記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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起業準備を始めたばかりの頃は、誰でも気持ちが高ぶります。本を何冊も買い、平日の夜も週末も机に向かい、ノートには事業計画がびっしり。ところが、その勢いが強い人ほど、数週間後にぱたりと止まってしまう場面を何度も見てきました。
やる気が足りなかったわけではありません。むしろ逆で、最初に張り切りすぎたことが脱落の入口になっていたのです。今日は、続く人が静かにやっている「小さな設計」について紹介します。
飛ばしすぎる人が止まる仕組み

起業準備は短距離走ではなく、長い距離をゆっくり進む種類のものです。にもかかわらず、スタート直後に全力疾走してしまう方は少なくありません。最初の2週間で本を5冊読み、毎晩2時間ノートに向かい、週末は丸一日を準備にあてる。これだけ聞くと立派な滑り出しに見えます。
ところが本業の繁忙期が来たり、家族の予定が入ったりした途端、そのペースは崩れます。一度崩れると「あれだけやっていたのに止まった自分」への失望が重なり、再開のハードルが一気に上がります。これが、勢いのある人ほど早く脱落する仕組みです。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、やる気満々で始めることをむしろ必敗パターンと呼んでいます。続けられる範囲をはるかに超えた負荷でスタートするからこそ、最初のつまずきで折れてしまうのです。
脱落は一気にではなく徐々に起きる

事業を始めた人がどう減っていくかを示すデータがあります。中小企業白書2017年版(出典・帝国データバンク)によると、起業後の生存率は1年後で95.3%、3年後で88.1%、5年後で81.7%でした。注目したいのは、ある時点で急に大量に脱落するのではなく、毎年少しずつ減っていく点です。
そのぶん、最初の勢いだけで先が決まるわけではないことが見えてきます。続くかどうかを分けるのは初速の大きさではなく、息切れせずに歩き続けられるペースを持っているかどうかです。勢いよく駆け出した人が必ずしも長く残るわけではない、ということをこの曲線は静かに語っています。
私のこれまでの起業支援の経験でも、半年後・一年後に残っているのは、地味でも毎週同じ歩幅で進んでいた人のほうでした。最初に目立っていた人ではなかったのです。
続く人がいる「継続可能ゾーン」

では、どうすればよいのでしょうか。鍵になるのが「継続可能ゾーン」という考え方です。これは、自分が無理なく続けられる負荷の範囲を指します。やる気が満ちている瞬間に決めた目標ではなく、調子が悪い日でもこなせる小ささに、あえて目標を下げて設定するのです。
たとえば「毎晩2時間」ではなく「夜に15分だけ机に向かう」。「週末は丸一日」ではなく「日曜の午前に1時間」。物足りなく感じるくらいがちょうどよいのです。調子のいい日に基準を作らず、いちばん疲れている日でも続けられる量を基準にしてください。
もうひとつ、続く人は自分の「地雷」を先に把握しています。やる気を一気に削ぐポイントは人によって違います。完璧主義の人なら「資料を作り込みすぎて疲れる」、比較しがちな人なら「先に進んでいる人のSNSを見て落ち込む」。自分が何で気持ちを折られやすいかを知っておくと、その手前で立ち止まる判断ができます。
- いちばん疲れている日でもこなせる小ささに目標を下げる
- 物足りないと感じるくらいの分量で固定する
- 自分のやる気を削ぐ「地雷」を事前に書き出す
- 調子のいい日の勢いを基準にしない
20点でも形にして外に出す、くらいの軽さで十分です。完璧な準備が整う日は来ません。小さく続けることが、結果として最も遠くまで進む道になります。
飛ばしすぎから立て直した会員さんの話

起業18フォーラム会員の北川さん(仮名・40代後半・電機メーカーの技術職・大学生のお子さんがいる)も、まさに飛ばしすぎるタイプでした。起業を思い立った当初、北川さんは平日の夜は毎日3時間、週末は朝から晩まで準備にあてていました。最初の1か月は順調でした。
ところが本業で大きなトラブル対応が入った週、準備の時間がまったく取れなくなりました。その1週間の空白をきっかけにペースが崩れ、「これだけ自己流で頑張ったのに止まった」という自己嫌悪から、北川さんはそのまま3か月も手が止まってしまったのです。
転機は、起業18フォーラムの勉強会で自分のやり方を見直したことでした。負荷を一気に下げ、「平日は夜15分・日曜は午前に1時間だけ」という継続可能ゾーンに目標を組み直したのです。同時に、自分の地雷が「成果が見えないと一気にやる気を失うこと」だと気づき、毎週末に進んだ分を一行だけ記録する習慣を加えました。
小さく区切ったことで、北川さんは本業が忙しい週でも歩みを止めなくなりました。準備開始から9か月目に、社内研修で培った教える力を活かした技術者向けのオンライン講座を小さく開き、現在は会社員を続けながら月12万円ほどの収入が安定しています。最初に飛ばしていた頃より、はるかに遠くまで来たことになります。
次のステップ:今日の歩幅を決める

起業準備が続かないのは、あなたの意志が弱いからではありません。多くの場合、続けられないほど高い負荷で走り出していただけです。一気に距離を稼ごうとせず、いちばん疲れた日でもこなせる小ささまで目標を下げる。それだけで、止まりにくさは大きく変わります。
起業18フォーラムでは、一人ひとりの生活リズムに合わせて、無理なく続く準備のペースを一緒に設計しています。勢いで突っ走るのではなく、長く歩ける歩幅を見つけることのほうが、ずっと大切だからです。

今日できることは、明日の夜にやる15分の作業を一つだけ決めておくだけで十分です。速度は落としても、方向さえ変えなければ、いつか必ず遠くまで届きます。
よくある質問

Q.目標を小さくしすぎると、いつまでも前に進まないのではないですか?
- 止まらず続くことが最優先の時期
- 小さな歩幅でも積み重なれば確実に前進
- 慣れてきたら少しずつ負荷を足す調整可
準備の初期は、進む速さより「止まらないこと」のほうがはるかに大切です。小さな歩幅でも毎週進めば確実に距離は伸びますし、続ける感覚がつかめてきたら、無理のない範囲で少しずつ量を増やせばよいのです。最初から大きく構えて止まるより、ずっと遠くまで行けます。
Q.一度ペースが崩れて止まってしまいました。もう手遅れでしょうか?
- 止まった経験は脱落でなく一時停止
- 再開時は前より小さい目標に組み直す
- 止まった原因の「地雷」を一つ書き出す
止まったこと自体は珍しくありません。大事なのは、再開するときに以前と同じ高い負荷に戻さないことです。前より小さい目標に組み直し、なぜ止まったのかという原因を一つだけ書き出してみてください。同じ場所でつまずかなくなります。
Q.自分の「地雷」が何なのか、どうやって見つければいいですか?
- 過去にやる気を失った場面を思い出す
- その直前に何をしていたかを書き留める
- 共通する引き金が自分の地雷
これまでに気持ちが急にしぼんだ場面を、思い出せるだけ振り返ってみてください。その直前に何をしていたかを書き留めると、自分を折る引き金が見えてきます。資料の作り込みすぎ、他人との比較、成果が見えない不安など、人によって地雷は違います。まずは一つ見つかれば十分です。
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