記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
勤め先に知られたくないので、名前も顔も出さずに発信しています。ただ、同じ分野で顔を出している人ばかりが依頼を受けているように見えて、このやり方のままで問い合わせが来るのか自信がありません。
顔を伏せたままでも、信頼して仕事を任せてもらえるものでしょうか?

● 回答
顔を出していないから選ばれないのではないか、と感じている方は少なくありません。顔出しなしで依頼を受け続けている方は実際にいて、その全員が実物・工程・数字のうち少なくとも1つを画面に置いています。顔写真は、そのあとに来る要素です。
日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査(2025年12月5日公表)では、日本公庫の融資先から抽出した開業者が現在苦労していることとして、最も多く挙がったのが「顧客・販路の開拓」の48.8%でした。次いで「資金繰り、資金調達」が36.2%です。
この調査は顔写真の効果を測ったものではないため、顔出しの有無が受注に影響するかは判断できません。ただ、まず顧客へ届く材料を整える必要があることは読み取れます。
顔を出すか出さないかの二択にした時点で止まる
ここで多くの方が、顔を出すか出さないかの二択で考えます。けれど依頼する側は、顔写真そのものを見て発注を決めているわけではありません。見ているのは、頼んだあとに何がどう変わるかです。二択のまま固まると、出せる材料が手元にあっても、そこに目が向かなくなります。
- 一般論だけの発信:
顔を伏せた代わりに当たり障りのない知識を並べ、誰の役に立つのか読み手に伝わらない状態 - 判断材料のないページ:
守秘のつもりで作業前後も所要時間も出さず、腕前を測る手がかりが1つもない入口 - 連絡先の未整備:
気に入った人が問い合わせようとしても、送り先が勤め先のアドレスしかない状態
顔の代わりに出せる材料は実物・工程・数字の3つ
では、顔の代わりに何を出すのか。ここが本題です。私が見てきた限り、顔を伏せたまま依頼を受け続けている方は、次の3つのどれかを必ず画面に置いています。
- 実物:
仕上がったものそのもの。作業前と作業後を並べた画像がいちばん強い材料 - 工程:
どんな順番で進めるか。所要時間や修正の回数まで書いた手順の記録 - 数字:
引き受けた件数、対応できる範囲、料金の目安など、比べられる形にした事実
この3つは、顔よりもずっと具体的です。顔写真は感じのよさまでしか伝えませんが、作業前後を並べた画像は、頼んだら何が変わるかをそのまま見せられます。
勤め先に伝わる経路は顔よりも自分の口
不安の中心にあるのは、顔そのものより勤め先だと思います。ただ、先に押さえておきたい順番があります。拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、勤め先に伝わるきっかけの多くが制度上の届け出ではなく、自分から話してしまうことだと紹介しています。飲み会でうっかり打ち明けた一言から広まった例を、私も何度も見てきました。
顔を隠すことに力を注ぐより、話す相手と使う名前を先に決めておくほうが効きます。勤め先の同僚には話さない、表に出す名前は本名と切り分ける、この2点を決めてから発信を始めてください。
顔を伏せたまま依頼が続くようになった遠山さんの例
起業18フォーラムの会員さんに、遠山さん(仮名・30代前半)という方がいます。アパレルの通販会社で商品ページの制作を8年担当してきた方で、社内では商品の並べ方と説明文が分かりやすいと言われ、他ブランドの担当者からも手直しを頼まれる役回りでした。
会社の外でその力を試したいと考えたものの、勤め先に知られるのが怖くて、名前も顔も伏せたままページの見せ方のコツを投稿していました。それを3ヶ月続けて、問い合わせは0件でした。
投稿の中身を変えたのは、顔を出していない人の解説動画を2週間で30本ほどまとめて見たあとでした。共通していたのは、画面に映っているのが手元と作業前後と数字だけだったことです。
そのあと遠山さんは起業18フォーラムの勉強会に出て、他の会員さんが何を見せて依頼につなげたのかを聞いて回りました。帰ってから自分の投稿を並べ直したところ、作業前後の画像も、かかった時間も、どこにも入っていませんでした。3ヶ月ぶんの投稿に載っていたのは感想だけだったと、遠山さんは話しています。
やり方を変えてからは、自分で作り直したページの作業前後を並べ、かかった時間と修正の回数を添えて出すようにしました。名前は本名を使わず、勤め先の話も書きません。9ヶ月目には月4件の依頼が続くようになり、今も顔は出していません。依頼の半分以上は、投稿を見た人からの紹介で届いています。
最初の1本に載せるものを1つに絞る
ここまで読んで、材料を全部そろえてから出そうと考えたなら、少し待ってください。3つとも用意しようとすると、たいてい出せないまま止まります。いま手元にあるものを1つ選べば足ります。
- 実物を選ぶ場合:
作業前と作業後を並べた画像を1枚だけ載せる形 - 工程を選ぶ場合:
受け取りから納品までの流れを箇条書きにした短い説明 - 数字を選ぶ場合:
これまでに引き受けた件数と、1件あたりの所要時間の目安
選ぶ基準は単純で、いちばん手間なく用意できるものが正解です。凝った見せ方は、反応が返ってきてから考えても間に合います。
実物・工程・数字のどれか1つを載せた投稿を1本だけ出して、返ってくる反応を確かめてみてください。反応がなくても、それは材料の選び方を知る手がかりになります。
勤め先に伝わる経路そのものが気がかりな方は、話す相手と使う名前の決め方から先に確認しておくと安心です。

顔を伏せる選択は、逃げではありません。守るものがある人が、続けるために選ぶ形です。画面に置いた材料が1つ増えるたび、顔の有無は相手の判断から外れていきます。
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