記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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作品が売れ始めて嬉しい反面、「これって確定申告がいるの?」と急に不安になる。その分かれ目は、売れた金額だけでは決まりません。会社の外で得た収入が事業所得か雑所得かは、活動の規模・継続性・営利性などを社会通念に照らして総合的に判断します。国税庁は令和4年(2022年)の通達で、帳簿書類の保存を重要な判定材料として示しました。
ハンドメイドやネット販売で少しずつ売れるようになると、多くの方が「年間いくらを超えたら事業所得なのか」と金額の一線を探し始めます。けれど、そこで立ち止まってしまうのは、判定の入口を金額だと思い込んでいるからです。実際の線引きは、もう少し違うところにあります。
この記事では、事業所得と雑所得がどこで分かれるのかを、国税庁の通達を手がかりに一つずつ整理します。ここで扱うのは「事業か、雑か」という区分の一点だけです。難しい計算の話ではありません。読み終えるころには、今日から何を残しておけばよいかが見えてきます。
分かれ目は「いくら売れたか」ではない

まず押さえておきたいのは、事業所得か雑所得かが、売上の金額だけで自動的に決まるわけではない、という点です。「年間20万円を超えたら」という数字を聞いたことがあるかもしれませんが、これは会社の外の収入について確定申告が必要になるかどうかの目安であって、事業所得か雑所得かを分ける基準ではありません。二つはよく混同されますが、別の話です。
国税庁が示している原則は、その活動が社会通念上、事業といえるかを、営利性・継続性・取引規模・設備や人的体制などの実態から総合的に判定する、というものです。一度の売上の大きさだけでなく、その商いをどのように営んでいるかが見られます。
2022年の国税庁通達が示した目安は「帳簿の保存」

この区分については、令和4年(2022年)に国税庁が所得税基本通達を改正し、判断の目安をはっきりさせています。実はこのとき、8月に公表された当初の案では「副業収入(主たる所得ではない収入)が300万円以下なら原則として雑所得」とされ、多くの反対意見が寄せられました。そして同じ年の10月7日、内容が修正されて公表されたのです。
修正後の通達では、その所得に係る取引を記録した帳簿書類を保存していれば、収入金額が300万円以下でも原則として概ね事業所得に区分する考え方が示されました。
ただし、収入が例年300万円以下で、かつ主たる収入(本業収入)に対する割合が10%未満の場合や、赤字が続いても利益を出す取組をしていない場合などは個別判断です。帳簿書類の保存がなく収入金額が300万円以下なら、原則として業務に係る雑所得に区分されます。この改正は令和4年分以後の所得税に適用されています。
帳簿を残しているかどうかが重要な目安になった一方、帳簿だけで機械的に決まるわけではありません。ここが、この通達を読むうえで大事なところです。
「趣味の延長」と「事業」を分ける3つの見方

ただし、帳簿さえあれば機械的にすべて事業所得になる、というわけでもありません。社会通念という言葉が残っているとおり、その商いが事業と呼べる実態を伴っているかも、あわせて見られます。趣味の延長で時々売れているのか、事業として繰り返し営んでいるのかの差は、次の3点に表れます。
- 取引の記録:
売上と経費を帳簿につけ、領収書や納品の記録などの書類を残している - 反復と継続:
一度きりでなく、繰り返し・継続して同じ商いを営んでいる - 営利の意思:
利益を出そうと値付けや改善を重ね、赤字を放置していない
この3つは活動実態を整理する手がかりです。最終的には、取引規模や設備・人的体制なども含めて総合的に判断されます。裏を返せば、記録もなく、たまたま売れただけの状態は、雑所得に寄っていくということです。
「開業届で損しないか」「否認されないか」への答え

ここまで読むと、気になるのは「では開業届を出して事業所得にすれば得なのか」「あとから税務署に否認されないか」という点だと思います。事業所得として認められ、さらに青色申告の承認、記帳、期限内申告などの要件を満たせば、青色申告特別控除を受けられます。事業所得の損失は、法定の範囲で他の所得と損益通算できる場合があります。雑所得にはないこの違いは、決して小さくありません。
ただし、開業届はあくまで届け出であって、それを出したから自動的に事業所得になる、というものではありません。実態が伴わなければ、後から雑所得と判断されることもあります。記録を残すことは重要ですが、それだけで区分が確定するわけでもありません。開業届を出すより先に、今日の売上と材料費をノートやアプリに書き留めるところから始めてください。
拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』でも、起業に成功や失敗はなく、あるのは「続けるか、やめるか」だけだと紹介しています。会社の外の収入も同じで、続けて記録している事実が積み重なるほど、それは検証中の趣味から、育てている事業へと近づいていきます。
記録を続けて検証期を事業に育てた篠塚さんの歩み

ハンドメイドのアクセサリーをネットで販売している篠塚さん(40代)は、最初のうち、売れても記録をつけていませんでした。趣味の延長のつもりで、確定申告も「これでいいのだろうか」と曖昧なまま過ごしていたそうです。売上は少しずつ伸びていたのに、自分の商いがどれくらいの規模なのか、本人がいちばん分かっていない状態でした。
ある月、篠塚さんはこれまでの販売履歴を、一度まとめて見返してみました。数えてみると、毎月コンスタントに注文が入り続けている。「これはもう、たまたま売れているのではないな」と、自分の残した数字を通して初めて手応えを感じたのです。
その手応えを確かなものにしたのが、起業18フォーラムの勉強会でした。事業所得と雑所得は金額だけでなく活動実態と帳簿書類から総合的に判断されると学び、篠塚さんは売上・材料費・送料を帳簿につけ始めます。趣味の期間を、事業になるかどうかを見極める検証期と捉え直したのです。記録を始めて13ヶ月目には、会社の外の収入が本業の月収のおよそ3割にあたる月10万円ほどで安定するようになりました。
私自身、起業準備のお手伝いを始めて26年、延べ6万人を超える方と向き合ってきましたが、こまめに数字を残して振り返る方ほど、伸びていくのが早いと感じています。記録は税務のためだけのものではなく、自分の商いの輪郭をはっきりさせてくれる道具でもあるのです。
会社の外の収入を事業として届け出て、口座やカードを整えていく段取りは、こちらでも取り上げています。

よくある質問

Q.会社の外の収入がいくらを超えたら事業所得になりますか?
金額の一線で自動的に切り替わるわけではありません。300万円は通達で触れられる目安の一つですが、帳簿書類の保存に加え、営利性・継続性・取引規模などを社会通念に照らして総合判断します。同じ売上でも、活動の実態によって区分が変わります。
Q.帳簿をつけていれば必ず事業所得になりますか?
帳簿書類の保存があれば原則として概ね事業所得と扱われますが、それだけで確定はしません。収入が例年300万円以下で、かつ主たる収入(本業収入)に対する割合が10%未満の場合や、赤字が続いても利益を出す取組をしていない場合などは、個別に判断されます。
Q.会社の外の収入が20万円以下なら確定申告はいらないのでは?
20万円は売上ではなく、必要経費を引いた所得金額です。給与収入2,000万円以下で年末調整済みなど一定の給与所得者が、給与・退職以外の所得合計20万円以下なら所得税の確定申告が原則不要となる制度で、所得区分とは別の話です。他の理由で確定申告する場合はその所得も申告し、所得税の申告が不要でも住民税申告が必要な場合があります。
Q.開業届を出せば事業所得として認められますか?
開業届は税務上の届け出であり、それだけで区分が決まるものではありません。帳簿書類に加え、営利性・継続性・取引規模など、実際の活動全体から判断されます。
迷ったら最初の一歩は「記録」から

事業所得か雑所得かは、金額だけでなく、活動の実態と帳簿書類を合わせて判断されます。金額の一線を探すより先に、今日の売上と経費を書き留め、継続性や取引規模も説明できるようにすることが、区分の面でも事業を育てる面でも近道になります。
そのうえで、判断に迷ったときは断片的な情報に頼らないことです。国税庁の「事業所得と業務に係る雑所得の区分」の公式解説を、一度だけでも最後まで読んでおいてください。SNSで流れてくる要約より、はるかに確かな土台になります。
記録を始めた日から、その活動は「なんとなく売れている趣味」から「育てている途中の事業」へと、立ち位置を変えていきます。数字を残す習慣が、あなたの商いに輪郭を与えてくれるはずです。
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