています。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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