保健師として起業するには? 企業の特定保健指導を外部から支える現実的な始め方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「保健師は名称独占資格だから、独立して食べていくのは難しい」と感じていませんか。一般の健康相談や研修を事業として提供する道はありますが、法定の特定保健指導を受託する場合は、保険者との契約や外部委託先の基準、担当者の資格要件を満たす必要があります。

2023年度の特定保健指導の実施率は27.6%でした。この数字だけから企業内の保健師不足を断定することはできませんが、保険者や委託事業者が実施体制を整える必要は続いており、病院や自治体で保健指導を担ってきた経験は、その体制を支える専門知になり得ます。

ポイント 保健師は資格だけでは独立できないという誤解

名称独占資格という誤解の正体と企業側の実態

保健師

保健師は、保健師助産師看護師法上の名称独占資格です。免許を持たない人は「保健師」を名乗れず、保健師の業務を行う際に紛らわしい名称を使用することもできません。一般の健康支援を事業にすることと、資格要件のある法定の特定保健指導を担当することは分けて考える必要があります。

つまり、独立を妨げているのは法律ではなく、保健師のキャリアの多くが病院・自治体・健康保険組合といった雇われる勤務に集中してきたという実情です。厚生労働省が公表した2023年度の特定健診・特定保健指導実施状況では、特定保健指導の実施率は27.6%にとどまり、2022年度の26.5%からわずかに伸びたものの、目標水準にはまだ届いていません。

この乖離があるからこそ、外部委託基準を満たす事業者の一員として、または基準を満たす体制を整えて、特定保健指導を支える保健師の出番が生まれます。

ポイント 特定保健指導を外部から支える仕組み

義務を負う保険者と中小企業に広がる外部委託

保健師

特定保健指導の実施義務を負っているのは、企業そのものではなく健康保険組合や市区町村国保などの保険者です。高齢者医療確保法に基づき保険者が特定保健指導を行い、後期高齢者支援金の加算・減算は、実施率だけで自動的に決まるのではなく、国が定める複数の評価指標と基準により判定されます。

保険者は特定保健指導を外部へ委託できますが、委託先は厚生労働省の基準を満たす必要があります。常勤の管理者や統括者を置くなどの体制が求められ、初回面接、行動目標・支援計画の作成、実績評価は、医師・保健師・管理栄養士が担うこととされています。

地元の健康保険組合で16年、保健師として特定保健指導を担当してきた三浦さん(仮名・50代前半)も、この構造に気づいた一人です。三浦さんは、業務とは畑違いの異業種交流会に自分から3回連続で足を運びました。参加していた中小企業の総務担当者から「うちは保健師がいないから、特定保健指導の実施率が全然上がらない。外部の人に頼めるなら頼みたい」と言われたことが、独立の輪郭が見えた最初の瞬間でした。

  • 面談実施:
    対象者との初回・継続面談の代行
  • 記録作成:
    保健指導支援記録の作成と保険者への提出業務
  • 評価対応:
    実施率や成果指標の集計と保険者への報告

自分の経験をこの3項目に当てはめて言葉にしておくと、交流会や勉強会で聞かれたときにすぐ説明できるようになります。

ポイント 三浦さんが最初の一社と契約するまで

契約範囲を決めずに動いた最初の壁とやり直し

保健師

最初の依頼を受けたとき、三浦さんは契約の範囲も回数も決めないまま、困っている人を助けたいという気持ちだけで動きました。面談の予約が入るたびに無償に近い時間で対応し続け、3ヶ月目には仕事と身体の余力が同時に尽きかけました。

この状態を変えたきっかけは、疲労が限界に近づいた週末に、自分の稼働時間を紙に書き出してみたことでした。面談の依頼が来るたびに際限なく応じていた動き方に気づいた三浦さんは、起業18フォーラムの勉強会で他の会員から「契約する範囲と回数を先に決めておく」という進め方を聞き、自分の契約ルールを組み立て直しました。以来、面談1件ごとの契約書には、対応件数の上限と報告範囲を必ず明記するようにしました。

最初の1社限りだったスポット契約は、10ヶ月で3社との年間契約に育ちました。面談1回あたりの単価と対象人数を先に決めてから提案するようになったことが、契約を安定させた一番の要因です。

ポイント つまずきやすい契約範囲と料金設計

雇用と外部委託で変わる裁量とリスクの違い

保健師

営業の経験がないまま独立することに、不安を感じる保健師さんは少なくありません。最初に決めるべきは、営業トークの上手さではなく、契約書に書く項目そのものです。

  • 法定の特定保健指導:
    保険者または外部委託基準を満たす受託事業者との契約条件に沿った担当
  • 企業との直接契約:
    法定の特定保健指導と混同しない一般健康相談・研修の業務範囲
  • 契約の表示:
    法定業務と一般サービスの区分、実施主体、責任範囲の明記

三浦さんは、対象者10人までのプランを月3万円からという目安で提示し、人数に応じて金額を積み増す方式に落ち着きました。契約書には、面談の実施回数・報告の範囲・途中解約の条件を必ず明記しておきます。口約束のまま進めると対応範囲が際限なく広がり、三浦さんが最初に直面した消耗を繰り返すことになります。

ポイント 何に詳しい人と呼ばれているかを言葉にする

臨床経験でなく実務知を看板にする発想の転換

保健師

著書『起業神100則』では、「何に詳しい人と呼ばれているか」を自分に問う考え方を紹介しています。三浦さんに置き換えると、答えは看護の経験がある人ではなく、特定保健指導を最後まで回せる人でした。

保険者や委託事業者が評価するのは、資格に加えて、特定保健指導を基準に沿って計画から報告まで回し切れる実務知です。企業と直接契約する一般の健康相談・研修では、法定業務との違いを説明できることも欠かせません。

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ポイント よくある質問

契約・料金・勤務先への配慮に関する疑問への回答

起業前質問集

Q.保健師は開業権がないのに、独立して仕事を請け負えますか?

一般の健康相談や研修などを独立して提供することはできます。法定の特定保健指導を請け負う場合は、保険者または外部委託基準を満たす事業者と契約し、資格・人員体制・記録管理・個人情報保護などの要件を満たす必要があります。

Q.特定保健指導の外部委託は、どんな契約形態が多いですか?

保険者や委託事業者との業務委託、委託事業者での雇用などの形があります。個人で直接受託できるかは、外部委託基準を満たす人員体制や契約条件によって決まるため、最初は基準を満たす事業者の募集・再委託条件を確認する方法が現実的です。

Q.営業の経験がなくても、契約先を増やせますか?

保険者や特定保健指導の受託事業者の募集・契約要件を調べるところから始められます。営業トークより先に、自分が担当できる業務範囲、資格証明、個人情報の取扱い、記録の提出方法を整理しておくことが重要です。

Q.勤務先に知られずに、独立の準備を進められますか?

個人の情報発信を控えめにし、今の勤務先と重ならない業種・地域から契約先を選べば、周囲に知られる前に準備を進められます。就業規則の兼業規定は、動き出す前に必ず確認しておきます。

ポイント 資格でなく実務知を看板にする独立の形

臨床から企業支援へ踏み出す最初の実務の一歩

point

保健師という資格だけで、特定保健指導の受託要件を満たすわけではありません。それでも、法定の基準と契約条件を確認したうえで実務知を提供すれば、保険者や委託事業者の体制を支える仕事につながります。

三浦さんが最初に踏み出したのは、畑違いの交流会に自分から3回足を運んだという行動でした。次に踏み出すのは、あなた自身の1件になります。

まずは、特定保健指導を受託している事業者や保険者の募集要項を1件確認し、自分の資格と経験で担当できる範囲、契約形態、外部委託基準を照らし合わせます。一般の健康相談を試す場合も、法定の特定保健指導と混同しないサービス名と範囲にします。

有料で受ける前に、契約範囲、料金、記録の管理、個人情報の取扱い、事故時の責任分担を文書で確認します。実務を始めてから契約条件を決める順番にはしません。

「自分には資格しかない」と感じている人ほど、実は現場で積み重ねてきた保健指導の実務知という資産を見落としているものです。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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