記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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マーケターとして独立しようと思ったとき、最初にぶつかるのは「会社の看板を外して、自分の名前で案件が取れるのか」という壁です。広告運用もSEOも分析もできる。代理店時代に動かしてきた月予算は数千万円規模。それなのに、いざ自分の屋号で営業しようとした瞬間、見込み顧客が頭に1件も浮かばないのです。
ここでは、代理店または事業会社でマーケター経験を積んだ会社員のかたが、在職中から現実的に案件を立ち上げるための順序を、起業18フォーラム会員さんの動き方をもとに整理します。スキルではなく「顧客接点」と「単価設計」でつまずく方が多いのを見てきたので書きました。
マーケターの経験がそのまま「商品」になる理由

マーケターとして数字を動かしてきた年数そのものが、起業準備でいちばん値段の付く素材です。代理店または事業会社のなかで「月予算いくらの広告を回し、CPAをいくらまで下げた」という具体的な数字を持っている人は、その時点ですでに、再現できる型を手にしています。
マーケターさんが在職中に積んできた運用ログと意思決定経験は、コピーも転売もできない一次資料の塊です。これが最初の単価交渉の根拠になります。
電通の「2025年 日本の広告費」によると、2025年の総広告費8兆623億円のうちインターネット広告費が4兆459億円(構成比50.2%)と初めて過半数に到達しました。運用型広告・ソーシャル・動画と、マーケターさんが本業で扱う領域そのものが市場の主役に変わっており、独立後の案件供給は薄くなりにくい構造です。総広告費は前年比105.1%と、4年連続で過去最高を更新しています。
もう一つ追い風があります。ランサーズの「フリーランス実態調査 2024年」によると、フリーランス人口は1303万人、経済規模は20兆3200億円に達し、10年前と比較して人口は39.1%増、経済規模は38.8%増と公表されています。
発注側の企業がフリーランス活用を前提に予算を組む時代になっており、マーケターさんが業務委託で入る門は広がっています。市場が動き、発注先が分散し、社内マーケター不足を訴える中小企業が増えている、この3点が同時に起きているのが今のマーケター起業の地合いです。
拙著『起業神100則』に「名もなき強み」という考え方が出てきます。本人にとっては当たり前の動きが、外から見ると貴重なスキルとして値段が付く、という話です。
マーケターさんでいえば「Google広告の管理画面を見て30秒で異常値を指摘できる」「クライアントの会議で意思決定者の躊躇点を言い当てられる」が、これにあたります。資格でも書類でもない、運用してきた時間の中で身につけた感覚そのものです。
起業準備で先に決める3つのこと

広告運用やSEOといったスキル軸で自分を売り込もうとしても、見込み顧客の頭には残りません。マーケターさんが起業準備で最初に手をつけるべきは、管理画面の前ではなく、紙とペンを使った商売の輪郭の方です。決める順序を間違えると、せっかく取れた案件が継続契約に変わりません。
1.攻める業界の絞り込み
BtoB SaaS・EC・人材・教育・医療・不動産など、自分が代理店または事業会社で扱った業界のうち、最も知識資産が残っている領域を1つ選びます。「広告運用ができます」より「人材業界の応募単価を半額にした事例があります」のほうが、顧客の頭にはっきり残ります。
拙著『起業神100則』にも書いたのですが、対象を絞ると顧客の頭に残り、広げると誰の頭にも残らない、というのが商売の地味な現実です。マーケターさんの場合、扱える業界知識の深さがそのまま単価の天井になります。
2.提供サービスの形態
業務委託(運用代行)・アドバイザリー(助言契約)・スポット(単発診断)の3形態から、最初に走るものを在職中に決めます。在職中のマーケターさんに最も負担が軽いのはアドバイザリーで、月2回程度の打ち合わせと簡易レポートで月15万〜30万円が見えるからです。運用代行は管理画面の常時アクセスが必要になるため、稼働時間との相性で判断します。
3.顧客と継続する単価
1件のスポット契約で終わらせない設計を、最初の提案を出す前に決めます。月次のレポートMTGを契約に含めるのか、四半期ごとの戦略見直しを継続契約に組み込むのか、年間の伴走契約として最初から年契で出すのか。マーケターさんの売上はスポット件数ではなく月次契約のストックで決まるので、継続化の導線を初回提案書から仕込んでおくのです。
- 業界を1つに絞った肩書設計
- 業務委託・アドバイザリー・スポットから1形態先行
- 初回提案書に組み込む継続導線
単価設定とサービスメニューの現実的な水準

マーケターさんが値付けで一番つまずくのは、フリーランス案件サイトの相場を見て自分の単価を下げてしまうことです。レバテックフリーランスのデータでは、マーケター月額単価は週5常駐想定で62〜82万円という幅があり、時給では経験3年未満が1700〜4000円、シニア層は5000円以上とされています。
問題はその幅のどこに自分を置くかで、運用してきた予算規模と業界知識の深さで判断します。
代理店または事業会社で7年以上
運用予算が月100万円超の案件を継続して動かしてきたなら、初回からの業務委託は月30万円以上、アドバイザリー契約は月15万〜20万円が現実的な水準です。代理店時代の役職と関係なく、自分の運用ログで月予算規模・CPA改善幅・案件数を数字で語れる人は、その数字がそのまま単価の根拠になります。外資系コンサルファームの単価表ではなく、自分の運用実績そのものが値札の代わりです。
マーケター経験3〜6年
業務委託で月15万〜25万円、スポット診断で1件5万〜10万円が無理のない入口です。週1回2時間のレポートMTG+日常のチャット相談で月15万円という契約形態が、在職中のマーケターさんに最も組みやすい型です。
業務委託契約を結ぶ際は、本業の就業規則と競業避止義務の確認が必須で、同業他社や直接の競合企業を顧客にする場合はリスクが残ります。契約書には「業務時間外の稼働」「成果物の権利帰属」を明記してから受注します。
マーケター経験1〜2年
クラウドソーシングサイトやマッチングエージェントから入ります。月10万円前後のスポット案件を2〜3件積み、レビューと実績を作ったうえで3年目以降に単価を上げていきます。起業18フォーラム会員さんの中でも、ランサーズやWorkshipで月10万円の案件を半年回したあたりから、知人経由の直接紹介で月20万円超の案件が入り始める方が多いです。クラウドソーシングは練習期の場と割り切るのです。
起業18会員さんのマーケターケース

30代後半・大手代理店での広告運用歴12年・関東圏在住という会員さんの動きを紹介します。前職では月予算1000万円超の案件を複数担当し、ファッションEC・人材・教育の業界横断で実績を持っていました。それを独立後の仕事にしようと動き始めてから、最初の半年は売上ゼロでした。
最初に自己流で始めた頃は、屋号サイトを立ち上げて「Web広告全般・SEO・SNS運用・分析」と看板を並べていました。けれど問い合わせは月1〜2件で、しかも単価交渉で「もう少し安くなりませんか」と言われて取り下げる繰り返しでした。
「できることを全部並べれば誰かが見つけてくれる」という発想は、マーケターさんに限らず最も多い独立直後の落とし穴です。看板を増やすほど、誰の頭にも残らなくなるのです。
起業18フォーラムの勉強会に参加してから流れが変わりました。「業界を1つに絞り、その業界の言葉で語る」という提案設計を学び、自分が最も実績の濃かった人材業界に肩書を絞り直しました。屋号サイトを「人材業界専門のマーケター」と書き換え、過去の運用事例3件を匿名加工で公開したのです。
業界を絞った直後から、知人経由で人材会社2社からアドバイザリー契約の打診が入りました。月20万円×2社で月40万円の月次収入が安定し、その半年後には別の人材会社の業務委託契約が月35万円で追加されています。
現在は月の業務委託売上が90万円を超え、在職中のまま週末と平日夜の稼働で起業準備フェーズから半独立フェーズに移っています。運用スキルそのものは変わっていないのに、看板を絞っただけで案件単価と取得数が両方動きました。
- 知:代理店歴12年と人材業界の運用事例3件
- 人:起業18フォーラム勉強会と人材会社の知人ルート
- 金:アドバイザリー月20万円×2社から組み立て直し
マーケター起業でつまずきやすい4つのパターン

運用スキルとは別のところで挫折するマーケターさんが少なくありません。よくある詰まり方を4つ紹介します。
①スキル軸の看板で顧客を狭める
「Google広告運用専門」「SEO専門」と看板を絞った気になっても、それはマーケター側の都合でしかありません。中小企業の経営者が抱えている問題は「広告」でも「SEO」でもなく「売上が伸びない」だからです。
スキル軸で看板を出すと、検索する人の頭の中の言葉とずれて見つけてもらえません。業界×規模×悩みの段階で看板を組み直すと、急に見つけてもらえる確率が変わります。
②時給換算で単価を出す
代理店時代の年収から逆算して「時給5000円」と決めてしまうマーケターさんがいます。けれど業務委託の単価は時給で決まるのではなく「クライアントの売上への寄与」で決まります。月10万円の運用代行を引き受けて、クライアントの売上を月100万円上げているなら、単価は10万円ではなく30万円でも安いのです。時給ではなく「自分の介入で動いた売上の何%か」を単価の物差しにすると、月額は自然に上振れします。
③レポートで終わって意思決定にコミットしない
毎月のレポートを丁寧に出すマーケターさんが、契約更新でなぜか落とされるパターンです。原因は「数字は出ているけれど、次に何をすべきかが書かれていない」こと。クライアントが欲しいのは現状の数字ではなく、来月の意思決定そのものなのです。レポートの最後に「次にこれをやります」「やらない方が良いことはこれです」と書く運用に変えると、契約継続率は明確に上がります。
④自分の集客に時間を割けず案件枯れする
独立直後に取れた2〜3社の案件をこなしているうちに、自分の集客活動が止まってしまうケースです。半年〜1年で1社が解約になった瞬間、次の案件がないことに気づくのです。マーケターさんが他社のマーケティングを支援しているあいだも、自分の集客時間を週5時間は確保しておくのが鉄則です。SNS発信・知人への近況連絡・登壇機会など、種まきは止めない設計にします。
- スキル軸の看板で見つからない設計
- 時給換算の単価で寄与価値を下回る
- レポート止まりの意思決定なし
- 受注後の自分の集客停止
次のステップ:相談される側のマーケターへ

マーケターさんの起業準備は、新しいスキルを積み上げる時期というより、これまで積んできた運用ログと業界知識を「顧客が見つけられる肩書」に翻訳し直す時期です。
拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』に飛行機の比喩が出てきます。離陸前の滑走路を走る時期が必ずあり、そこで降りない人だけが空に上がる、という話です。マーケターさんでいえば、最初の半年〜1年は案件の取り方を組み替え続ける滑走路期に当たります。
在職中の今は、給与という安全ネットがあるからこそ、肩書の書き換えや業界の絞り込みを何度でも試せます。看板を業界軸で絞り直す、初回提案書に継続導線を組み込む、レポートに次の意思決定を書く。それが回り始めたら、業務委託・アドバイザリーの本数を増やしていきます。
マーケターさんの仕事は、クライアントの売上と長く伴走するほど信用が積み上がる商売なので、最初の1年は信用づくりの設計に時間を使うつもりで動くのです。
運用スキルは十分なのに踏み出せない、看板の言葉が決まらない、家族に独立リスクを心配されている、そういう状態のままでも、在職中なら「肩書の書き換えと初回提案書の手直し」だけで構いません。

次の一歩は、看板の業界を1つに絞ること。屋号サイトの「できること一覧」を消して、最も実績の濃い業界名を肩書に書き直すところからです。
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