売上が1社に偏ったまま独立していい? もう1本の柱をつくるまでにやること

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

独立して最初の年の売上が、前の勤め先や取引先1社だけでほとんど埋まってしまう人がいます。原因は営業力ではなく、発注してくれる相手の数です。2本目の柱をつくる作業は、腕を磨き直すことではなく、当たる先を1本足すところから始まります。

ところが多くの人は、この状態を「営業が下手だから広がらない」と受け取ってしまいます。「発注元が1つしかないから広がらない」と読むかどうかで、次に打つ手は丸ごと変わります。

ポイント 売上が1社に偏る理由は営業力ではなく発注元の数

売上の偏りは営業力ではなく発注元の数で決まる話

フリーランス

受託でひとり立ちした人からの相談で、いちばん多い自己診断が「自分は営業が苦手だから広がらない」というものです。けれども案件の中身を聞いていくと、営業の巧拙より前に、そもそも声をかけられる相手が1社しかいない状態が先に来ています。

内閣官房日本経済再生総合事務局が2020年5月に公表したフリーランス実態調査でも、同じ形が数字に出ています。調査は2020年2月から3月にかけて実施され、7,478人が最後まで回答しました。事業者から業務委託を受けて仕事をしている人のうち、取引先が1社のみと答えた割合は約4割でした。

フリーランス法が施行される前の調査なので、この数字をそのまま現在の割合として読むことはできません。ただ、発注元が1社しかない人にとって、売上の偏りが営業力より先に発注元の数で決まることは変わりません。

ここを取り違えると、対策の方向が丸ごとずれます。営業トークを磨いたり、名刺を作り直したり、単価表を整えたりといった手当ては、どれも間違いではありません。ただ、入口が1つのままでは売上の内訳は動きません。

売上が1社に偏るのは営業力の問題ではなく、発注元の数がそのまま売上の内訳になっているだけです。直すべきは自分の性格ではなく、発注元の本数のほうです。

ポイント 発注元が1つだと値段も納期も相手の都合で決まる

価格も納期も相手が決める1社依存の力関係

入口が1つしかないと、条件の話し合いが成り立たなくなります。断ったら次がない状態では、こちらから出せる条件がないからです。実際に起きるのは、値決め・納期・閑散期・仕事の幅をめぐる不自由です。

  • 値決め:
    相手の予算枠に合わせるしかない価格
  • 納期:
    断りにくい急ぎの差し込み
  • 閑散期:
    担当者の異動や予算縮小でまるごと空く月
  • 仕事の幅:
    同じ作業の反復に寄っていく内容

発注が止まった月は、翌月の売上がまるごと空きます。受注量の波ではなく入口そのものが閉じるので、他の案件で埋め合わせるという発想が使えません。ここが、取引先が複数ある人との決定的な違いです。

ポイント 2本目の入口は大きく4つに分かれる

同じ相手の別部署から直接受注までの経路整理

フリーランス

2本目をどこに作るかは、大きく分けると次の4通りになります。それぞれ、立ち上がりの速さと引き換えに払うものが違います。

2本目の入口 当たり先の例 立ち上がりの速さ 気をつける点
同じ相手の別部署 いまの発注元の別の課・別の事業所 速い 担当者の顔をつぶさない頼み方
間に立つ会社 制作会社・エージェント・商社 速い 手数料の分だけ下がる単価
同業他社 発注元と同じ業界の別会社・知人からの紹介先 中くらい 競業の線引きと守秘の扱い
自分で直接 最終的な使い手にあたる会社や個人・公募や登録サイト 遅い 集客と見積りを自分で担う負荷

並べてみると、速さと自由度がきれいに逆を向いているのが分かります。近い入口ほど早く立ち上がる代わりに、条件は相手側に寄ります。遠い入口ほど条件を自分で決められる代わりに、立ち上がるまで時間がかかります。知人の紹介や公募で決まった仕事も、たどれば行き先はこの表のどれかに収まります。

だから、どれが優れているかではなく、どれから当たるかが問題になります。まずは、いまの発注元の中で自分の仕事ぶりを知っている人が他部署にいないかを思い出してください。

ポイント 当たる順番は発注元との距離で決まる

近い相手から順に当てる理由と飛ばした場合の代償

フリーランス

拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』の第5章「お金の流れを枯れさせない」では、入ってくる経路を1本に頼らず複線にしておく考え方を扱っています。太い流れを1本つくるより、細い流れの本数を足すほうが結果として早く形になります。2本目も同じで、当たる順番さえ間違えなければ本数は無理なく増えます。

順番を決める基準は、頼む相手との距離です。2本目は遠くの新規客からではなく、いまの発注元にいちばん近いところから当てたほうが早く立ちます。

すでに納品物を見ている人がいる場所では、実績の説明がほとんど要りません。名前も仕事ぶりも知られている状態から入れるので、いきなり中身と金額の話に進めます。

逆に、いきなり同業他社から当たると、いまの発注元との信頼を先に失うことがあります。順番を飛ばした人は、2本目ができる前に1本目を細くしてしまいます。

ポイント 売上の9割が1社だった状態から抜けた12ヶ月

1年分の見積書を並べて気づいた当たり先の少なさ

フリーランス

岡島さん(仮名)は50代前半で、電機メーカーの資材調達を20年担当してきました。退職後は、前職で付き合いのあった部品商社1社から購買代行と仕入先の開拓を受けていました。月の売上の9割が、その1社から入っていました。

最初の半年は問題なく回りました。ところが7ヶ月目に先方の担当者が異動し、月4件あった依頼が1件まで落ちました。営業をかけようにも、名刺交換の相手はその商社の人ばかりでした。

やり方を変えたのは、過去1年分の見積書を1枚の表に並べた日です。発注元は実質1社、請求書の宛名は2種類しかないと数字で見えました。腕が足りないのではなく、当たっている相手の数が足りていないだけだと、そこではっきりしました。

その後、起業18フォーラムの勉強会で、他の会員が同じ発注元の別部門から2本目を作った進め方を知りました。岡島さんの場合は、購買部門より品質保証の部門のほうが自分の経歴に近いと当たりをつけました。次回の勉強会までに、その部門が抱えていそうな工程の困りごとを3つ挙げ、面識のある購買担当に引き合わせを頼みました。

12ヶ月後、取引先は3社になりました。いちばん大きい取引先が占める割合は9割から5割台まで下がり、翌月の売上が読めるようになりました。金額そのものより、担当者の異動に振り回されなくなったことのほうが大きかったと本人は話しています。

ポイント 契約と条件は2本目ができてから整える

フリーランス法の書面義務と条件整理の順序

フリーランス

2本目を探し始めると、契約書の型や請求の締め日が気になってきます。ただ、整えるのは相手が決まってからで間に合います。使う場面が来ないうちに書式だけ作っても、たいてい作り直しになるからです。

それでも、最低限おさえておきたい制度があります。2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法では、この法律でいうフリーランス(従業員を使用しない受注事業者)へ業務を委託した側に、取引条件を書面や電子メールなどで明示する義務があります。

そのうち従業員を使用する発注事業者には、報酬の支払期日を、原則として物品を受け取った日や役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間内に定める義務もあります。

公正取引委員会と厚生労働省が2024年10月に公表した実態調査では、この法律の内容を知らないと答えたフリーランスが76.3%、発注する委託者側でも54.5%にのぼりました。2本目の相手が制度を知らないまま発注してくる場面は、珍しくありません。

  • 仕事の範囲:
    どこまでが依頼でどこからが追加かの線
  • 報酬と支払日:
    金額と締め日と入金日の3点
  • やり直しの扱い:
    修正回数と追加費用の目安
  • 途中でやめる場合:
    事前に伝える期間と精算の考え方

条件の明示がないまま始まりそうな仕事は、着手する前にメールで条件を確認してください。相手を疑う行為ではなく、法律が発注側に求めている手順を確かめているだけです。

制度は不利な扱いから守ってはくれますが、2本目の相手を連れてきてはくれません。入口を増やすところは、やはり自分で動いた分だけ進みます。

ここまで読んで、候補が1つも浮かばない人もいると思います。それでも構いません。今日は、先ほどの表の当たり先の欄を見て、名前が思い浮かぶ相手がいる行に印をつけるだけで十分です。

印がついた行が、そのまま今週動ける入口です。印のつかなかった行は、いま無理に触らなくて大丈夫です。

知人の紹介で回っていた仕事が途切れたとき、次は何から動けばいいですか?
● 質問 3年ほど前から、知り合いの紹介で頼まれた仕事を休みの日にこなしてきました。会社の仕事の合間に月に2件

ポイント よくある質問

2本目の相手探しでつまずきやすい疑問と答え

起業前質問集

Q.2本目の取引先を探すことは、いまの発注元に伝えるべきですか?

伝える義務はありません。ただし、業務委託契約書に競業避止や専属の条項が入っていないかは先に確認してください。同じ業界の別会社に当たる場合はとくに関わってきます。条項がなければ、こちらから切り出す必要はありません。

Q.前の勤め先から受けている仕事も、1社依存に数えますか?

数えます。関係が長いぶん安心感はありますが、決裁する人が1人しかいない点は他の取引先と変わりません。むしろ社内の事情で予算が動きやすく、こちらから条件を言い出しにくい分だけ、切れ方が急になりがちです。

Q.取引先を増やすのは、いまの相手に不義理になりませんか?

なりません。発注する側から見ても、1社の売上に頼りきった委託先は、そこが揺れたときに事業ごと止まるリスクを抱えています。取引先が複数ある人のほうが、長く付き合える相手として見られます。

Q.2本目ができたあとは、どこまで増やせばいいですか?

数を追う前に、2本目からの請求が2回続くかどうかを見てください。2回続けば、その入口は成立しています。そのうえで、いちばん大きい取引先の比率が下がる方向にあるかを、3ヶ月ごとに確認すれば十分です。

ポイント 2本目ができると1社との関係も変わる

比率が下がると交渉の余白が生まれる仕組み

point

入口が2つになると、1本目との付き合い方まで変わります。断れる余白ができるので、無理な納期や合わない金額に、その場で返事をしなくてよくなります。急ぎの差し込みを「来週なら手が空きます」と返せるようになるだけでも、月の組み立てはずいぶん楽になります。

2本目の入口は、今日決めきらなくても構いません。今週のうちに、いちばん近い部署の名前を1つ思い出しておいてください。来週は、その部署が困っていそうなことを聞くところから始められます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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