マネーの虎【神回】カオソーイの大学生と安田社長から学ぶ! 起業する人にとって大切なこと

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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マネーの虎・カオソーイ回は、当時大学生の岡田耕児さんが安田久社長から404万円満額の融資を受けた「神回」として知られています。ですが、本当に注目すべきは融資成立の瞬間ではなく、そのあとに起こった「半年で消えた」失敗と、それでもなお安田社長との信用が糸一本残った理由の方です。

キッチンカーで初日217杯・売上11万5,300円を達成しながらも、岡田さんは半年後にノイローゼで実店舗経営を畳んでビジネスから姿を消しました。失敗のあとに何を残すか。起業準備中の人ほど、この回から学べる「出口設計」の教訓は重く響きます。

ポイント 伝説の番組「マネーの虎」とカオソーイ回

2001年放送・神回と呼ばれる回

マネ虎

今や伝説になっているテレビ番組「マネーの虎」は、2001年10月から2004年3月まで日本テレビで放送された人気プログラムです。起業志願者が、投資家(虎と呼ばれる社長たち)の前でプレゼンを行い、出資や融資を勝ち取りにいく真剣勝負のマネー系エンタメ番組です。

志願者は希望金額を提示します。それが出資か融資か、社内ベンチャーか、リターンは何か、当時は曖昧でしたが、社長たちの後日談では「広告宣伝費のつもりで、帰ってこない前提で出していた」と語られています。

本記事は、テレビ番組「マネーの虎」の動画スクリーンショットを使わずに、フリー素材で構成しています。番組のYouTubeアップロードは著作権法違反になるリスクがあるためです。
志願者さんのお名前については、複数のメディアやWebサイトで既に公開されている情報をもとに「岡田耕児さん」と表記しています。予めご了承くださいませ。

社長が机に積み上げた札束(おもちゃ)が希望金額に達すれば「マネー成立」となります。カオソーイ回は、試食前に貞廣社長が「ノーマネー宣言」を出すという波乱の展開から、最後は安田社長が1人で全額を出すという結末まで、ドラマ性が突出していたため『神回』と呼ばれています。

ポイント 「カオソーイ」とは・志願者の構想

ココナッツ風味のカレーラーメン

カオソーイ

カオソーイとは、タイ北部、ラオス北部の地元麺料理で、ココナッツ風味のカレーラーメンに近いものです。志願者の説明では、茹で麺の上に揚げた米麺(センヤイ)を乗せる2種類の麺を使う構成。ココナッツミルクを使うスープに、辛味・酸味・甘味が融合されたカレー味で、最初は揚げた麺でサクサクの食感、次第にスープに浸かりお米の麺が柔らかくなり、食感が変わる料理という売り込みでした。

志願者の岡田さんは、大学1年生の夏休みにタイへ放浪の旅に出かけ、チェンマイで出会ったこのカオソーイに惹かれて事業計画を組みました。日本人はカレーも麺類も好きだという仮説で、流行るのではないかと考えたそうです。さらに、チェンマイでは卵麺を使うのが一般的ですが、岡田さんは「パスタのカッペリーニ」を使いたいと言いました。

岡田さん曰く、「男性はもちろんのこと、女性もターゲットにしたいので、カッペリーニはカレーにも合う」という理由でした。ここで虎の貞廣一鑑社長が反論します。

「変えてはいけないものがある。麺を変えるのは、心臓を変えるようなことにならないか?」

岡田さんも引きません。日本人に合わせたローカライズだとアピールし、「現地のままのラーメンを持って来ても売れない」と言い切りました。市場調査の結果まで提出して、虎にアピール。試食に進んでいきます。

ポイント 出演した虎(社長)たちはどんな人?

5人のうち4人が飲食店経営者

出演した虎

カオソーイ回には、5人の虎(席順に左から)が出演しました。

<虎のプロフィール(当時)>
  • 貞廣一鑑(40歳当時)年商25億
    (株)ラヴ 代表取締役
  • 尾崎友俐(35歳当時)年商10億
    炭火焼肉店・ビール輸入・レストラン経営
  • 安田久(40歳当時)年商18億
    (株)エイチ・ワイ・ジャパングループ 代表取締役
  • 川原ひろし(39歳当時)
    行列のできる有名とんこつラーメン店
  • 樋口道也(40歳当時)年商16億
    (株)ドリーム 代表取締役

樋口社長以外は、皆、飲食店経営者です。マネー成立への期待は高まりますが、試食前に波乱が起こります。

「どうしても食べなくてはいけないですか?」

声の主は貞廣社長。市場調査の結果を見て「本場の卵麺が良いと言っている人間が40%もいる以上、食べたくない」と「ノーマネー宣言」を出したのです。すかさず川原社長が「貞廣さんの言うこともわかるが、食べてみないとわからない」と助け舟を出し、試食が進んでいきます。

注文から3分以内で出すという岡田さん。ラーメンを作り、ナンプラーのニンニク醤油で味付けした鶏むね肉を乗せ、レモンを絞って食べるよう説明します。貞廣社長は終始、微妙な表情を見せていました。

そして実食。尾崎社長は「全体的には美味しかった」とコメントしつつ「でも、違和感があるので、パスタと打ち出さない方がいい」とアドバイス。麺のプロである川原社長が決定的な一言を放ちます。

「好きだけど、この麺は好き嫌いがはっきりするからブームにならないと思う。」

これは起業家にとって悩ましい指摘です。次郎系のように尖って一部のファンを掴むか、万人受けするブームを仕掛けるか、飲食では実に答えの出にくい論点です。

安田社長の一言で、神回のマネー成立

続いて、安田社長がコメントします。

「魅力を感じるので、失敗してもいい前提で全額(404万円)投資します」

驚きの展開です。司会の吉田栄作さんが「この時点で合計額が希望額に届きましたので、マネー成立です」と告げます。安田社長は、岡田さんに声をかけました。

「失敗してもいい前提で思い切ってやってください、人生は長いのですから、以上」

マネーの虎の神回と呼ばれる所以が、この瞬間に詰まっています。

ポイント マネー成立後の準備期間で起きていたこと

貞廣社長の指摘が頭を離れない

カオソーイ

マネー成立後、岡田さんは安田社長の投資により事業準備に入りますが、貞廣社長の麺に対する意見が頭から離れず、麺選びに悩み続けます。タピオカ入り麺など様々な麺を試食しながら、一番良いものを探していきます。

キッチンカーの手配も進めながら、出店場所の交渉も並行します。目を付けたのはアウトレットモールの駐車場です。サラリーマン担当者は、起業した若者に容赦ありませんでした。直接そう言ったわけではないですが、空気として伝わってきます。

「うちの場所を貸すんだぞ。お前なんかにできんのか?」

起業すると、こういう扱われ方は当たり前のように起こります。私自身、過去にレンタル会議室の会社の若手担当者に「おい業者!」のような対応をされた際に「二度と、カウンターパートが社長(事業主)でない会社とは取引しない」と決めたことがあります。立場が逆転した瞬間に丁寧になる相手とは、長く付き合っても消耗するだけです。

動画の風景から、出店場所は三井アウトレットパーク 多摩南大沢ではないかと推測されています。

貞廣社長の呪縛は続く

岡田さんは最終的に麺を「卵麺」「米麺」「カッペリーニ」の3点に絞り込んでいきますが、どれが本当に適した麺なのか答えが出せません。安田社長に相談しても、経営者の厳しい言葉で跳ね返されます。

安田社長は岡田さんに対して、迷うこと自体が失敗を招くと一喝し、自分が投資したのはカオソーイという商品ではなく岡田さん本人だと言い切りました。

「お前に投資した」。この一言は、出資者と起業家の関係を端的に表しています。事業内容に投資するのではなく、人の意思決定の継続力に投資する。それが分かる経営者にお金を出してもらえた岡田さんは、その時点で恵まれた起業家だったと言えます。

ポイント キッチンカー初日:217杯・11万5,300円の達成と、安田社長の冷静な評価

目標達成も「失敗した方が良かった」

キッチンカー

カオソーイは、200食・売上10万円を目標に初日をスタート。麺は結論を出せないまま、3種類「卵麺」「米麺(クェイティオのセンレックというタピオカ入り中太麺)」「カッペリーニ」を並行提供する形になりました。

開店後、カオソーイは順調に売れていきますが、暗雲が立ち込めます。オペレーションが追いつかなくなったのです。なぜかチャーシューも切れてしまい、急遽100円値下げする始末。待ち時間が長くなり、クレームも出始めます。それでも、最終結果は「217杯・11万5,300円」。目標達成です。

ところが、安田社長は厳しい評価を下します。

「今日のような結果は望んでいなかった、失敗した方がはるかに学べたはず」

経営者として、本質に届いた一言です。表面的な売上達成より、初日の失敗から得られたはずの「自分の弱点を直視する経験」を惜しんだのです。結果として、岡田さんは初日の成功体験を持ち越したまま、その後の判断ミスに対する免疫を作る機会を失った可能性があります。

営業終了後、貞廣社長の登場

安田社長の素晴らしいアドバイスで番組が終わるかと思いきや、ここでなぜか、貞廣社長が登場します。そして麺を試食。最後に笑顔で「美味しいです」と一言、番組のエンディングを全てかっさらっていきました。

貞廣社長に言われた一言が引っかかっていた岡田さんには、最高の言葉だったでしょう。一方でメンツを潰されたのが安田社長です。後日談で「何でこんなことになるの?」と不満を口にしています。

ポイント その後の岡田さん:半年後のノイローゼと撤退

実店舗経営の挫折と姿を消した理由

キッチンカー

「初日成功したんだから、その後も順調に行ったのでは?」と思われるかもしれません。ですが、この話には重い後日談があるのです。

実は、その後失敗していた

カオソーイラーメンの岡田さんは、上の動画によると2019年3月時点で行方不明になっていました。インタビューしている岩井社長も驚いています。

安田社長によると、キッチンカー経営の後、岡田さんは実店舗も手がけたといいます。半年ほど経営した後にノイローゼ気味になってしまい、ビジネスをやめる結果になったとのこと。初日に217杯売れた飲食事業が、半年で経営者本人の心を削り切ってしまった、という現実です。

飲食店経営の半年というのは、独立準備で蓄えていた現預金が底をつき始め、毎月の家賃・人件費・食材費・光熱費の合計が「絶対に売上げないと回らない」防衛ラインを超えてくるタイミングです。創意工夫よりも、ただ回し続けるための作業に追われ、メニュー開発も人材育成も止まる時期。岡田さんが追い詰められた構造は、起業家のメンタル不調パターンとして決して珍しくありません。

それでも残った「お金の返し方」

ここが、岡田さんが「マネ虎史上、最も学びの深い志願者」と評される理由です。安田社長の話によると、岡田さんは姿を消す前に安田社長に対して融資の元金を返済したと言います。出資ではなく融資だったため、利息までは付けなかったものの、元金だけは綺麗に返したのだそうです。

事業に失敗してもお金をきちんと処理することが、信用を糸一本残せるかどうかの分かれ目になります。

ポイント 起業の出口設計:失敗のあとに何を残すか

マネ虎神回が教える教訓

カオソーイ

26年間で60,000人を超える方の起業準備を支援してきた中で、起業の入口の話よりも「出口」を相談されることの方が、実は多くなっています。事業を始めるときには「成功したらどうする」しか考えない人がほとんどですが、本当に必要なのは「失敗したときに何を残すか」の設計の方なのです。

マネ虎カオソーイ回の岡田さんが、姿を消したあとも安田社長との関係性において「信用が糸一本残った」のは、お金の処理を丁寧にやり切ったからに他なりません。これは岩井社長が驚いた様子からも、安田社長が今でも岡田さんの話を語れる関係性からも、明らかです。

<起業の出口設計・基本の3点>
  • お金の処理:借入・出資・前受金・敷金等の処理を丁寧に。元金返済の意思を見せられるかで、後の信用が決まる
  • 関係者への通知順序:取引先・顧客・スタッフ・出資者・家族の順に、撤退の意思を直接伝える。連絡なき消失は信用を全部削る
  • 記録の保存:失敗の原因分析を自分の言葉でまとめておく。次の挑戦のとき、過去の自分を一次情報として使える

拙著『起業神100則』にも、撤退と再起の判断について書いた章があります。起業準備中に身につけたい力は「闘い続ける力」ではなく「適切に逃げる力」で、事業がうまくいかないときに自分の人生を残せる人だけが、また次の挑戦の機会を手にできるのです。

ビジネスをしていれば、お金を持ったまま逃げてしまった、お金について質問すると急に態度が変わった、払わずに逃げたなどの話を、よく耳にします。そういう人に対して周りが持つ印象は、当然のことながら最悪なものになります。たった一度の処理の悪さが、その後10年〜20年にわたって信用を奪い続けます。

ポイント よくある質問

マネ虎カオソーイ回への素朴な疑問

point

Q1. カオソーイの大学生は、いま何をしているのですか?
A. 2019年3月時点で安田社長から見て「行方不明」と語られて以降、本人の公式な発信は確認されていません。実店舗経営の失敗とノイローゼ気味の状態を経て、ビジネスから離れたとされています。

Q2. 安田社長への融資はちゃんと返したのですか?
A. 安田社長の証言によると、元金は返済されたとのことです。利息までは付けなかったとされていますが、出資ではなく融資という条件で受けたお金を、姿を消す前に処理した点が評価されています。

Q3. キッチンカー開業の初期費用404万円は妥当な金額だったのですか?
A. 当時のキッチンカー開業相場は車両改造費200〜300万円、調理機材50〜100万円、初期食材費・出店保証金で合計300〜500万円が一般的でした。404万円は標準的な範囲です。

Q4. なぜカオソーイ回が「神回」と呼ばれるのですか?
A. 試食前に貞廣社長がノーマネー宣言を出す波乱、川原社長の助け舟、安田社長の単独全額投資、貞廣社長の最後の登場による感動的なエンディングという「ドラマの構造」が完成度高く成立しているためです。

Q5. マネーの虎の他の回で似た構造の神回はありますか?
A. 無国籍パスタ回(27歳フリーター・1800万円獲得)、ケバ丼回(トルコ人留学生・1800万円獲得)など、満額成立かつドラマ性の高い回がいくつかあります。

突然いなくなってしまったとしても、お金をきちんと返したことが、岡田さんに対する現在の安田社長や、それを聞いた岩井社長の印象に大きく影響しています。お金をきちんと返したという一点が岡田さんの信用として糸一本繋がっているという事実こそ、起業準備中の人が最も真剣に学ぶべきところです。

人は生きていれば、うまくいかないこともあります。心が不安定になることも、誰にでもあります。そんなときでも、岡田さんのようにお金に関する問題を綺麗にしておけば、次に繋がるチャンスはやってきます。失敗から「次」を作れる人は、失敗のあとの処理が丁寧な人です。マネーの虎カオソーイ回は、その教訓を25年経った今でも教え続けてくれています。

マネーの虎


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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